パパ・ンバイ・シキの述懐

「試合終了ー!! ウィンターカップ優勝は誠凛高校ー!!」
 アナウンサーの声が轟く。わぁっと歓声が上がった。
「誠凛が……勝っタ……?」
 ウィンターカップを見に来ていたセネガルの留学生、パパ・ンバイ・シキが呟いた。
「マサか……アンナに強くナっていたナンて……」
 パパは呆然と立ち尽くしていた。客が帰った後も余韻は残っていた。歩いていてもどこか現実感がない。
(ウチノチームが負けるハズカモな……)
 自分と己の力量を見定める。これが、パパが身を持って日本で学んだことである。
 あと、もうひとつ。
 子供と言って馬鹿にしてはいけない。
「大したチームダ……誠凛……」
 負けた時は悔しくて捨て台詞を吐いたけど、今の誠凛には自分が勝てないのはよくわかる。
 それにキセキの世代。
(誠凛には負けたケド……キセキノ世代もナカナカヤルナ……)
 そう思いながら、パパは試合会場を後に――
 ――しようとした。
「あれー? お父さん」
「パパだ」
 パパ・ンバイ・シキはムッとした。
 声をかけたのは火神だ。
「子供のクセに……生意気ダ」
「何言われても悔しくねーよ。だってウィンターカップ優勝したもんな」
「フン……マグレ勝ち」
「何だとー!」
「火神君、やめてください」
 そばにいた黒子がどうどうと火神を宥めた。
「黒子……」
「覚えてて、くれたんですか」
「子供のクセに……ナカナカガンバッタな」
「ええ」
「ちょっと待て! 黒子に対する時とオレの時と、態度ちがわね?!」
「デモ、黒子イナイと勝てなかっタダロ、誠凛」
「う……そりゃまぁ……」
「みんなで掴んだ勝利です。お父さん」
「ダカラ、ダレがお父さんだ」
「パパさんも、またバスケやりましょう」
「次もオレ達が勝つけどな!」
 黒子と火神の台詞に、パパは溜息を吐いた後、ほんの少しだけ笑った。
「イイとも。今度はオレもイイとこ見セル」
「あ、誠凛の火神大我君と黒子テツヤ君ですね。訊きたいことがあるんですけど――」
 カメラを持った者、マイクを持った者がどっと押し寄せてきた。
 パパは彼らに背を向けると、今度こそ試合会場を出た。
 日本の冬は寒い。
「祖国に……帰りタクナッテキタ……」
 でも、もう少しここにもいたい。
 世界は広い。
 セネガルの高校でもパパは負け知らずだった。誠凛――その中でも火神と黒子にパパは負けた。
 あれから数ヶ月。誠凛は目を瞠るほど強くなっていた。
 次は負けない。そう思っていても、さっきのプレイが目に浮かぶ。
 セネガルでもあんな試合なかった。
(モット……強くナリタい……)
 パパはぎゅっと拳を握った。
「あー、あいつすっげぇ背たけぇ」
「バスケ上手そうだな」
 二人の男子がパパを指さして話す。
「ウィンターカップ見に来たんじゃね?」
「選手じゃねーの?」
「あんなヤツいねかったじゃん」
「それにしてもさ――すげぇよな、誠凛。まだバスケ部できて二年だってよ……」
 男子達の会話は誠凛高校のことへと移って行った。
(誠凛、カ――)
 もしかしたら連覇するかもしれない。
(オレもバスケの練習ヤリたい)
 もう、誰にもデカいだけのヤツなんて言わせない。
 今度こそ誰にも負けない。精神面でも、技術面でも。――キセキの世代にも。
 とにかく、見応えのあるゲームだった。
(バスケに必要ナノは体格ダケではナイこと、ワカッタよ……)
 準優勝の洛山のキャプテンも、バスケをやる上ではそんなに背は高くなかった。しかし、只者でないことは見て取れた。
 男子バスケは将来彼らが引っ張って行くだろう。
 誠凛高校も強豪として認められ、いろんなところから強い選手が集まってくるだろう。
(かト言ッテオレが誠凛に入ルワケにはいかナイ)
 今のパパではまだまだ通用しないだろう。
 でも、気になる。どうして誠凛があそこまで強くなったか。
(カントクはオンナノコだし、ミンナ小さい……オレから見ればマダ子供……)
 その子供に負けた。
 今回も暇つぶしにWCの決勝を見にやってきたら、すごいゲーム展開がなされていた。
(子供、侮れナイ……)
 その後、パパは誰もいないコートでひたすらシュートの練習をしていた。あの練習の嫌いなパパがである。
 練習は嫌い。だけど、バスケは好きだ。
 ――パパも成長したようだった。

 次の日。
 パパが昨日のバスケコートに行くと、子供達が占領していた。
(ナンだ、コレじゃ練習デキない……)
「あー外人だー」
「でけー」
「ボクたち練習シテたの?」
「うん。ガイジンのお兄ちゃんも入る?」
「ダンクできる?」
「デキるよ」
「オレ――ダンク一度やってみたい」
「ばーか。松下じゃ無理だって」
「でもぉ……」
「ワカッタ。下から支エてヤルカラ、ボールを入れてミロ」
「う…うん」
 パパは松下少年を支えてボールに近付いた。少年がボールを叩きつけるようにゴールに入れる。
「できた!」
「後は自分で何トカしろ」
「ありがとう。外人のお兄ちゃん!」
 少年は頭を下げた。それを見てパパは、バスケを始めた頃の、とにかくバスケが好きで好きで仕方がなかった自分を取り戻したように思った。

後書き
パパ・ンバイ・シキくんが好きなんです。セネガル留学生の。
私は楽しんで書いたけど、あまり需要はなさそう……(笑)。
子どもにダンクを決めさせたシーンは、『毎日かあさん』のシーンのアレンジです。あれはサッカーだったかな。
これ読んでパパ君が好きになってくれる人がいたら嬉しいな。
2014.12.25

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