トリック・オア・トリート

「イギリスー、フランスー。今日はハロウィンだぞ」
 アメリカが嬉しそうに頬を紅潮させていた。
「ああ。もう十月も終りだからな」
「と、いうわけで、今から俺達は仮装してお菓子をもらいに行く。ほら、イギリスとフランスの分も作ってきたぞ」
「もう少し時間を有効に使えばいいものを……まぁ、祭りだからな」
 イギリスが仕方なさそうに座っていた椅子から立ち上がる。
「んで? 俺達の衣裳って? 俺に似合う美しいものなんだろうな」
 フランスがふぁさっと髪を靡かせる。
「うん。きっと気に入ると思うんだ!」
 アメリカが目を輝かせた。

 数分後――
「お兄さんは吸血鬼だな。美女の血を吸っちゃうぞ」
 フランスがマントを広げる。
「おい。アメリカ。なんだこの地味な衣装」
 イギリスは不服そうだ。
「どこからどう見たって、立派な魔女じゃないか☆」
「魔女……せめて魔法使いって言え」
 アメリカは、可愛いお化けの被り物。
「どうだい? キュートだろ?」
「というか、明らかに手抜きだろ……」
 イギリスがツッコむ。
「さぁ、お菓子をもらいにレッツゴー!」

 イタリアの家――
「旨そうな匂いがするぞ」
「あれはピザだな」
「トリックオアトリート(お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ☆)」
「うわぁっ! なになにっ?!」
「今日はハロウィンだからお菓子もらいに来た」
 アメリカが仮装を外した。
「あ、アメリカ……」
「このピザもらってくぞー」
「待ってー。我が家の晩御飯ー。ヴェー」
「いいのかな……ていのいいたかりのような気がするぞ」
 イギリスのぼやきに、
「いいのいいの。だって今日はハロウィンなんだろ?」
 とフランスが答えた。
 次の家に行く道々、三人はイタリアから強奪したピザを食べた。そう。たかりと言ったはずのイギリスまで。

 日本の家――
「お菓子くれなきゃいたずらするぞー!」
「わぁっ! ――て、アメリカさんでしたか。老人をおどかさないでください。イギリスさんもフランスさんも、変な格好してどうしたんですか?」
「今日はハロウィンでね、子供達がお菓子をもらいにいろんな家に行くんだぞ」
「アメリカさんはいい大人でしょうが」
「心はピュアな子供のままさ☆」
 背後にいたイギリスとフランスは同時に噴いた。
「仕方ありませんねぇ……おもちとようかんぐらいしかありませんよ」
「サンキュー、日本。気前がいいね」
「ちっとも嬉しくありませんが……」
 日本は無表情で言った。
「さぁ、次行くぞー」

 ドイツの家――
「来たか――」
「トリック・オア・トリート!」
 三人ががばっとやってきた。イギリスとフランスもだんだん楽しくなってきたようだ。
「はいはい。今、飴やるからな」
「さっすがドイツ。準備万端だな☆」
 アメリカは戦利品を袋の中に入れる(その中には、さっき日本からもらったおもちとようかんも入っている)。
「でも、これぞドイツっていうものがないなぁ」
「確かにな」
「ふむ。しかし、クーヘンはさっき食べてしまったぞ」
「えー。そっちの方が良かった」
 アメリカがぶーたれる。
「まぁ、代わりにこれやるから」
 三人は、袋の開いたお菓子を勧められた。黒っぽい輪っか状のものである。
「いただきまーす」
 それぞれに口に入れた三人は、一様に嫌な顔をした。
「これまず……っ!」
「なんか変な味だな」
「ゴム食ってるみたいだな……」
 ほんとに不味かったですよ、あのお菓子……(実話)。
「ええい! 文句があるならもう帰れ!」
 彼らは、短気なドイツに追い出されてしまった。

 中国の家――
「今日はハロウィンだから、もうすぐ客人が来るあるよー。ちょっとドキドキあるよー」
「ここはとばすか」
 イギリスの言葉に、アメリカとフランスは一も二もなく頷いた。
「あー、遠ざかっていくあるよー。ちょっと待つよろしー」
 中国が『お待ちになって』のポーズをしながら涙を流した。
「兄貴ー。これ食っちまいましょうぜ」
 遊びに来ていた韓国が言った。

「あー、なんかロクなもんないね」
「次に期待しようじゃないか」
「そうだな」

 ロシアの家――
「へぇ……今、ハロウィンのお祭りやってんの」
「そ。お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ」
「いいよー。今、妹がピロシキ作ってるから。お礼はそれぞれの領土15%でいいからね」
 ロシア腹黒っ……!
「なんでおまえに15%もやんなきゃいけないんだよ!」
 元ヤンのイギリスがキレた。
「いいんだよ。僕は。実力でぶんどっても」
「まぁまぁ。お互いもっと仲良くしようぜ。どんな時でも愛がなくっちゃあ」
 フランスがなだめにかかる。
「君の愛はいらない」
 ロシアはばっさり切り捨てた。
「ひ……ひどい。俺の愛がいらないなんて……っ! お兄さん泣いちゃうよ」
「勝手に泣け」
 出鼻を挫かれたイギリスがあっさり言った。
「お兄様……」
 ベラルーシが入ってきた。
「ああ。ベラルーシ。人数増えたからまた作ってくれないか」
「わかりました……」
 口ではそう答えたものの――
(なんで私がお兄様以外の野郎どもに御馳走してやんなきゃいけないの。お兄様以外のには毒を盛ってやろうかしら)
 ぞくっ!
 殺気!
 表には現れない敵意を三人は敏感に感じ取った。
「お、俺、ちょっと調子悪くなったから、帰るわ」
「俺も」
「ちょっと待てよ」
「あ、いいのかい? ベラルーシのピロシキ美味しいよー」
 ロシアは何にも気付かない。
「ああ。また今度来るから……」

「あー。楽しかったー」
 アメリカが満天の星空の元、うーんと伸びをした。
「どこがだよ。それにおまえ、ロクなものないってこぼしてたじゃないか」
「あれは半分冗談だよ」
「半分本気じゃねぇか!」
「ところでどうだい? これから俺の家でパーティーしないかい? ランタンも、かぼちゃ料理も、いっぱいあるよ」
 フランスとイギリスが顔を見合わせた。
「悪いけど、俺は、酒場で飲むことにするわ。美女でも侍らせてね」
 フランスが断った。
「じゃあ、イギリスは?」
「その……行ってもいいんなら」
「じゃあ行こう」
 二人は雑踏に溶け込んでいった。
 フランスは、それを見て、ふー、と溜息を吐いた。
 あいつら、かぼちゃ料理をたらふく食べて。その後アメリカはイギリスを食うんだろうなぁ。
 イギリスだったら、グルメな俺でも美味しくいただけちゃうのにな。
「……アチュムッ!」
 フランスはくしゃみをした。十月も終りの空気は冷える。
 一人残された彼には、「願いが叶いますよ」と合いの手を入れてくれる人もいないのであった。

後書き
すっかりフランス兄さんいじめが得意になってしまいました。ま、彼のことだから、あの後美女とよろしくやっているでしょうが。
最後、『フランス兄さんの恋物語』と少しかぶってる?
明日がハロウィン本番ですが、私は睡眠時間が不規則なため、HP上では早めに祝うことにしました。
2009.10.30

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