チャイルドも吼えるぜ! 「楓、実はね――アンタのお父さんはヒーローなのよ」 わたし、鏑木楓はおばあちゃんの言葉でその場に凍りついた。 「う……そ……」 「嘘なんかじゃないよ。アンタのお父さんは――虎徹はヒーローなんだよ。ヒーローのワイルドタイガ―さ」 わたし、びっくりし過ぎて、叫び出すこともできなかった。 でも、そういえば……。 腕につけてた変わったバンド。 きちんと約束通り家に帰れない訳。 わたしの変な能力。 テレビで観る、アイパッチしてたお父さんに似た姿のヒーロー。 だけど、そんな、そんな……お父さんがヒーローだったなんて! 「隠しだてしててごめんよ。でもね、お父さんはね、楓を危険に巻き込みたくないから、わざと正体をかくしてたんだよ。――楓あんたにもね」 「どうして言ってくれなかったの?!」 「ワイルドタイガ―の娘だってことで、狙われたり誘拐されたりしたら、悲しむのは虎徹なんだよ」 「そんな人達、NEXTの能力でやっつけてやるんだから!」 「制御もできないのにかい?」 「う……」 わたしは何か言いたいのをぐっとこらえた。 「わかるね、楓。あんたの能力は、珍しいと言われてるんだよ。もし敵に捕まって実験台などにされたりしたら――」 おばあちゃんは泣いていた――んだと思う。顔を背けたからよくわからないけれど。 わたしの能力は触った人の能力をコピーする力。お父さんに触った時は、急に体が軽くなって、跳ねたりしたっけ。 今まで気のせいだと思ってたけど――。 わたしは立ち上がって駆け出す。 「どこ行くんだい? 楓」 「部屋!」 おばあちゃんに叫び返すと、わたしは二階に行ってドアを閉めた。 「えっと、確かこの辺に――あった」 それは、ワイルドタイガ―の特集号だ。 ドジで失敗ばかりして、すぐ物壊すけど――どこか憎めないヒーロー。それがワイルドタイガ―。 お父さんを思い出すのがつらくて、ワイルドタイガ―のことはあんまりよく見てなかったけど。 「お父さん……かっこいいじゃない。バーナビー様と同じくらい……かっこいいじゃない……」 涙が雑誌にぽとりと落ちた。 雑誌の切り抜きはバーナビー様のものしかないけど。 今度はお父さんのページもちゃんと切り取ってあげる。 だから、だから、お願い。無事に帰ってきて――! お父さんが人殺しなんて、何かの間違いよね。 だって、お父さんはヒーローなんだもん。 人々に何かあるとき、だまって助けてあげるのがヒーローだ、って、いっつも言ってたもん。 お父さん。わたしね、学校でお父さんを自慢したい。 「わたしのお父さんはワイルドタイガ―なのよ!」 って。 バーナビー様とコンビを組んでるワイルドタイガ―だって。 でも、そしたらお父さんに迷惑かかるかな? だったら、秘密にしてあげる。 でも、誇りに思うんだ。わたしのお父さんはヒーローだって。 友達の良子ちゃんもね……ワイルドタイガ―が好きだって。 わたし、皆に自慢できるよ。 だから――帰ってきて。お願い。 お母さん、お父さんが無事でいますように。 それから――わたしもお父さんを助けたいです。 ワイルドタイガ―の決め台詞のところにふと目が止まった。 「ワイルドに吼えるぜ!」 そんな見出しでポーズ取ってる。 わたしだって、お父さんの娘だもん。えーと、えーと――わたしの決め台詞は……。 「チャイルドも吼えるぜ!」 わたしもポーズを取る。 決まった! 誰も見てないのが残念だけど。 神様は見てるよね。あと、天国のお母さん。 わたし――鏑木楓は、お父さんを助けに行きます! 「おおおおお! チャイルドも吼えるぜ!」 わたしは貯金箱を壊すと、外へ出て行った。 走っている間、お父さんとの思い出が次々と浮かぶ。 わたし、お父さんにいろいろひどいこと言ったっけ……! お父さん、ごめん。 「ワイルドタイガ―って、バーナビー様より背が低いんだ。バーナビー様の方がかっこいい」 なんて言ってごめん。 録画観てた時、 「ワイルドタイガ―って、バーナビー様にお姫様抱っこされて、男のくせにかっこ悪い」 なんて言ってごめん。 「ワイルドタイガ―って、市民の為とか言って結局物壊してるだけじゃん」 なんて言ってごめん。 幸いお父さんはいなかったけど。 お父さん、ごめん。ひどいことばかり言ってごめん。 「大嫌い」なんて言ってごめん。本当は大好きだよ。 でもね……あんまり約束破るから頭に来ただけ。 私は全速力で走る。涙が頬に筋を作る。 ああ、でも、だけど……。 「ワイルドタイガ―ってかっこいいね!」 不意に思い出した、昔の記憶。 お父さんとお母さんとおばあちゃんと――それからわたし。 「あら。でも、楓にはこんなに強くて優しいヒーローがいるじゃない」 「それって、パパのこと?」 「そうよ」 お母さんとわたしのやり取りを、おばあちゃんは穏やかなまなざしで見守ってくれている。 お父さんはにこにこしながら、 「楓がピンチになったら、必ず助けに行くよ」 って言ってくれてたっけ。 お父さん、死なないで――! どこかのバカな大人に殺されないでいて。 わたしはワイルドタイガ―の娘なんだから。お父さんの為に戦うんだから! 「お父さーん!」 わたしは思いっきり吼えた。 そして――。バーナビー様以外の他のヒーロー達が記憶を取り戻した時。 犯人はマ―ベリックとか言う、あの人の良さそうなおじさんであることがわかった時。 ブルーローズさんだけは、お父さんを最後まで信じてくれていた。 お父さんは、バーナビー様とどこかへ行ってしまった。 「それにしても、良かったな。楓。お父さんが殺人犯でなくて」 「ロックバイソンさん――お父さんに『下司野郎』って二回も言ったんだって?」 わたしはロックバイソンに冷たい視線を送る。 ロックバイソンは、記憶のない時だったからな、あははは、と誤魔化し笑いをした。 後書き 『楓ちゃんがチャイルドタイガ―』というネタがあったよと、杏里さんから聞いて、それでは楓ちゃんの決め台詞は、 「チャイルドも吼えるぜ!」 だろうな、と思っていたけど、使う機会がなくて。 今、使うことができて嬉しいです(笑)。 2011.12.26 |