ヘタリア二部作
1
「ドイツ―。いつもありがとうねー」
「いや……構わんが、これからはもう少し気をつけろよ」
 今日も今日とて、ドイツはイタリアの尻拭い。
 今回はイタリアが、獣用に仕掛けられた罠で足を怪我したのである。
 取り敢えず応急処置をして、おぶっていく。イタリアも一応成人男性なので、重い。
 イタリアも、「ドイツの背中って、おっきくて広いー♪」などとはしゃいでいたが、急に静かになった。
「……? どうした?」
 ドイツが訊くと、
「ん、昔の幼馴染のことを思い出したんだ」
と答えが返ってきた。
「神聖ローマって言うんだけどね……なんで思い出したんだろう。ドイツとは性格も何もかも、全然違うのに……」
「神聖ローマ……」
「うん。いろいろ助けてくれたんだ。ネズミ退治しようとしてくれたり、料理作ってくれたり……まずかったけど、最後はちゃんと美味しくなってた」
「最後って?」
「うん。神聖ローマ、俺をおいて行ってしまったんだ」
 暫時、間が空いた。ざっざっと、ドイツの軍靴の足音がする。
「俺ね、神聖ローマが初恋の人だったんだ」
「そいつ、男だろ……?」
「うん。神聖ローマも俺のこと好きだって言ってくれたよ」
「野郎がか……」
 ドイツは複雑な気分になった。
「元気でいるかなぁ……また会いたいなぁ。神聖ローマ……」
 イタリアはしんみりとした口調で言った。それからしばらく黙っていたが、おそらく昔の幸せな思い出に浸っていたに違いない。
 だから――ドイツは言えなかった。
『神聖ローマという国は、もうないんだ』とは。

2
「ドイツ―、ドイツ―」
 イタリアか……? 声が少し違うようだが、なんだ今度は……と思って声の方を見ると、可愛い女の子と少年の二人連れがいた。
「ドイツー、神聖ローマと会えたんだよー」
 女の子に見えたのは、イタリアだったらしい。今より幼くて、エプロンドレス姿である。声も女の子みたいだ。だが、くるりんとした一筋の巻き毛の位置は変わらない。
 神聖ローマ、と呼ばれた少年は、立派な服を着て帽子をかぶり、風に翻るマントを羽織っていた。意志の強さが表れている顔をしている。どこか生意気に見えなくもない。
(馬鹿野郎! 神聖ローマと会えたってことは、そこはあの世じゃないか!)
「行くぞ」
 神聖ローマは言葉少なにイタリアを促した。
「あ……うん」
「待て! イタリア!」
 ドイツが後を追おうとした。
「ダメ! ドイツは、まだ来ちゃダメ!」
 イタリアの強い拒否の言葉に、ドイツはちょっと傷ついた。
「そんな奴ほっとけ。早く来い」
 神聖ローマがマントをひらりと返す。
「ごめんね、ごめんね、ドイツ、ごめんね」
 イタリアが泣きながら別れを告げる。――「さよなら」と。
「……イタリア……行くんじゃない……」
 二人がドイツの目の前から消えて行こうとしている。
「――こら、待て! イタリア! どこ行くんだ! イタリア! 戻って来ーい!」
 イタリアーーーーー!!
 気が付くとそこは見慣れた自分の部屋。
「夢か……」
 ドイツは自分の悲鳴で目が覚めたのだ。
「恥ずかしいな……くそ……」
 隣にはどこから潜り込んできたのかイタリアがいる。楽しい夢を見ているらしく、嬉しそうに「ヴェー」と鳴いている。一旦寝付くとなかなか目を覚まさないようだ。
 心配かけさせやがって。
「俺がおまえに優しいのは、今だけだぞ」
 そう言ってドイツは、イタリアの額にキスをした。

後書き
つい最近まで知らなかった漫画の小説を書く日が来ようとは……!
でもでも! ドイツとイタリア萌え! 神聖ローマも萌え!
でも、ドイツとイタリアって、結構キスとかしてるんだよねぇ……きっと。キスだけというのは優しさの証にはならないのか?!
なお、イタリアと神聖ローマは別れた後も会ってはいたようですが、ここでは、永の別れとなった、という設定にさせていただきました。ドイツの夢の中ではきっちり夫婦(笑)になってますがね。
2009.4.13


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