ヘタリア二部作 「いや……構わんが、これからはもう少し気をつけろよ」 今日も今日とて、ドイツはイタリアの尻拭い。 今回はイタリアが、獣用に仕掛けられた罠で足を怪我したのである。 取り敢えず応急処置をして、おぶっていく。イタリアも一応成人男性なので、重い。 イタリアも、「ドイツの背中って、おっきくて広いー♪」などとはしゃいでいたが、急に静かになった。 「……? どうした?」 ドイツが訊くと、 「ん、昔の幼馴染のことを思い出したんだ」 と答えが返ってきた。 「神聖ローマって言うんだけどね……なんで思い出したんだろう。ドイツとは性格も何もかも、全然違うのに……」 「神聖ローマ……」 「うん。いろいろ助けてくれたんだ。ネズミ退治しようとしてくれたり、料理作ってくれたり……まずかったけど、最後はちゃんと美味しくなってた」 「最後って?」 「うん。神聖ローマ、俺をおいて行ってしまったんだ」 暫時、間が空いた。ざっざっと、ドイツの軍靴の足音がする。 「俺ね、神聖ローマが初恋の人だったんだ」 「そいつ、男だろ……?」 「うん。神聖ローマも俺のこと好きだって言ってくれたよ」 「野郎がか……」 ドイツは複雑な気分になった。 「元気でいるかなぁ……また会いたいなぁ。神聖ローマ……」 イタリアはしんみりとした口調で言った。それからしばらく黙っていたが、おそらく昔の幸せな思い出に浸っていたに違いない。 だから――ドイツは言えなかった。 『神聖ローマという国は、もうないんだ』とは。 イタリアか……? 声が少し違うようだが、なんだ今度は……と思って声の方を見ると、可愛い女の子と少年の二人連れがいた。 「ドイツー、神聖ローマと会えたんだよー」 女の子に見えたのは、イタリアだったらしい。今より幼くて、エプロンドレス姿である。声も女の子みたいだ。だが、くるりんとした一筋の巻き毛の位置は変わらない。 神聖ローマ、と呼ばれた少年は、立派な服を着て帽子をかぶり、風に翻るマントを羽織っていた。意志の強さが表れている顔をしている。どこか生意気に見えなくもない。 (馬鹿野郎! 神聖ローマと会えたってことは、そこはあの世じゃないか!) 「行くぞ」 神聖ローマは言葉少なにイタリアを促した。 「あ……うん」 「待て! イタリア!」 ドイツが後を追おうとした。 「ダメ! ドイツは、まだ来ちゃダメ!」 イタリアの強い拒否の言葉に、ドイツはちょっと傷ついた。 「そんな奴ほっとけ。早く来い」 神聖ローマがマントをひらりと返す。 「ごめんね、ごめんね、ドイツ、ごめんね」 イタリアが泣きながら別れを告げる。――「さよなら」と。 「……イタリア……行くんじゃない……」 二人がドイツの目の前から消えて行こうとしている。 「――こら、待て! イタリア! どこ行くんだ! イタリア! 戻って来ーい!」 イタリアーーーーー!! 気が付くとそこは見慣れた自分の部屋。 「夢か……」 ドイツは自分の悲鳴で目が覚めたのだ。 「恥ずかしいな……くそ……」 隣にはどこから潜り込んできたのかイタリアがいる。楽しい夢を見ているらしく、嬉しそうに「ヴェー」と鳴いている。一旦寝付くとなかなか目を覚まさないようだ。 心配かけさせやがって。 「俺がおまえに優しいのは、今だけだぞ」 そう言ってドイツは、イタリアの額にキスをした。 後書き つい最近まで知らなかった漫画の小説を書く日が来ようとは……! でもでも! ドイツとイタリア萌え! 神聖ローマも萌え! でも、ドイツとイタリアって、結構キスとかしてるんだよねぇ……きっと。キスだけというのは優しさの証にはならないのか?! なお、イタリアと神聖ローマは別れた後も会ってはいたようですが、ここでは、永の別れとなった、という設定にさせていただきました。ドイツの夢の中ではきっちり夫婦(笑)になってますがね。 2009.4.13 |