母なる地球のような

 小林輪が、坂口亜梨子に恋をした――。

「輪くーん。またお外見てたのー?」
「うん、ママ」
 と、ぼくは返事をする。
 今日も来ないかな。お隣のお姉ちゃん。
 ちょっと嫌われてるっぽいけど。でもぼく、可愛いから許してもらえるよね。
 それに、ありすお姉ちゃんのこと、ぼくほんとは好きだし。でも、どうしていいかわからないんだ。
 あっちは高校生。もう大人だもんね。
「輪くん、ケーキあるわよ。食べない?」
「もう少ししてからー」
 やっぱりまだ来ないんだなー。高校生だから、帰るの遅いのかな。
 ま、いいや。ケーキ食べたらいつもの新体操ごっこしながら待っていようっと。
 ぼくが外で遊んでいると――。
 あ、来た来た。お隣のありすお姉ちゃん。
 美人だし、綺麗な髪だし、声は空気に溶けてくメゾソプラノだし。 それに――。
 ぼく、ありすお姉ちゃんとは初めて会った気しないんだ。
 こういうのって何て言うの? デジャヴ、だったかな。
 ありすお姉ちゃんのことを考えると、一日が幸せになるんだ。
 でも、ありすお姉ちゃんは嫌な顔……。そこもまたいいんだけどさ。
「お帰りなさい、お隣のお姉ちゃん」
「た……ただいま」
 うーん、警戒されてるなぁ、ぼく。ちょっと悲しいけど、ありすお姉ちゃんのことは諦めないよ。
 だってぼく、ありすお姉ちゃんのこと、好きだから。
 ぼくって、年のわりに進んでるってよく言われてるけど、ぼくなんて普通だよぉ。
 でも、ありすお姉ちゃんとは結婚したいなぁ。
 彼氏、とかいるかな。ありすは素敵だから、いるかもね。
 だったら、せいいっぱい邪魔してやる。
 ぼくは生涯、ありすお姉ちゃんを愛し抜く。たとえ、どんな風に思われていようと。
 初めて会った時から、そう決めてたんだ――。

 そして、十数年の歳月が流れた。
 俺は、本当にありすと結婚することができた。可愛い息子もできた。迅八のヤツは泣いていた。ざまぁ見ろだ。
 ありすと初めて経験した日――実はこの日の為にいろいろ策を練っていた。
 だって、ありすモテるんだもん。
 ありすが俺のこと好きでいることは知っていたけどさ。
 俺だって不安になる時があるのよ。ありすの弟、はじめは俺のこと良く思ってないようだしさ。
 だから、まぁ、その――ありすの純潔奪っちゃおうかな、と。
 紫苑と同じことしてるんだけどさ。
 紫苑と言うのは俺の前世。だから、同じことしてる。……つーか、全く同じ。
 はじめにも散々怒られたよ。あいつはシスコンだからなぁ。ぷぷっ。
 でも、ありすが誰に取られようが――もし、あの迅八のバカ野郎と結婚しても――俺はありすを愛していただろうな。
 だって、ありすは俺にとって、地球のような存在なんだ。母なる地球のような。
 だから、全身全霊をかけて、守る。
 ありすを、地球を、守る。
 ありす――。
「愛してるぜ」
 俺を待ち疲れて眠っているありすのこめかみにキスを落とした。
「え? あ? 何? 輪くん?」
「ただいま」
「あ、あたし、眠ってた? 蓮は?」
「寝てるよ」
 そして俺は寝起きのありすに口付けを送る。俺達は結婚してから何年経っても、ラブラブのままだ。
 蓮、というのは、俺の息子の名前。二人目は――娘がいいな。名前も決めてあるんだ。それは――。
「あ、ご飯できてるよ。食べる?」
 ありすが立ち上がったので俺はそこをちょっとどいた。そして彼女に笑いかける。
「ああ。ありすの飯は旨いからな」
「輪くんだって上手じゃない」
「愛情が違うんだ」
 俺とありす。どっちがより相手を愛しているかと言うと――俺の方だと思う。
 俺は浮気はしない。ありすの他には誰を抱くこともしない。
 木蓮だけを愛した紫苑のように。――あいつは、木蓮に会った時には既に経験済みのようだったけどな。
「昔の夢見てた」
「ふぅん……?」
「あたし達、幸せだね」
「うん」
 これからもっともっと幸せになろう。
 蓮とも、そして、これから生まれて来るかもしれない赤ん坊の為にも。二人目は絶対できる、と俺は踏んでいる。
 でも、ありすあんまり丈夫じゃないからな。それがちょっと心配だ。蓮の時も難産だったし。
 だから――蓮が生まれた時、本当に嬉しかった。ありすも無事だったし。蓮が死なないように、危ない目に合わないように、いつも見守ってたっけ、俺。
 看護婦さん達には笑われていたようだが――いいもんね。愛に敵うものはない。
「ありす、今日は疲れたろ? ゆっくり休め」
「輪くん……」
 ありすが腕を伸ばして、俺の顔を両手で包み込む。何だろ……。
「輪くん……いい男になったね」
 ――不意打ちだ。
 そんな台詞聞かされたら歯止めが効かなくなるぞ、いいのか?
「ありすこそ、いつまで経ってもいい女だ」
 この女性と一生添い遂げることができたなら――。
 小学生の頃からそう思っていた。今、夢が叶って嬉しいと思う。
 もしかして、紫苑や木蓮が応援してくれたからかな……?
 ありがとう。木蓮、紫苑……みんな。
 俺は一旦ありすを抱き締めてから、抱擁を解いた。それから今度はありすをお姫様抱っこする。
「――きゃっ」 
「俺、ベッドまで運んでってやるよ。大丈夫。今夜は何にもしねぇから」
「輪くん、重くない?」
「重くない」
 重いとしても、それは幸せの重さだ。
 俺だって男だ。そりゃ年下だし、勝手なところもあるし、ありすにしてみれば頼りにならないところもあるかもしれないけど――ありすを運ぶ体力ぐらいはある。
 いつも、いつでもありすを愛していたい。
 俺は――ずっとありすのことを見ていたから。
 ありすを部屋のベッドに寝かせると――ありすはすうっと眠りに落ちて行った。
 うーん。可愛いな。俺のありす。ついほっぺつんつんしたくなるじぇねぇか。
 ラズロとキャーにも見せたかったな。俺がありすと共にいて、幸せでいるとこ。
 紫苑だったら知ってるかな。俺は紫苑に呼びかけたが、あいつは返事もしねぇでやんの。ま、慣れてるけどな。
 俺も部屋を辞した。今日は何にもしないって、ありすに言ってしまったからな。いいことしたいのはやまやまだけどな。無理強いはしたくない。
 そのうちチャンスもあるだろう。ありすから求めてくるとか。ありすも大変なんだから、俺は大人にならなくちゃな。
 愛しいありすの寝顔を見ながら考える。
 俺は――俺にとっての地球はこのありすだ。だから俺は、この地球を何があっても守り通す――と。

 小林輪は、小林亜梨子を愛してる。

後書き
ラブラブですね(笑)。
2012.8.28

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