玉砕、覚悟です…! 「おい、エリス。話があるんだけどよぉ……」 そう言ったギルベルトは、真っ赤になっているだろうな、と自分でも思った。 エリス。本名、エリザベータ。男のようにみんなにはエリスと呼ばせていたが、実は女。 しかし、この頃は、自分でも男だと思っていたようだ。 「何だよ」 エリスの顔をまじまじと見ると、頬の熱が上がりそうなので、ギルベルトは目を逸らした。 思えば、あの時から……。 「男と男の約束な!」 夕陽の逆光に照り映えたエリスは、いつにもまして美しかった。 (おまえは……女じゃねぇかよ) ちんちんは後で生えてくると言ったおまえ。でもなあ、そういうもんじゃねぇんだよ。 あの時から……俺、おまえを意識しっぱなしだ。 (女のくせに……あんなに強くてかっこいいなんて……反則じゃねぇかよ。くそっ) ギルベルトは、がしがしと頭を掻いた。 「なんだよ。何か用でもあんのかよ」 エリスがもどかしそうに、ギルベルトを睨んだ。いつもと違う幼なじみに、どこかイライラしているらしい。 「あ、あのな、エリス……好きな相手がいるって……相談されちまったんだよ」 「はあ? 誰に?」 「だからそのぉ……ダチにだよ!」 「ふぅん。おまえにもそんなダチがいるんだ。ま、おまえに恋の相談するなんて、ろくな奴じゃねぇな」 「何だと?!」 「怒るなよ。冗談じゃねぇか」 エリスがニヨニヨする。 「んで? おまえ、なんて答えたんだよ」 「答えてない。どうすればいいかわかんねぇから」 「へぇー……」 「わかんねぇんだよ!」 ギルベルトは怒鳴った。 わかんねぇんだよ……エリス、おまえが好きだから……。 どうしたらいいか……わかんねぇんだよ……。 「仕方ねぇな」 エリスは面倒くさそうに、傾げた自分の首を掻いた。 「そういう時はな……男らしくはっきり『好きだ』って言って、キスのひとつでもかませばいいんだ」 「本当にそれでいいのか?!」 「ああ」 頷いたエリスは、頼りがいのある、いつものエリスに戻っていた。 よ、よし……! こうなったら、玉砕覚悟だ! 「エリス! 好きだ!」 ギルベルトは、告白して、自分の唇を相手のそれに近づけた。 「何ふざけてんだよ!」 パァン! ギルベルトに残されたのは、平手打ちの痕と砕け散った恋心。 エリスの、嘘つき……! ギルベルトは頬を撫でながら、痛さに涙を零した。 エリスは、駆けて行った。大木に手をつくと、はぁはぁと息を切らした。 (ギルベルト、あいつ……!) 意地悪な奴だとは思っていたけれど、まさかあんなからかい方をするなんて。 「俺は男だぞ! くそっ!」 エリス――エリザベータは、木の幹にだんっと拳をぶつけた。 「あっ……!」 植物にあたるなんて、己らしくない。 「ごめんな……」 エリザベータは、木の幹をさすった。 ――あの時、ちょっと胸がときめいたこと、あいつには、絶対言えない。 また、遊び相手に戻れるかな。戻れるといいな。 エリザベータは思った。 俺、あのことは忘れる。だから、ギル、おまえも忘れろよ。 「忘れて、くれよ……」 風が吹いて、葉ずれの音がさやさや鳴った。 後書き 『ハンガリーとプロイセン』の焼き直しみたいになってしまいました(汗)。 いろんなところからパクっています。 『玉砕、覚悟です…!』は、『ぼく地球』のココという女の子の台詞から。でも、ココってぶりっ子なんだよね(笑)。 私は、大人になったハンガリー(エリザベータ)より、子供の頃のハンガリーの方が好きです。 後半、文の密度、スカスカですね。前半はケータイで、後半のエリザベータの心理描写は、パソコンで付け足したからかもしれません。 エリスというのは、なんとなく、です。どこかで聞いたこともあるような気もするのですが。他に使っていた方もいたかもしれませんね。 2010.5.10 |