ドイツと神聖ローマと

 ドイツは、雲の中にいた。
「なんだ、ここは……」
 向こうから、神聖ローマが現れた。
「し、神聖ローマ……」
 ドイツが言うと、神聖ローマが口を開いた。
 声が聞こえないが、ご都合主義的にも、偶然、読唇術を心得ていたドイツには、相手の台詞がわかった。
「こ・れ・い・じょ・う・ち・か・づ・か・な・い・で。き・み・も・し・ん・で・し・ま・う・か・ら」
 ドイツは納得した。
 どうやら訊きたいことがあるらしい。だから、ドイツをここに呼んだ。どうやって連れてこられたのは謎だったが、細かいことだ。
「お・お・す・と・り・あ・は・げ・ん・き・か?」
「あ、ああ。元気だ」
 ドイツの答えに、神聖ローマはうなずく。
「は・ん・が・り・い・は・げ・ん・き・か?」
「ああ。彼女も元気だ」
 神聖ローマは、またうなずく。
 ドイツには、次、相手が何を訊きたいかわかった気がした。目を凝らして相手の口元を見つめる。
「い・た――」

 イタリアは元気か?

「ああ、ああ。元気だ。死ぬほど元気だ。いや、いやいや。死んではいないが」
 ドイツが早口で答えた。
「よ・か・っ・た――」
 神聖ローマの目から、涙が一滴こぼれた。
 彼の姿が、すーっと消えていく。
「神聖ローマ――!」
 そこで、ドイツは夢から覚めた。
 隣では、イタリアが眠っている。
「ったく、また来ていたんだな」
 それにしても、不思議な――夢にしては現実味があった。神聖ローマが見せたものだろうか。
 イタリア、おまえは幸せ者だ。
 世界一の国を祖父に持ち、世界一、一途に愛されて。
(そして、俺は――)
 世界一とまでは行かなくても、世界で五本の指には入る国になろうと、ドイツは誓った。

後書き
神聖ローマとドイツの話が書きたかったのです。
以前書いた神聖ローマが、ドイツに冷たいような気がして。私なりのリベンジです。
「世界一、一途に愛されて」と言うのは、神聖ローマについてのことです。ちょっとわかりにくいでしょうか。

2009.8.9

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