ドアを開けると赤司様がいました 番外編

 ふー……久しぶりだな。火神の家も。オレがチャイムを押すと、高校時代のカントクの相田リコ先輩が出て来た。
「はーい。降旗クン。待ってたのよ~。珍しいお客さんがいるから寄っていって」
「え……」
 オレは火神家のリビングに強引に連れて行かれた。……カントクに。
「よー、降旗」
 火神が手を挙げる。
「こんばんは。降旗クン。お久しぶりです」
 黒子が礼儀正しくぺこりと頭を下げる。しかし、オレが気になったのは……。
「ここで待たせてもらってたよ。光樹」
 どうして赤司が二人いる?! てか、カントクは理由を知ってるの?!
「はーい。どうも~。赤司征十郎クン達でーす。何だか知らないけど、或る日突然二人になってたんですって? エンゲル係数が大変でしょう」
 いや、カントク。ツッコむとこそこじゃないって。
「では、光樹も来たことですし、そろそろ帰りますか」
「はーい」
 赤司の言葉にカントクが手を振る。えー、何でー? オレだって誠凛の皆と話したい。せっかく今日来れたのに……。黒子もにこやかに「さようなら」なんて言ってるし。
 誰か~、助けて~。
「おっ、赤司に降旗。もう帰んのか?」
 あ、火神! 止めてくれよ! 火神~!
「ま、降旗は赤司達とゆく年くる年でも見る方がいいかもな」
 火神は実に晴れやかな顔をする。オレらの友情って一体……。そりゃ、赤司達とゆく年くる年も見たいよ。でも、オレは今、誠凛の皆と思い出話に花咲かせたかったのに……。
「済まない。光樹。正月が明けたら、オレはまた忙しくなる。だから……キミと一緒に過ごしたかったんだ」
 赤司……それを言われると弱いんだ……。赤司が忙しいのは知ってる。――二人いるから、忙しさは半減したかと思ったが。
「僕は僕で用事があるし――年末年始は光樹と過ごしたい。だから、光樹は借りてくぞ」
「行ってら~」
 皆が揃って挨拶をする。「良いお年を」なんて言うヤツもいる。キセキや後輩ズも集まるって言うから楽しみにしてたのに~。
 ところで、赤司達は何でオレを呼びにわざわざ火神家に来たんだろう……。あー、ご馳走の匂いが遠ざかっていく……二人の赤司に両腕を掴まれながらオレは『ドナドナ』を思い出していた。
 あのメンツの中では、日向サンだけが同情した顔をしてたような気がする。
 まぁ、いいか……こうなったら赤司達とゆく年くる年を楽しもう。僕司を神社に連れて行くのもいいな。
 しかし、『ゆく年くる年』が終わって新年を迎えた時、赤司達がわくわくしたような表情で言った。
「さぁ、姫始めだぞ!」
 姫始めって……ええっ?!
 二人の赤司がかわるがわるオレにキスし始めた。そして、それがだんだん深いものに変わっていく――。オレは正常な判断能力をなくして言った。
「ぽーっとしてるね。光樹。相変わらず初心な反応をする」
「今までの女達は、当然って顔で更に先を求めたからな……光樹だったら求められても嬉しいけど」
「え? オレ、初詣行けないの?」
「外は混雑してるだろう。部屋の中で楽しんだ方がいいと思ったんだ。僕は」
「オレも――オレ達は自分同士だから気が合うんだよな」
 二人の赤司がにやりと笑った。オレはいつの間にか服を脱がされていた。シャツに手を入れられる。
「ん……」
 俺司に乳首を弄られる。思わず声が出た。
「乳首で感じるようになったんだねぇ……いや、それはかなり前からか……オレ達が開発したからかな?」
「うう……」
 何か言ってやりたいけど言葉が出ない。何て言ってやりゃいいんだろう。こういう場合。オレには火神のような性格の強さもないし、黒子のような口の巧さもない。
 ――どうせオレはしがないチワワ青年さ。
「はい。光樹。バンザイして」
 オレは思わずバンザイしてしまった。赤司の言葉にはそうしなきゃいけないと思わせる、不思議な力がある。――シャツがはぎとられてしまった。
「ぎゃああ! 何すんだよ! ヘンタイ!」
「ヘンタイって今更じゃないか。なぁ、僕司よ」
「征一郎って呼んでくれ給えよ……光樹がつけてくれた名前なんだから」
 そう言いながらも、二人はオレの体を刺激する。――オレは彼らにキスマークをつけられた。僕司には胸に。俺司には首筋に。ちっ。地味に痛ぇな……。
「キミの肌は白くて綺麗だな。光樹……キスマークが映えるよ」
 悪かったな。どうせなまっちろいぜ。……赤司だってそう日焼けしてる訳ではないだろうに。
 オレは上半身を嬲り続けられた。……うう、そんなにすると……。
「光樹……辛そうだね……」
 甘い吐息。魅惑の香り。オレも、自分の息が上がっていることがわかった。
「ここも、可愛がって欲しいんじゃないのかい?」
「う……」
「さぁ、おねだりしてごらん。僕達の前でパンツを脱いで、『ここにも刺激が欲しいです』って――」
 赤司ズの馬鹿野郎! オレが逆らえないのを知ってて!
 けれど――やっぱりオレは赤司達の言う通りにした。二人の赤司が意味ありげににこっと笑う。ああ、インキュバスが二人……。
「うん。やっぱりお前のは綺麗だ。光樹……」
 僕司がうっとりしている。そうかな。オレは普通だと思うけど……。
「ほら、いい匂いがする……」
「そっちは任せた。もう一人のオレ。オレは上半身を可愛がるから……」
 ――え? それじゃ、刺激が強くなり過ぎね? 新たな扉開きそうで、なんか怖いんだけど……。
「ああ、ほら、ぴくぴく言ってるよ。……光樹。愛してるよ。光樹自身もね」
「何言ってんだ。僕司……オレ以上に光樹を愛している男は他にはいないぞ」
 自分同士で不毛な喧嘩、やめてもらえないだろうか……。それにしても、くっ……早く……出したい……。早くすっきりしたい……。
「ああ、もうっ……」
 二人から同時に急所を責められて、オレはあっけなく果ててしまった。そして――意識はブラックアウトした。

「ん……」
 赤司達がオレをのぞき込んでいるのがわかった。夢……じゃないよな。頭は妙にクリアになってるし。挿れられてはいないようだけど……。
「今から初詣に行くかい? 光樹」
 ああ、そっか……もう朝か……。明るい日差しが差し込んで来る……。
 それにしても、このぐらいで済んで良かった。二人の赤司――特に僕司が無理やりな要求をしてくるからな。いつもだと。まぁ、俺司もそこに便乗してくるんだけどな……。
「助かった、の……?」
「いやいや。これからが本当の姫始めだよ……」
 オレの快楽に満ちた地獄の一年は始まったばかりだ……。

 ――神社に向かうオレの足取りは重い。反対に赤司達はうきうきしているようだった。
「今度はディルドを使うのもいいな……」
 やめてください、お願いします……。
 オレは、今年の絵馬に、『恋人達が大人しくなってくれますように』と書いた。赤司達はだんだん性欲の化け物みたくなって来るんだもんなぁ。――あ、そうだ。
 もっとバスケが上手くなりますように、と書けば良かったかもしれないけれど、挿れた後は辛いんだ。腰は痛くなるし……。
 けれど帰ったら……やっぱり腰を痛めるような展開になるんだろうな。親父が息子のこの体たらくを見たら何て言うだろう。
「どうだい? 光樹。書けたかい?」
「何をお願いしたんだろうな。光樹は――まぁ、予想はつくけど」
 予想がつくなら聞かないで……。
「『オレは将来光樹とNBAに行けますように』と書いたよ」
「奇遇だな。俺司よ。僕も同じだ」
 そうだった。こいつらは人間版インキュバスであるより先に、バスケ青年だった。――そして、オレもバスケが大好きだ。どうしてNBAに行く夢を忘れていたのだろう。
 オレは絵馬を書き直そうとした。――が、赤司らに見られてしまった。
「ふうん。オレ達が大人しく――かい。悪いけど、それは無理だね」
「ああ、あの味を知ってしまったらな……」
 俺司と僕司がにやりと笑う。
「覚悟しとくんだな。光樹よ……」
 僕司のオッドアイがきらっと光った。オレは鋏でも出しそうな迫力にトラウマがよみがえり、「ひっ」と声を上げてしまった。
「あんまり光樹を苛めないでやり給え。僕司。まぁ、つい苛めたくなるのも確かだけどな……。苛め甲斐と言うより、いじり甲斐かな。光樹の反応があんまり素直で可愛いから――」
 ――俺司も結構怖いんだよな……。僕司が来たことでリミッターが外れた気がする。こいつらがオレをセクハラすんのは趣味かと思ってたけど。そして、家に帰ってからのことについては……恥ずかしくてもう思い出したくもないや……。

後書き
姫始めな赤司様ズと降旗クン。
本編よりちょっと年が経った時の話。
2020.01.10

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