ドアを開けると赤司様がいました 97

 バレンタインデー。街全体がチョコレートの甘い香りに酔っているような日――。
 オレは、赤司と共に街に出かけた。忙しい、とは言いながらも、赤司はオレとの時間を大切にしてくれている。今日は、普段の倍近いスピードで仕事やレポートを終わらせたらしい。
「今日はチョコ一色だね。光樹」
「友チョコでいいなら買うけど?」
「馬鹿だね。光樹。オレが欲しいのは、光樹からの本命チョコ一択さ」
 ――上手いようなこと言ったつもりでも、全然上手くないから。赤司。
「光樹……オレが言ったこと、忘れてないよね」
 オーデコロンの香りがした。赤司が目立たないようにそっと耳朶を噛む。
「うひゃあ~」
 オレがヘンな声を出しても、周りの人達は気付かないのか、全然こっちを見ない。まぁ、その方がありがたいんだけど――。今日はバレンタインデー。恋人達がプレゼントを贈り合う日。
 この日本では、女の子が好きな男の子に告白する一大イベントとしてすっかり定着してしまったけれど……。
「相変わらず感度がいいね。光樹」
「街中で変なことしないでください。赤司さん」
 オレはわざと赤司をさん付けで呼ぶ。
「気に入らなかったかい? ごめんごめん」
「もう――!」
「赤司様ー!」
 この甘ったるい声は――。聞き覚えはあるんだけど……。
「リリィ?」
 赤司が言った。些か呆然としているような気がする。リリィが体をくねくねさせる。
「リリィねぇ、とぉっても頑張ってチョコ作ったの~。ラッピングも頑張ったの~。はい」
 本性がバレてるの、知ってるくせに、尚、赤司に言い寄るとは……神経が太いと言うか何と言うか……。そのメンタルの強さ、ちょっと羨ましいかもしれない。
「リリィ……レシート落ちてるよ」
「えっ! どこどこ?! きゃあっ、買って来たのがバレちゃう!」
 ……冗談だよな。冗談なんだよな。本気だったらちょっとドジ過ぎるよ……。オレもドジだけど、別にドジっ子が好きと言う訳ではないからね。赤司は。
「キミからのチョコレートはもらわないから。キミはいつぞや光樹を嵌めようとしたからね」
 笑いを堪えながら、赤司が言った。
「本当に、受け取ってやる価値もない……」
 ちょっと間を置いてから、赤司がぼそっと付け加えた。それが、もう一人の赤司に似ていて、はっきり言ってちょっと怖い……。
「行こう、光樹」
「ああん、待って~!」
 リリィが追いかけようとしたが、高いハイヒールのヒールの部分が折れたらしい。リリィは転んでしまった。――赤司は振り向きもしなかった。
 リリィからだいぶ離れたところに行った時、オレは赤司に言った。
「赤司――いくら何でも、リリィが転んだのに黙殺はないんじゃないかなぁ……」
「優しいね。光樹は。でも、キミが気にすることないよ。あの女は強かだから、また相手を見つけるさ」
「まぁ……そりゃそうか……」
 オレが本当に優しかったら、転んだリリィに手を差し伸べたはずだ。それをしなかったオレも、やっぱりリリィにはあまりいい印象を持っていないんだろうな。その優しさが命取りってこと、あるもんな。
 リリィを無視したのは、赤司なりの優しさだったのかもしれない。あの手の女はちょっと思わせぶりな素振りをすると有頂天になるって、赤司、前に言ってたからなぁ。女に関しては赤司の方が詳しいよ。
「赤司。今日はチョコいっぱいもらっただろ?」
 ――オレは話題を変えた。
「そうだね。去年よりも多かった」
「何だよー。それって自慢?」
「キミだっていっぱいもらってるじゃないか。ほら」
「あー、紙袋。忘れて来たって言ったら、ダチが貸してくれたんだ」
「いい友達じゃないか。オレはじいに頼んで家まで送ってもらったよ。大家さんに預かって頂くよう手配してね」
 ……じいですか。……お金持ちは違うな……。
「一日じゃ食べきれない程あるからね。しばらくチョコレートには困らないよ」
 うーん、それはそれで口の中が甘ったるくなりそうだな……。バレンタインデーに好きな男にチョコ贈るなんて、絶対お菓子屋の陰謀だよな。それに乗ってしまう女の子達も楽しんではいるんだけど。
「光樹。まだバイトは始めてないんだろ?」
「ああ……うん」
「オレは――やっぱりいいんじゃないかと思うよ。バイト。いろいろ勉強になると思うし」
「うん……」
 オレ達はそのまま黙ってしまった。本当は、言いたいことがあったのに――。
 ねぇ、赤司。本命チョコをくれた誰かと付き合った方がいいんじゃないかい? ――赤司の為にはそうした方がいいと思ったけど、言えなかった。オレは、赤司の傍から離れたくない。赤司を、離したくない。
 これはオレのエゴかなぁ……。
 いっそのこと、オレがリリィみたいに強ければ良かったんだろうけど……。オレを選んでくれる物好きなんて、きっと赤司しかいないから……。
 オレも、赤司にチョコレートを買ってあげた。あんまり高くないヤツだけど。赤司は嬉しそうに、
「ありがとう!」
 と、頬を染めて微笑んだ。
「オレも、キミにチョコレート買ったんだ」
「え? 何? ゴディバ?」
「ふふふ、それは見てのお楽しみ」
 ――赤司はアパートの大家さんから預かってもらったチョコレートを手渡される。ついでに、大家さんからも板チョコをオレ達それぞれにプレゼントしてくれた。赤司は満足げだった。
「ねぇ、光樹。……これだけチョコレートがあれば、たっぷり楽しめるね。キミにいっぱいチョコレート塗ってあげるよ」
 ……全く、何を言い出すのだろう。この男は。それに、随分罰当たりではないか。
 ――でも、わかったよ。オレだって、チョコレート・プレイに興味がない訳ではないんだ。
 美味しい夕飯を食べた後、赤司がチョコレートを溶かし始める。
「熱いチョコレートは嫌だよ」
 オレは一応希望を言ってみる。
「わかったわかった。いちいち溶かさなくても、オレ達の熱でチョコレート、溶けるかな」
 ――赤司は時々恥ずかしいことを言う。そう言う赤司も嫌いではないけどさ。しかし、
「今日は挿入しないから大丈夫だよ」
 と言われた時には、オレでさえも机に頭をごっつんこしてしまった。

「電気はつけたままでいいね」
「あー、いいともいいとも」
 オレは半ば自棄になって赤司に答える。
「この方が光樹をじっくり見られるからね……チョコレートに塗れた光樹……ふふふ……」
 赤司は怪しい笑いをした。そんな顔でも赤司は綺麗だ。艶がある。きっと、キセキの連中と猥談してても(してたのかな?)赤司にはどこか品があったに違いない。
 ――まぁ、チョコレート・プレイなんて上級者みたいな人がやるプレイ、知ってるヤツではあるけどさ。
「いいかい? 塗るよ」
 ボウルに入った、溶かしたチョコを、赤司は丁寧に塗る。何だか……恥ずかしいけど、気持ちいいって言うか……。甘い匂いが部屋に広がる。まるで媚薬みたいだ。媚薬なんてどういうものか、オレはよく知らないけど、赤司だったら知ってるかな。
「ぬるぬるしない?」
「うーん……ちょっとするかも?」
 本当はもっと上手い表現があったのだろうが、オレには何と言ったらいいかわからない。
 オレは体の芯からどろどろに溶かされたような気がしている。――赤司がオレの乳首を弄った。
「ひゃあっ!」
「ふふっ、可愛い反応だね。光樹」
 赤司はチョコレートのついたオレの乳首を舐める。くすぐったいよ。
「美味しいね。――光樹は一番美味しいチョコレートだ……」
 赤司がぺろりと舌なめずりをする。そんな表情されちゃ、こっちももう……。
「おや、そこにはまだ触ってないはずなのにね。いけない子だ」
 赤司が既に反応しているオレの息子を軽く叩く。
「――そんなに構ってもらいたいんだね。……キミは素直な子だねぇ。光樹の本体と違って」
「赤司!」
「ふふっ。冗談だよ。光樹だってとっても素直でいい子さ」
 そう言う意味で声を荒げた訳じゃないんだけどなぁ……。――恥ずかしいぜ。オレ……。まだこの間の名残りが残ってんのかなぁ……。
「いい子にはご褒美……」
 赤司はオレの股間にチョコを流した。――ああ。またシーツが汚れるぜ……。
 そして、赤司はオレのモノを早速舐め始めた。

後書き
えりょシーンがどうも即物的なのは、私がそういうタイプだからだろうか……。
チョコレート・プレイ、続きます。
2019.12.19

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