ドアを開けると赤司様がいました 85

「赤司。明日、オレ、誠凛行くから――せっかくの土曜日だもん」
 オレは赤司にそう告げた。そしたら、赤司はこう答えた。
「それはいいけど……オレも一緒に行ってもいいかい? 誠凛の練習って興味あるんだ」
「ええっ? 赤司も来るの?」
「――悪いかい?」
「悪くはないけど――」
 赤司征十郎といえば、大学バスケの花形プレイヤーだ。そんな赤司が誠凛に来るとなったら――昔、誠凛に黄瀬が来た時以上の騒ぎになるのは必然で……。
 でも、オレも赤司に誠凛の練習風景を見て欲しかった。例え、赤司が元洛山の選手でも。
「いいよ」
「やった!」
 赤司がガッツポーズをした。――そんなに誠凛に行けるのが嬉しいのかぁ。オレはちょっと嬉しかった。そして、ほんの少し得意になった。オレも誠凛に行くのは久しぶりなんだよな。
「じゃあ、オレが光樹を送って行くよ」
 赤司の今の車は国産車。赤司はポルシェを持って行きたがったけど、オレが止めたのだ。アパートの駐車場にポルシェなんて、悪目立ちし過ぎるよ……。
 でも、その国産車も結構高いと来ている。まぁ、目立つのは今更かな。情報通の間では、オレと赤司が一緒に暮らしていることは周知の事実みたいだし。ほんと、どっからもれて来たんだろう。テレビが取材に来ようとするのを赤司は断ってたっけ。
(あ、はい……オレもいい話だとは思いますが、同居人が嫌がるので……オレのことはプレイで知ってもらいたいので……はい……はい……)
 ――と、赤司が断っていたのを聞いたことがある。それも、一回や二回ではない。
 赤司ったら、何オレをダシにして断ってんだよ。そりゃ、オレもイヤだけどさ……。
「明日、楽しみにしてるよ。光樹。じゃ、おやすみ」

 ――翌日、赤司は鼻歌を歌いながら車を走らせていた。赤司は上機嫌だった。オレも、朝日奈や夜木に久々に会えるのかとうきうきしていた。朝日奈達は後輩に指導しているらしい。
 朝日奈は後輩に好かれているみたいだ。夜木がLINEで自慢そうに語っていた。
「誠凛は強いからね……ウィンター・カップやジャバウォック戦後、誠凛を希望する人も随分増えたと言うじゃないか。洛山は元々強いけど――今は、誠凛か、洛山か、というところみたいだよ」
 そんな……桐皇や秀徳だってあるのに……けれど、赤司の言葉は素直に嬉しかった。
 ――やっぱりカントクが良かったんだな。今度の監督も、相田監督が選んだ人みたいだし。
 まだ、まっぱで好きな娘に告白、という罰ゲームは生きてるんだろうか……。それを朝日奈に訊いたら、朝日奈は、
『さぁ…』
 と、答えた。今度の監督も女性だ。綺麗だけど、厳しい人だ――まぁ、カントクが選んだ人だからね……。
 陽泉のカントクも荒木雅子って言う美人の女の人だからね。女性が活躍する機会が増えるのは単純に喜ばしいことだと思う。
 朝日奈も夜木もバスケが楽しくて仕方ないらしい。朝日奈達の他にも、誠凛のLINE友が何人か出来た。
 オレも、赤司につられて思わず鼻歌を歌った。高校の頃も楽しかったけど、今は今で楽しい。きっと、赤司が傍にいるおかげだろう。赤司がいなかったら、こんなに人生が楽しいと思えなかった。
 でも、オレのバスケ人生は誠凛から始まった。――誠凛に来なかったら、きっとこんなにバスケが楽しいとは思わなかった。そして、キセキの世代のヤツらのおかげで、バスケに情熱を傾けることが出来た。
 そして、楽しいセンパイ達。
 カントクを筆頭にして、メンタルもパワーも強い先輩達。
 そして、光と影のコンビ――火神大我と黒子テツヤ。
 この二人のプレイは、オレは今でも好きだ。同じ大学で、二人で活躍をしていると知って、オレはじーんとした。オレも、火神や青峰や赤司みたいに上手かったら、NBAのスカウト来たかな。
 黒子は……あいつは突然変異だから……。
 それに、あいつが一番力を発揮するのは、きっと火神の隣だから……。
 ずーっと二人でプレイ出来るといいね。火神に黒子。
 ――誠凛に着いた。わぁっ! この校舎! 懐かしい!
 オレが思い出に浸っていると、赤司が、「行くよ」と呼んだ。
 ああ、あの屋上。あの屋上で火神が日本一になるって宣言したっけ。言っただけでなく、実言したところが凄い。
 まぁ、それをサポートしたのは、センパイ達やカワやフク。そして――不肖オレ、降旗光樹なんだけどね。
 オレは体育館へ行く。懐かしい匂いだ。バスケ部も頑張って練習してるな。よしよし。一部小さいのも混じっているけど、一年生かな。
「あ……おはよっス。降旗センパイ……」
 欠伸をしながら朝日奈大悟がやって来た。夜木もやって来た。
「朝日奈クン。もう昼に近いよ。こんにちは。降旗センパイ。赤司サン」
 オレは、赤司が来ることを朝日奈と夜木に話していた。そして、関係者以外、この情報はもらさないこと、と厳重に口止めして。けれど、噂と言うのは伝わるのが早いもので――。
「あら、赤司様よ!」
「ほんとだー! ほんとに誠凛に来たー!」
「……今頃来たのかって感じだけどね……本当に赤司さんだったら、ここに来るのちょっと遅いんじゃない?」
 ――オレは赤司に囁いた。
「赤司……オレのこと誠凛の皆に言った?」
「ん? 言ってないけど? おかしいなぁ……」
「赤司さんは、この誠凛に来るのが遅かったってことだよ。洛山の選手だったから、様子を見に来てもおかしくはなかったのにって」
「わぁぁぁぁっ!」
 オレは飛びのいた。さっきの選手がオレと赤司の間に入って来たのだ。
「誰だい? キミは」
「卯月草太さ。いつか世界一になる名前だから、覚えていてくれよ!」
「はぁ……」
 この自信過剰な部員には、赤司でさえも絶句せざるを得ないだろう。他の部員達は、またか……という目で見ている。つか、既に赤司にタメ口? そういうとこだけは凄いかもしんない。
「……そんなに言うんだったら、さぞかしプレイも抜群なんだろうね……」
 赤司はお世辞半分、本気半分で言った。
「おう! いいか! 見てろよ!」
 しかし……ドリブルは下手。シュートはゴールに入らない……。――最初会った黒子のプレイにそっくりだな。いや、黒子はパスに特化してるから……。
「どうだ!」
 このプレイで得意になれる神経は、まぁ大したもんだ。
「――下手だね」
「……赤司、ダメだよ。ほんとのこと言っちゃ……」
「赤司さんに降旗さん……オレのこと馬鹿にしてるんスか?」
「馬鹿になどしていない。キミには天与の才があるのに、全く生かされていない」
 おお、赤司がマジだ――。赤司は本当にバスケを愛しているから、バスケを馬鹿にしているヤツは許せないんだろう。卯月草太は悔し気に唇を噛んで体を震わせた。
「いつか、上手くなってスタメンになってやる! ――くそっ!」
 卯月草太は吐き捨てるように言った。
「練習だ!」
 卯月の態度が変わったのを見て、赤司が「ふふふ……」と笑った。
「何笑ってんだよ、赤司。――失礼じゃねぇか。いくら年下とは言え……言い過ぎだよ」
「そうか? 光樹は卯月クンの目が変わったことに気がついてないのかい?」
 じゃあ、赤司――卯月の為に……?
 まだ成長期の卯月の背中を見て、オレは、背が伸びてスタメンになった彼の姿を見たような気がした――閑話休題。
「うーっす。降旗センパイ」
「こんにちは。よくきてくれました。降旗センパイ。赤司サンも」
 朝日奈と夜木だ。朝日奈は何だかちょっと眠そうな顔をしている。
「朝日奈、夜木――妹尾カントクは来てないのか?」
「あー、あの人、なんか風邪ひいたっぽいよ。そうだな。降旗センパイや赤司サンにも会いたかっただろうな……」
 そして、朝日奈はもう一度欠伸をする。
「ああいうのを、鬼の霍乱て言うんスかね――」
 夜木ったら、失礼だよ、そんな――。
「ん? 難しい言葉知ってんな。夜木」
「授業で習ったから――健康な人が珍しく病気になるという意味だよ」
「そっかー、オレは、授業中は寝てっからな。バスケの観戦だと寝ねぇんだけど……」
「朝日奈クンはバスケの時はエキサイトしてるもんね」
 ――朝日奈と夜木。仲がいいようで何より。あんなに反目していた後輩コンビが仲良くなったようで、オレはセンパイとして嬉しいよ。赤司はじーっと誠凛の練習を見ている。
「降旗センパイ……何で赤司サン連れて来たんスか?」
「オマエらも――何でまだ部活にいるんだよ。……もう引退したはずだろ?」
「後輩の面倒見てるんスよ……オレらがいなくなってもいいように。それに、オレも夜木もスポーツ推薦決まったから」
「オレと朝日奈クンは学校バラバラになっちゃいましたっスけどね」
「センパイ、こいつW大だぜ。生意気だろ?」
「う……生意気とか、そう言う問題じゃないと思う……それに、朝日奈クンだって本気で勉強したら受かったと思うよ」
「何おためごかし言ってんだよ。オレは『鬼の霍乱』も知らなかった馬鹿だぜ……夜木はスポーツ推薦だったけど、きっと一般でも受かってたぜ。ほんとに頭いいんだから、オマエ」
「いや……オレはバスケと勉強が趣味みたいなもんだから……」

後書き
降旗クンと赤司様の誠凛行き。
オリキャラの成長物語もあり?
2019.11.05

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