ドアを開けると赤司様がいました 78

「赤司君、降旗君、明けましておめでとうございます」
 ――黒子が挨拶してくれた。黒子は着物だ。火神も着物で……何となく火神は窮屈そうだ。ていうか、黒子はともかく帰国子女の火神が和服の着付けなんて出来んの?
「火神、誰かに着付けしてもらったのかい?」
 赤司も疑問に思ったらしく、火神に訊いた。火神は深いため息を吐いた。
「今、タツヤとアレックスが来ててよ――ジャパニーズ正装を習ったからと言って……アレックスが着付けして、タツヤがそれを手伝ったんだ……」
「え? 氷室サンとアレックスが来てるの?」
「ああ。あそこにいる」
 アレックスと氷室サンが、庭の片隅で何事か喋っている。氷室サンはハンサムで、アレックスは眼鏡の似合う金髪の美女で――道行く人が振り返る。
「あ、そうだ。黒子に火神。明けましておめでとうございいます」
 赤司がぺこっとお辞儀をした。いえいえ、どうも――と、黒子もお辞儀で応える。赤司も着物を着れば良かったのに。きっと似合うよ。だけど無理か。オレ達の家には着物がない。
 スマホがブルブル鳴った。
『はい。降旗ですが――』
『おお、降旗。あけおめ~』
『おい、灰崎。オレにも代われ。ハッピーニューイヤー。降旗!』
 灰崎と虹村サンだ。
『赤司にも代われ。どうせお前ら一緒にいるんだろ?』
 う……虹村サンには読まれてるなぁ……。虹村サンの隣にいるんだろう灰崎のニヤニヤ顔が目に浮かぶ。でも、悪い気はしない。――オレは、「虹村サンと灰崎から」と言って、スマホを渡す。
「はい、赤司です。はい。虹村サン、ハッピーニューイヤー。元気でいましたでしょうか、灰崎も――」
 あー、こりゃ長くなるなぁ、きっと……。オレは、後でスマホを返してもらうつもりで振り向いた。
 ――似合いの一対がそこにいた。
「はーい、赤司君。降旗君」
「よぉ……元気か? オマエら」
 それは――日向サンこと日向順平サンと、カントクこと、相田リコさんだった。二人とも着物姿で、腕を組んでいる。
「日向センパイ……カントク……よくお似合いで……」
「どうだい。オレの愛娘は可愛いだろう」
 カントクの父――相田景虎さんがぬっと現れた。うわわわっ! びっくりしたっ!
「景虎サン……明けましておめでとうございます……」
「そうびくつくなよ。降旗――今日は順平のヤツとは休戦だ。なんてったって新年だからな」
 景虎サンがにやりと笑った。景虎サンは一見ヤーさん風で……怖い。でも、娘には甘くて、いっつも「リコたん、リコたん」と呼んでいる。娘ラブなんだ。
「まぁ、リコたんがこいつと結婚することになったら、絶対ぶっ殺そうと思うがな。――リコたんは俺の嫁だ。なぁ、降旗。リコたんは可愛いだろう? 着物も似合うだろう?」
「ええ、まぁ……」
「とてもよくお似合いですよ。相田先輩」
 赤司が如才なく言った。流石は赤司だ。それに、とてもいい匂いがする。――意外と早くスマホは終わったらしい。なら返してもらおうと思った時だった。
 カシャッ!
 カメラの音がした。それとも、スマホのカメラ機能だろうか。そちらを振り向くと、高尾和成がいたずらっぽい表情をしてスマホを構えていた。隣には緑間真太郎もいる。
「レアなシーンゲトー!」
 そう言って高尾は笑っている。
「高尾……それよりも新年の挨拶の方が先なのだよ。――明けましておめでとうございます」
「おう、悪ガキども。明けましておめでとう」
「もう……失礼でしょ。パパったら。明けましておめでとう。緑間クンに高尾クン。――降旗クンもありがとうね」
 そう言ってカントクが笑う。カントクは可愛くなった。日向サンのおかげかな。――でも、あんまり凝視すると景虎サンがうるさそうなので、黒子の方を見た。
「黒子に火神。オマエらどこ行く? ここにはいっぱい屋台があるけど」
「そうですねぇ……綿菓子が食べたいですね」
「黒子っち~。あけおめっス~」
 黄瀬がぶんぶんと手を振る。そんな黄瀬を黒子はまるっと無視する。
「行きましょうか、火神君」
「そうだな」
「ちょっと~。新年の挨拶ぐらいしてってくださいよ~。黒子っちや火神っちと会うのも楽しみにしてたのにさ~。あ、赤司っち明けましておめでとう。――緑間っちに高尾っちに降っちも」
「黄瀬君。笠松さんは?」
「あ、えーと……相田っち? 明けましておめでとう」
「オレのことはアウト・オブ・眼中かよ……」
 日向サンが膨れている。
「何が相田っちだ。うちのリコたんを誘惑したら、ゲンゲンの教え子でも許さんからな……」
「す……すみません、景虎サン……」
 黄瀬も、景虎サンの迫力には敵わないらしい。「笠松サンならあっちにいるよ」と、赤司が指差す。そこには確かに笠松サンがいた。
「笠松センパーイ!」
 黄瀬が笠松サンに飛びつく。笠松サンは離れろこら!とか何とか言ってる。笠松サンにとってはいい迷惑かもしれない。……黄瀬がいくらモデル顔してたって、所詮男だしなぁ……。
 ――黄瀬の周りに女も群がる。笠松サンは困っているようだ。……可哀想に。でも、笠松サンを誘おうとしている女の子もいるようだから、止めなくたっていいのかもしれない。
「青峰がいないな。桃井も――特に青峰は屋台大好き人間なのに」
 赤司が呟く。あー、そういえばいねーな。
「あ、来た来た」
 どこだよ……赤司のエンペラー・アイをオレは持ち合わせてないんだぜ。あ、階段上って来たのか。
「よー、オマエら」
 青峰が上機嫌で手を挙げる。青峰も桃井サンも着物姿だ。桃井サンの着物姿は眼福だぜ。ボインはやっぱり目を奪われる。オレの他にも数人の男どもが桃井サンを凝視している。
 日向サンは……まぁ、カントクを見てるんだろうけど。
「おーい、そこの赤い髪の兄ちゃん。鐘ついてみるか~?」
 赤い髪の男なら二人いるんですが……。
「そっちだよ。そっちのガタイがいい方の兄ちゃん」
 いかにも祭りが好きそうなおじさんは火神を指名した。赤司はちっ、と悔しそうに舌打ちをした。赤司らしくないが、赤司は身長にコンプレックスを持っているのだ。
 ――まぁ、平均よりは高いけど。
(……光樹。オレはね……190㎝以上身長が欲しかったんだ。だから、紫原がちょっと羨ましいよ)
 天帝赤司様にもどうにもならないことがある。そんなことを知って、その時はちょっと赤司に親近感を持ったな。オレは。でも、2mは高過ぎじゃないか?
 因みにオレは赤司と同じくらいだけど、身長で悩んだことはない。
「あ、あの人達」
「きゃー、皆イケメン」
「あの眼鏡の人はもう相手がいるみたいよ」
 眼鏡の人……日向サンのことか。日向サンは昔ヤンキーを目指していたことがあるけど、木吉センパイの説得でバスケ部の主将になった。誠凛バスケ部が今の形になったのは、木吉センパイのおかげでもある。
 あ、そうだ。テツヤ2号は元気かな。
 テツヤ2号は誠凛バスケ部が飼っている犬で、目が黒子テツヤに似てるから『テツヤ2号』と名付けられた。小金井センパイもよく名付けたもんだな。まぁ、2号で定着しちゃったね。
 2号は賢くて、バスケもよくわかる。オレらが在学中の頃は、よく声出ししてくれたものだ。
 でも、最初のうち、火神は2号を嫌っていた。嫌っていたと言うより……怖がってたな。あんな可愛い子犬を怖がるなんて……犬は火神の弱点だ。アメリカにいた頃、尻噛まれたとか言ってたな。――でも、日向サンは「オレは今まで猫派だったけど犬も好きになったな、2号のおかげだ」と、感謝していた。
「カントク、2号元気かな」
「待って。朝日奈クンに訊いてみるから」
 訊いてみるからって――寝てたらどうすんだよ。幸い返事はすぐ来たらしい。
「元気だって。……朝日奈クンもこっちに向かっているそうよ。夜木クンと」
 へぇ~、そいつは良かった。何だか、朝日奈と夜木は今は仲良さそうだけど、あんまり仲良くされ過ぎても、心配になるなぁ、オレ。
 ポン!と肩を叩かれた。
「久しぶりだな。降旗」
「伊月センパイ!」
「ウィンター・カップ、観戦に行ったんだって? オレも行ってたんだけど、会えなくて残念だったよ」
 ああ、伊月センパイは変なダジャレ飛ばさなくなったな。――あれ、黒子がいない。
「黒子は?」
「黒子だったらあっちだよ」
 黒子は火神と一緒に撞木を持っている。鐘の音が鳴った。――今年もいい年になりそうだ。
「結構楽しかったな。鐘つくの」
「でも、ボクは体を撞木に持っていかれそうになりましたよ」
 火神と黒子がそんな会話を交わしている。火神に比べて黒子は華奢だからな。赤司も、ガタイでは火神に敵わない。火神は笑ってぽんぽんと黒子の頭を叩いている。
「あの二人、仲が良さそうだね」
 赤司がいつの間にかオレの後ろに回っている。青峰はマイちゃんを探しているらしい。紫原は……まぁ、寝てるかもな。この時間じゃあな。それに、あの男は眠そうな目をしていることもあるしダルダルだし。バスケの才能はすごいんだけどね。
 ――皆、いい年になるといいな。じゃなかった……いい年にしような!

後書き
おお、降旗クンが前向きになってる!
赤司様って実は身長にコンプレックスあると思います(笑)。私の書く赤司様は結構人間臭いですね。
でも、完璧な人なんて書けないもん(笑)。
2019.10.22

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