ドアを開けると赤司様がいました 68

「日向先輩も伊月さんもありがとう。――キミ、これらをオレの部屋へ持って行ってくれ給え」
 赤司は日向サンやその他のセンパイ達からのプレゼントを近くにいたメイドに渡す。土田センパイも小金井センパイや伊月センパイ達と一緒にプレゼントを選んだそうだ。
「ボク達は手ぶらで来ました。――すみません」
「いいんだ。黒子。お前からはこの間もらったからな」
「でも、何かお菓子でも――」
「いいんだ、いいんだ。オレはキセキの皆やオマエ達に祝ってもらった。それで充分だよ」
 赤司は感極まっているようだった。日向サンが言った。
「そういや、黒子達が赤司のサプライズバースデーパーティーしたようだな。――ちょっと羨ましいぜ。そういう関係」
 日向サンが笑いながら赤司を小突く。赤司が、「いやぁ……」と照れたように答える。こういう時の赤司は年相応で、ちょっと微笑ましいなって思う。日向サンもきっとそう思ったことだろう。
 ――日向サンは涙もろくて情に篤い、いい男なのだ。カントクも男を見る目があると思う。
「おー、フリじゃねぇか……と、火神」
 オレはちょっと心配になった。というのは、オレは火神と青峰の微妙な関係を知っているからだ。青峰は火神が好きで――でも、火神は黒子が好きで、だから、青峰はフラれてしまったのだ。
「よぉ、青峰」
 火神は何事もなかったかのように返事をした。
「――また一緒にバスケやろうぜ」
「そうだな。あ、綺麗なねぇちゃん。じゃあな。――火神」
 青峰は一人でいた綺麗な女の人に向かってアタックしている。女の人も満更ではないみたいだ。青峰は色黒いけど、いい男だもんな――今度の恋は上手く行くといいなって、青峰には桃井サンもいるじゃねぇか。
「テツくーん!」
 噂をすれば! 桃井サンが黒子に抱き着く。火神は少し面白くなさそうだ。
「テツ君、テツ君も来てたのね。きゃあ! その格好よく似合ってるわ。決まってる! テツ君、いつもよりもいい男! バスケしてるテツ君もいい男だけど。ウィンター・カップの決勝に行く約束、テツ君忘れてないよね」
「はぁ……」
「残念ながら桐皇は負けてしまったけどね――だから、誠凛応援する! 決勝に行けるといいね!」
「――ありがとうございます」
 今回の決勝も誠凛対洛山が有力だと囁かれている。誠凛と洛山は今年もレベルが高い。あの熱戦の再来か――と、既に巷では騒がれ始めている。オレは、ちょっと複雑な気分だった。オレは誠凛の選手だったけど、赤司は洛山の選手だったから――。
 オレが赤司の方を見ると、赤司はオレの気持ちを読んだみたいで、にっこりと笑った。そして、
「光樹は好きなチームを応援していいんだよ」
 と言ってくれた。
「でも、ほんのちょっとは洛山のことを応援してくれると嬉しいな」
「うん! うん!」
 オレは力いっぱい頷いた。
 どのチームもも死力を尽くして戦ってくれるといいなぁ。――そういや、朝日奈と夜木はスタメンだったな。
 頑張れよ。朝日奈。夜木。お前達は今、バスケをしてるんだろうな。試合が終わっても練習とか言って。……オレがパーティーなんぞにうつつを抜かしている間に。
 ――うちの母ちゃんの香水の匂いがした。オレはばっと振り返る。
「母ちゃん!」
「光樹。久しぶりね。あら、皆さん綺麗な格好なさって」
「へへっ。だって、赤司家のパーティーだからな」
 小金井センパイが鼻の下を擦る。
 ――オレは滅多に実家に帰らないから、お袋に会うのは誕生日祝い以来だ。
「ところで父ちゃんは?」
 オレはきょろきょろと辺りを見回す。お袋がご馳走のコーナーを指差す。
「あそこよ」
 ――ご馳走を持って来た父ちゃんが現れる。
「やぁ、母さん。持って来たよ。キミの料理。――やぁ、光樹。また大人っぽくなったじゃないか」
「赤司の見立てのおかげだよ。父ちゃん」
「そうか……光樹。オマエの分も持って来るか」
「よしてくれよ。俺が勝手に選んどくから。――父ちゃんも元気そうだね。……あんまり家帰ってあげらんなくてごめんね」
「いや、いいんだよ。――光樹も自立の時なんだから。それに、赤司君と一緒なら、父さん安心だよ。光樹、赤司君と今でも仲良くしていれば、父さん嬉しいんだけどな」
「うん! 時々オレが我儘言うんで、赤司を困らせてるんじゃないかと、それが心配なんだけどね……。赤司は優しいから、いつでもオレに気を遣ってくれているんだ」
「いや、光樹君はとてもいい子ですよ。気を遣ってくれているのはオレの方です」
 赤司がそう言ってくれると、嬉しいな……。いい子と呼ばれるのは……まぁ、オレの方が一月以上年上なんだけどな……。
「そうか……良かったな。光樹。いい友達が出来て」
 友達、か……。
 いずれ恋人になるかもしれない。そう言ったなら、親父もお袋もどんな反応示すだろうな。母ちゃんは物に動じないからいいとして。問題は父ちゃんだよな……。ちょっと父ちゃんの反応が心配……。
 因みにオレは、父と母のことを「親父、お袋」と言ったり、「父ちゃん、母ちゃん」と呼んだりする。
「どうしたんだい? 光樹。ぼーっとして……」
「……ん。考え事。オレ、幸せだなぁ、と思ってさ。尤も、悩みがない訳じゃないけれど……」
「そっか。何かあったらオレに言うんだよ。――話し合いは大事だからね」
「いつか、話すことがあると思うよ」
 オレも、赤司にはっきり物事を言えるようになった。親父とお袋がニコニコしてそんなオレ達の姿を見ている。オレの元チームメイト達は、オレ達の後ろでわいわいと談笑している。
「こんばんは、降旗君。そちらは降旗君のご両親ですね。初めまして。赤司征十郎の父でございます」
 そう言って、オレらのところに挨拶に来た赤司の父さんはオレの父ちゃん達に向かって頭を下げた。
「降旗君の誕生会には出て行けなかったもので――だから、降旗君のご両親に会うのは今回が初めてですよね。征十郎が世話になっております」
「あらまぁ、そんな――世話になっているのは息子の方ですわ。こちらこそ、いつもどうもありがとうございます」
 そして、母ちゃんも深々とお辞儀をした。
「……料理には満足なさったでしょうか?」
「え? ああ、ありがとうございます。これから食すつもりでいましたのよ」
 ――母ちゃんが余所行きの声と言葉遣いになってる……。
「ああ、済みません。いろいろご予定もあるでしょうし――気軽に楽しんで頂ければ結構です。あまり固くならずに……ほら、皆さんも楽しんでいただけたら、私としては嬉しいです」
 そういや、皆、結構リラックスしてるようだな――赤司の父ちゃんの人徳だろうか……。
「それで、あの……私達、何も持って来なかったのですけれど……」
 手ぶらで来たのか! 母ちゃん! 心臓つえーな。……いや、オレも手ぶらだけどさ。
「構いませんよ」
 赤司の父ちゃんはにっこり。そういや、赤司の父ちゃんて、征臣って名前なんだって。征臣サンはいい男だよなぁ……赤司も将来はああなるんだろうか……詩織サンもとても美人だし。
 母ちゃんも赤司の父ちゃんに対してそう思ったらしく、征臣サンの去っていく後ろ姿をうっとりと眺めていた。
「赤司さんのお父様はいい男ねぇ……」
 と、語っていた。
「私も後三十年若くて、独身だったらねぇ……」
 母ちゃん。それはない。だって、オレの母ちゃんて、オレと顔がそっくりなんだもん。詩織サンみたいな美人ならともかく、征臣サンとオレの母ちゃんじゃ……釣り合わないよ。親父が口をへの字に曲げた。
「母さん。俺の立場はどうなるんだよ……」
 そう言った父ちゃんの気持ちも、わかる。それに、息子のオレの気持ちもわかってくれよ……。赤司はくすっと笑って「光樹のお母さんは面白い人だね」と言った。まぁ、母ちゃんもジョークのつもりなんだろうけど。
「でも、やっぱり、私にはお父さんと光樹がいて良かったわ。さっきのは冗談ですからね」
 やっぱりジョークか……父ちゃんが、
「そういえば、僕はプレゼントがあったんだ。赤司君に。母さん、預けておいた僕のバッグを返してくれないか」
「あら、あなた。いつの間にそんな物を……そこに置いてあるわよ」
「そうか……だって、赤司君にはいろいろ世話になっているじゃないか。光樹のことについても……」
 ありがとう……親父。やるじゃないか。赤司に代わって礼を言うよ。心の中で。赤司も喜んだらしく、
「ありがとうございます」
 と、嬉しそうに礼を言った。
「いやいや。パーカーの万年筆セットだ。安い物で済まないね」
 すると、赤司が体をふるふる震わせた。――何だよ。赤司。オレのようなチワワメンタルじゃないだろ? こんなことで震えるなんて――。赤司の震えは歓喜の震えであったらしく――。
「ありがとう……ございます……ありがと……ございます……」
 そう言って、赤司はプレゼントの入った箱をぎゅっと抱き締めた。
「大切に、しますから……」
「いや、あの……ただの安物ですから……」
 親父の方がかえって恐縮したらしい。お袋が赤司の肩を撫でる。
「今度は私も何か持って来ますからね」
「光樹君のお母さんも……ありがとうございます……」
 そして、赤司はぽろぽろと涙を流した。パーカーの万年筆セットって、そんな、もらって涙が出る程、嬉しい物だったか? ダンヒルのネクタイの方がオレはもらって嬉しいぞ。
 それに、キセキのメンバーからのプレゼントもらった時だって、こんな反応は――。
「済みません。光樹君のお父さん……貴方からもらった物だと思うと……オレは光樹君が好きですから、大好きですから……その御尊父に頂いたものだと思うと……ちょっと失礼していいですか?」

後書き
パーカーの万年筆だろうと、ダンヒルのネクタイだろうと、私はもらって嬉しいぞ(笑)。
あ、でも、私は女だから、ネクタイが必要になることはあまりないか……。
2019.09.28

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