ドアを開けると赤司様がいました 67

 オレ達は、教会から沢山のお土産をもらってしまった。駄菓子もあるから、紫原なんか大喜びだろうな。
「楽しかったね。赤司」
「ああ、それに、皆とてもいい人達だ」
 オレ達は讃美歌も歌った。『あら野のはてに』は、オレも気に入ってしまった。赤司が訊いたところによると、あの教会はプロテスタントらしい。女性『牧師』もいたから、そうだろうとは思っていたけれど。
「明日はうちでもクリスマス会をやるよ。キセキや虹村サン達もよぶよ。と、虹村サンは灰崎とアメリカ行きか。――元誠凛のキミの仲間達もよぼうか」
 けど、オレには気にかかることがあった。
「この間、オレらが買った食材、まだ残ってるんだけど、傷んでしまわないだろうか――」
「その時はその時だよ。時には何かを捨てることも必要なんだ」
「うん……」
「それに、朝食べてもいいしね。明日の朝はオレが食事当番だよ。でも、光樹は優しいね。残った食材のことまで気にかけているなんて。オレは勿体ないとか、そんなことあまり思ったこともなかったよ」
 優しいからとか、そういう問題でないと思う。赤司がするっとオレの腕に自分の腕を絡ませる。オレはちょっと照れ臭かったけど、赤司のするがままにさせておいた。星が綺麗だった。

 ――朝食は最高だった。じゃがいものオムレツに海の幸のサラダ。ほうれん草のポタージュ。――余り物で作ったとは思えない程美味しかった。オレは笑顔になっていたことだろう。
 ……赤司は何でも出来るなぁ……。
 幸せになりながら、オレは料理を全て平らげた。
「ご馳走様。すげー旨かった」
「光樹……オレの実家でのディナーはもっと豪華だよ」
 赤司がはんなりと笑った。
「え、でもこれはこれで美味し……」
「じゃあ、頑張ってもっと美味しい料理作るからね。光樹が喜んでくれそうな」
「オレも、また赤司に何か作ってやるよ。……勿論、赤司には敵わないだろうけどね」
「光樹も充分上手だよ。焼き飯なんて作ってくれたの、光樹が初めてだったから。――また作ってくれないかい?」
「いいよー、あんなんで良ければ」
 オレ達は笑った。赤司もよく笑う。赤司の父さんが見たら、きっと嬉しくなるんじゃないかな。赤司父は息子の意志を汲み取るいいパパになった。子供が可愛くない親なんていない。
 赤司父が変わったのは、赤司の母、詩織さんの存在も大きいかもしれないけれど。
「キミ達のご両親もパーティーによびたいな……」
「待ってて。親父はどうかわからないけれど、お袋なら来られると思う。LINEでお袋に訊いてみる」
 お袋は『喜んで伺います』と言っていた。いや、オレが相手なのだから、正確には、『必ず行くわ』という返事だったけれど。
「お袋、来るって」
「良かった。オレの未来の義理の母だもんね」
「ええっ?!」
「嫌かい?」
「いや、別に――」
 そういえば、前に赤司に、「光樹との結婚も考えている」と言われたこともあったんだっけ。赤司なら、どんな女性でも喜んで結婚相手になってくれると思うんだけどなぁ――リリィのような女性でも。
 オレはどうも本気に出来ないのだが、赤司は真剣らしい。
 クリスマス・イヴかぁ……恋人同士が一番盛り上がる日だよなぁ……。そんな日にオレは豪華な夕食を食べるのか。――うん。悪くないな。恋人はいないけど……。
 いや、赤司がいるか。赤司が笑顔を見せる。オレはぼっと頬が燃えた。
 ――やっぱり赤司は美形だなぁ……。お父さんも貫禄あるし、お母さんは美人だし。
 何で、オレなんかにかかずらってんだろう。――同じ講義を受けている生徒達にとっても、それは謎のひとつらしい。
(何で降旗君なんだろうねー)
(ねー、私も前から気になってたんだ)
(いや、オレはわかるぞ。赤司の気持ち。降旗、時々可愛いもんな。バスケは上手いし)
 ――オレは男にモテる方らしい。赤司にそう言うと、赤司は、「ライバル出現だね。光樹を取られないように気をつけなくちゃ。――それから、女達は大抵は馬鹿だけど、中にはそうでもないのもいるからな」と言っていた。
 女達が馬鹿だなんて、ウーマン・リブの闘士に訴えられないかな……赤司は赤司グループの御曹司だし。尤も、そんなことを人前で言う程、赤司も馬鹿じゃないだろう。
「なんか持って行かなくていいの?」
「ああ。手ぶらでいい。オマエはオレの身内だから」
 そうだなぁ――下手な物持って行って笑われたりするのは嫌だな……。
「我が家のクリスマスパーティーには、いろんな人が来るよ。有名人と呼ばれる人だってね。何も持って行かなくていいから、騒ぎだけは起こさないでくれないか」
 ――そして、夕暮れ時、オレ達は赤司の車で、パーティー会場に向かった。会場は赤司の屋敷なんだけどね。
 パーティーは、美男美女で溢れかえっていた。オレ、浮いてないかな。一応、赤司の見立てでスーツを用意してもらったんだけど。
「ハーイ、征十郎」
「ハイ」
 金髪美女が赤司に話しかけて来た。――アレックスにちょっと似ているけれど、彼女よりよっぽど優雅。
「そちらの隣りの可愛い男の子はどなた?」
 日本語も達者らしい。しかし、男の子って……オレはもう十九なのに……。
「降旗光樹だ。今度オレと結婚するんだ」
 けっ、結婚だって……?! そんなこと、まだ決めかねているのに……。確かに少しは考えなくもなかったけれど……。オレが目を白黒させていると、美女は明るい笑顔を向けた。
「そうなの。式にはよんでね。バイ」
美女は行ってしまった。
「あの娘は及第点だな。だが、もう恋人がいる」
「でしょーねー」
 あんなに魅力的だもん。――あ、氷室サンにエスコートされたアレックスがいる。やっぱり似合いの一対だなぁ。……紫原のヤツ、拗ねてなきゃいいけど。
「フリー!」
 オレはどん、と背中を押された。見ると、そこには誠凛のメンバーが。センパイ達やカワやフクがいる。
「お久しぶりねぇ」
 ドレスアップしたカントクが、正装した日向サンと腕を組んでいる。カントクも綺麗で良かったなぁ……日向サンの為に、オレはそう思った。
「やぁ、日向。カントク綺麗じゃん」
 小金井センパイがそう言った。
「…………」
 水戸部センパイがこくこくと頷く。
「あら、やーだ。小金井クンたら……」
 そう言いながらもカントクは悪い気はしないようであった。日向サンも機嫌良さそうだ。だって、好きな人を褒められると気分いいもんね。オレも覚えがあるからわかるけど――。
「メリークリスマス。降旗に赤司」
 伊月センパイがにっこりと笑う。伊月センパイは整った顔立ちのいい男で、実際モテるのだが、ダジャレノートを見せると大抵の女性は引いて行ってしまう。
 ――土田センパイがいない。
「センパイ。土田センパイは?」
「――彼女とデートだって。いーよなぁ。彼女とデート……」
 小金井センパイが何だかほわほわしている。そっかぁ。彼女とデートかぁ……。良かったね。土田センパイ。
「黒子と火神は?」
「ここです」
 涼やかな声がした。火神と黒子が揃っていた。
「あー、この家、トイレもでけーのなぁ……」
「火神君、こんなところでそんな話はやめてください……」
「やぁ、火神。プレゼントありがとう」
「おう、使ってくれてっか?」
「ああ、喜んで使わせてもらってるよ」
「そういえば、赤司の誕生日は十二月だったな。二十日だっけ?」
 日向サンが言った。
「――はい」
「キセキのサプライズパーティーのことは黒子から聞いてる。良かったな。赤司。それからこれ。遅くなったがオレ達からのプレゼントだ」
 日向サンが長い箱を差し出した。
「――何ですか?」
「ネクタイだ。ダンヒルの」
 日向サンの台詞に、誠凛のメンバー達一同は目を丸くした。
「ダンヒルって、あのダンヒル?! 日向すげー!」
「おお、流石だな! 日向!」
 小金井センパイと伊月センパイが日向サンを褒める。けれど、実はカントクが代金の大半を払ったんだそうな。赤司には世話になったから――そう言って。けど、日向サンも払ったんだよ。
「オレ達もお金出し合ってクリスマスプレゼント買って来たんだけど、ダンヒルの前じゃ霞んでしまうかな」
 伊月センパイが言った。
「オルゴール付きの時計だよ。良かったら部屋に置いてくれないかな。いや、コガが店の中でじーっと興味深げに凝視してたからさ……こういうの、赤司はもう既に持ってんじゃないかなって思ったんだけど」

後書き
ダンヒルのネクタイ! 流石だ日向サン! 元ネタも一応ありますが。
オルゴール付きの時計は私が欲しいくらいだよ!(笑)
2019.09.25

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