ドアを開けると赤司様がいました 63

「はぁ……今日は買い過ぎたな……」
「後で目いっぱい飾りつけしようね」
 オレは、部屋を飾り付けるとか、そういうのが大好きだ。いくらやっても飽きない。赤司さえ、呆れた顔で、
「光樹は子供みたいだねぇ」
 と呟くぐらいだから。それでも、赤司は一緒に手伝ってくれる。元々はそういうヤツだったんだ。赤司は。でも、初めてのウィンター・カップの時に火神に怪我させようとしたのも赤司で――。あれはもう一人の赤司の方だったと思うんだけど。
 まぁいいか。
 ガチャリと玄関の鍵を開けると、破裂音と火薬のにおいがした。
「サプラーイズ! ハッピーバースデー! 赤司」
 ――ドアを開けるとキセキのメンバーと黒子と桃井サンがいました。
「な……何で……! 鍵は閉めたはず……!」
「ボクが降旗クンのお母さんに合鍵作ってもらったんですよ。パーティーの旨をお話しして」
 なっ、母ちゃん……それで合鍵黒子にやっちゃったのかよ……。
 ……やるかもな、そのぐらい。赤司にすら合鍵渡しちゃうような親だもんな……。オレにも何か言ってたかもしれなかったが、オレは何にも聞いてなかった。少なくとも記憶にはない。
 でも、今回の主役は赤司だ。オレがとやかく口出すような問題ではない。しかし、黒子も随分キセキと仲良くなったもんだ。尤も、赤司に言わせると、
(中学時代は黒子もオレ達と仲が良かったんだよ。――Jabberwock戦の時からかなぁ……オレ達の距離が再び近くなったのは)
 何だよ。一年のウィンター・カップの後、黒子やキセキや桃井サンも集まってたじゃねぇか。オレがそう言うと、
(まぁねぇ……その後インターハイの確執とかあったし――)
 と、赤司も多くは語らなかった。けれども良かったな。黒子。お前、最高にいい顔してるぞ。
 ――まぁ、今日の主役はあくまでも赤司なんだけどな。
「こんなに準備してくれて――飾りつけも上手くって……光樹の出番がなくなったな」
「あは……えへへへ……」
 全くだよ。本当に。けれど、俺には誤魔化し笑いしか出来ない。オレってばやっぱりチワワメンタルなのな。
 ――言いたいことをきっちり言える、赤司が羨ましかった。ずっと羨ましかったんだ。ほんとだぜ。
 その赤司に日々アプローチをかけられてどうしようかわからないオレがいますが――。
「飾り付けは桃井サンがやってくれたんですよ」
 黒子が説明する。桃井サンか。だったら許してもいいかなぁ。そういえば、女の子っぽい装飾だなぁ。
「えへへ。テツ君と赤司君の為に張り切って飾り付けたんだ」
 桃井サンは力こぶを作ってみせる。そりゃ、桃井サンはかよわい女の子だから、力こぶなんてないも同然なんだけどね……でも、その仕草が可愛い……。そして、すっかり可愛くなったオレ達の部屋。
 赤司はきょろきょろしている。いつもの彼に似合わず挙動不審だ。赤司は言った。
「も、桃井……まさかキミは料理はしてないだろうね」
「そのつもりだったんだけど……ムッ君がその仕事取っちゃった」
「ああ、だって、桃ちんの料理って、あれ料理じゃないもん」
 紫原は女の料理をばっさり。
「オレ、食べ物作るの好き~。食べるのはもっと好き~」
 ゆる~い喋り方で鍋を運んでいる紫原。大丈夫かなぁ、本当に。――その不安が顔に出ていたらしい。俺に生気を与えるように、赤司が背中をぽんぽんと叩いた。
「大丈夫だよ。光樹。紫原の料理の腕は確かだ」
 そ、そか。良かった……そういえば、いい匂いがするもんな……。
「ボクもゆで卵なら負けません!」
 黒子……何だよ、その対抗意識は……。こいつ結構負けず嫌いだしな……。
 でも、帝光メンバーが揃って集まって、オレはここにいていいんだろうか。緑間も今日は高尾を連れて来ていない。驚かそうとどこかに隠れている可能性もあるが。
 初対面の時にはオレも邪魔者扱いされたからな。――赤司に。
「オレ、今日はサテンかホテルで時間潰してくるわ」
「何でだい?! 光樹!」
「だって、赤司の誕生会だろ? オレ関係ねーじゃん」
「おい、フリ。オレ達、お前にもクリプレ用意したんだぞ」
 青峰も赤司に応戦する。紫原は相変わらずゆる~い感じで言った。
「オレは一人ぐらい増えてもいいって思うけどねぇ……どうせ室ちんはアレックスちんとディナーだし」
「オレが……オレは場違いなんだろっ!」
 オレは叫んだ。
 言った……言ってしまった……。
 でも、あの時の赤司のセリフはオレのトラウマになってるから……例えそれがもう一人の赤司だったにしても――。
「光樹……あの時は悪かった……だから……オレの誕生会に参加してくれ。……ここは光樹の家でもあるんだから」
「赤司……」
 わかった。オレも大人げなかった。
「赤司……誕生会にこんな騒ぎ起こしてごめん……」
「何を言うのだよ、降旗。帝光にいたらこんなことはしょっちゅうだったのだよ。部活を勝手にサボるヤツはいるし、敬意の表し方を間違えるヤツはいるし――」
 緑間がアンダーリムの眼鏡に手を遣った。緑間にもいろいろ言いたいことはあるらしい。
「そっスよ降っち。パーティーは楽しんだもん勝ちっス」
「あーん? いたのか、黄瀬」
「青峰っち、何気に酷いっス!」
「は……ははっ」
 オレは笑った。オレがここにいていいのか、今もまだわからない。だけど――いいや。今が幸せならば。オレにもまだこだわりはあるけれど、差し伸べられた手を振り払う程ではないし。
「それでな……赤司……」
 緑間がコホン、と咳ばらいをする。
「オレの為に降旗からもらったブレズレットを貸してくれてありがとうなのだよ。ほら、これだが。ちゃんと大切に身に着けているのだよ」
 ブレスレットがきらりと光った。
「高尾からは呆れられたのだよ。随分笑われたのだよ……でも、その後、念を押されたのだよ。『赤司や降旗みたいに、真ちゃんの事情わかってくれる人ばかりだと思ったら大間違いだからね』って」
 緑間は少し済まながっているようだった。
「お礼を持って行けと言われたんで、これにした。48色のクレヨンなのだよ」
「――オレが絵を描くのも趣味としていることも覚えていてくれたんだな。ありがとう、緑間。――降旗はオレにも新しいプレゼントを買ってくれたから、人生万事塞翁が馬だな」
「それは良かったのだよ。――どんな物をもらったのだよ」
「革表紙の手帳をもらったんだが……」
 その時、緑間が物欲しそうな顔をした。
「オマエ、まさか……」
「それは明日のラッキーアイテムなのだよ」
 ええっ?! どうしよう! またあんな騒ぎが起こるのかと思うと、オレは少し困惑してしまった。
「わかった。――はい」
 ……赤司は、案外素直に緑間に手帳を渡した。
「え? いいのか……? ――なのだよ」
 この反応には、緑間も驚いたらしい。アンダーリムの眼鏡をかちゃっと直す。照れ隠しなのだろう。
「ああ。汚したり破いたりしなければ」
「けれど――これも降旗からもらった物だろう?」
「……降旗からはいろんな物をもらったからね」
 赤司……オマエ、大人になったな……。
「それに、オレには降旗光樹本人という、神様からのプレゼントがあるしな」
 そう言って、赤司はオレの肩を抱いた。
「赤司君。ボクからはキミがいつぞや欲しいと言っていた絵本です。綺麗な絵だから、ボクも好きですが、ボクは後で自分で購入します」
「ありがとう。黒子。――確かに綺麗な絵だったね。ところで、火神は今日は来てないのかい?」
「『オレが行ったって邪魔になるだけだから、オマエだけで言って来い』って……。でも、プレゼントは預かって来ましたよ。赤いタオルです」
「おお、赤はオレの色だ。――火神にも宜しく言っておいてくれ」
「はい」
「赤司君、私と青峰君からはこれ! あげる!」
 それは、クマのぬいぐるみだ。いつぞや、ディスプレイに飾ってあったのと似ている……。可愛い……。
「お前ら、これ……」
「降旗君に似てるなぁと思って……青峰君がお金払ったんだよ」
「おう。バイトで稼いだからな」
 ――青峰でさえバイトしてるのか……オレも何かバイトした方がいいかな……。赤司が嬉しそうに礼を言っていた。
 黄瀬からは、オレが誕生日にもらったのと同じ香水。香水はつける人によって、ラストノートが違って来るらしい。そのことは赤司も知っていて、既に確かめ合った後なんだけどね……皆、ありがとう。
 今日は赤司の誕生日なのに、全員、オレにも気を遣ってくれてるんだよな。赤司は、クレヨンでオレに絵を描かせたがった。オレは、仕方がないから、アップルハニーの絵を描いた。
 因みに、紫原は赤司にまいう棒の詰め合わせを贈った。紫原は手ぶらで来たんじゃないかと思っていたオレは、彼の気遣いに驚いたものであった。

後書き
ムッ君は多分料理もお菓子作りもじょうずなんじゃないかなぁと勝手に想像。本当はどうなんでしょうか。
赤司様に、こんな誕生日があったらいいなぁ、と思って書きました。
2019.09.14

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