ドアを開けると赤司様がいました 60

 ――LINEのグループで灰崎から文章が届いた。
『あー、ひでぇめに遭ったぜ』
『ああ、そう』
『…オマエ、他人事のように言うな。降旗…。オマエも受けたんだぞ。予防接種』
『オレは人並には病院慣れしてるから』
『ああ、くそ。オレは数年も病院に行かなかったのが自慢だったんだぞ。でも、虹村サンが病院行けって言うから…オレ、やな予感がするからあんなに行きたくないって言ってたのによぉ。ただの微熱だっつの』
『大事にされてんだな』
『どこが』
『赤司もオレに病院行けって言った』
『てめーらと一緒にすんな! 虹村のヤツ、注射プレイもありだな――なんて目を光らせてたんだぞ。それでも大事にされてるって言うのかよ』
『それは…』
 流石のオレも引きかけると――。
『こんにちは。灰崎君。降旗君』
 あ、黒子だ。
『何で黒子がいんの?』
『オレが招待したんだよ』
『灰崎クンも、降旗クンも、すっかり仲良くなって…ボクは嬉しいです。中学や高校の時は考えられませんでした…』
『おい、テツヤ。降旗はオレ達の中学生の時のことなんてあまり知らねぇだろ。まぁ、ちょっとオレと赤司の確執のことは降旗も知ってるかもしれねぇけどな。少し喋ったから』
『オレ、黒子の話も聞いたことがあるよ。何となく、わだかまりっぽいのは今でも感じられる。でも、赤司もそのことに関しては済まながってるんじゃないかなぁ。黛サンのことについても済まながってるみたいだし』
『赤司に会ったら、黛サンを泣かせたらオレが許さんとでも言っとけ。オレ、あの人の本好きなんだから』
『わかった』
『本って?』
 そっか。黒子は同人誌のこと、あまり知らなさそうだな。
『同人誌だよ。薄いヤツ』
『ああ、あれですか。ボクも結構読んでますよ』
『ホントか? オレ、BLは苦手だけど、黛サンのは純愛って感じがして好きなんだ。今回もさ、最後の林檎と主人公の会話なんて涙ものだぜ。黛サンの話は原作より好きかも。オレ』
『ボクも読んでみたくなりました』
『貸すぜ』
『いいんですか?!』
『ああ。降旗の描いた下手な犬の裏表紙が目印だ』
 ――やっぱり灰崎もオレの絵が下手だと思ったんだ。……だけど、いくらチワワメンタルでも、そこで傷つく程オレは脆くない。
『まぁ、オレは好きだけどよ』
 ありがとう、灰崎。その言葉だけで充分だよ。
『ボクも同人誌には興味はありますが、今はバスケに夢中なんですよねぇ』
『ああ、テツヤはほんとにバスケ馬鹿だよな。赤司もバスケ馬鹿だと思ってたから、赤司が売り子している場面に遭遇した時はびっくりしたぜ』
『火神君と練習してるから、少し上手くなりました。荻原クンとも会う約束してます』
『火神ねぇ…オレ、バスケではあんまり人褒めねぇんだけど。あいつはすごい。だけどムカつく』
『どうしてですか?』
『虹村がさ…将来NBAに行きたいんだと』
『いい夢ですね』
『でも、みんな赤司や火神のことばかり持ち上げてよぉ…』
『ふふっ』
『…何だよ』
『大事な人のことをおざなりにされると人って腹立つものですよねぇ』
『虹村だってかなりの実力の持ち主だぜ。アメリカで通用するかどうかしらんけど。で、テツヤだって、おめー天才なのに何でマスコミが取り上げねぇの?』
『…地味だからじゃないでしょうか』
『面白くないんじゃね?』
『ボクは別にいいんですが…今度月バスに火神君の特集が載りますよ』
『ほんとか?! おっし! 絶対見てやるぜ!』
 灰崎と黒子のやり取りをオレはほっこりした感じで読んでいた。灰崎は火神が……まぁ、複雑な気持ちはあっても、取り敢えず気に入ってはいるみたいだな。
『嬉しいです。でも、灰崎君も本当は火神君のことが好きなんではないですか?』
 俺が訊きたかったことを黒子が訊く。
『ああ。つえぇヤツは嫌いじゃねーぜ。ムカつくこたムカつくけど、それは置いといて』
『灰崎君…』
『それに、火神はテツヤの恋人でもあるしな』
『ああ、あの騒ぎ、覚えてましたか。今考えると少し恥ずかしいですが…灰崎君相手でも、火神君は渡しませんよ』
『あー、もうヒトのもの奪うなんてしねぇって。何も奪わなくても、今が幸せだからそれでいいんだって。オレ、もう誰からも何も奪おうとは思わなくなってよ。テツヤの大胆発言に関する騒ぎにはびっくりしたけどな』
『灰崎君。…変わりましたね』
『おう。…オレもそう思う。それに、略奪愛なんてしたら、虹村に殺されるぜ』
『虹村サンも幸せなんですね』
『…ん。そういうことは本人に訊けよ』
 赤司が「ただいまー」と言って帰って来た。
「あ、お帰り」
「今日も予定より早く帰ることが出来て良かったよ。――スマホかい?」
「ああ、うん。オレ、先に飯食べちゃったから」
「そうか。早いね。オレの分もあるかい?」
「勿論。あ、あっためた方がいいよ」
 しばらくして、温かい、夕餉の匂いがほわんとして来た。いただきます、と言う赤司の声が聞こえる。
 味噌汁の具は油揚げとジャガイモ。……本当はわかめ入れるともっと美味しいんだけどな……でも、赤司が嫌いじゃしようがない。わかめと豆腐の組み合わせなんてポピュラーなのにな。
 オレ達がLINEを続けていると、夕飯を終えたらしい赤司が、
「オレも入っていいかい?」
 ――と訊いた。
「いいよー」とオレは答え、赤司を招待する旨を灰崎と黒子に話した。
『げっ、じゃあ、オレ、落ちるわ』
 ――灰崎は逃げてしまった。
『やぁ、黒子』
『こんばんは。赤司君』
「灰崎は逃げたよ。赤司が来るからって」
 オレがこっそり教えると、「そうかい…まぁいいや」 ――と、相変わらず物に動じない。赤司と灰崎の距離も少しは縮んだんじゃないかなと思うのにな。そこへ、虹村サンが来た。
『よう。黒子、赤司、降旗』
 オレ達は皆で虹村サンに挨拶する。
『灰崎いなくなったろ』
『さっきまでいたよ』
『あいつ、オレに、アンタがオレの代わりに赤司達と話してくれ、後は宜しくって言ってたぜ。ああ見えて気ぃ使ってんだな』
 んー、それって、気を使ってるって言うのかな……。
『黒子。他の二人には話したが、オレ、今年はロサンゼルスでクリスマス迎えるよ』
『おめでとうございます』
『親父もだいぶ良くなって来たしな。親父を治してくれた医者には感謝だぜ。もう、親父もすっげぇ元気! それから、オレもどこそこへ回ろうぜって、灰崎と相談しているところだよ』
『クリスマス…後一週間…そのぐらいですか』
『おう、新年も迎えるつもりだぜ』
『いいクリスマスになるといいですね。赤司君や降旗君にとっても』
『いいクリスマスさ。同じ家に光樹がいるんだから』
『はいはい。惚気は後でやってくれ』
『虹村サンと灰崎も充分惚気てると思いますが』
 オレは、正直な感想を送った。オレは時々正直過ぎてえらい目に遭うことがある。赤司にそう指摘されて、なるほどとつい頷いてしまった。赤司はオレのことをよく観察している。
『赤司君、降旗君。ボク達はボク達でパーティーしませんか?』
『それはいいな! で、せっかくだから黒子ん家に行きたいんだけどダメ?』
『でも、ボクん家狭いですからねぇ…降旗君達だけだったらいいんだけど…多分ぎゅうぎゅう詰めになるけど、それでもいいのなら』
『だったらオレの家に来るといい。光樹の誕生会の時より、いろんな階級や年齢層の人が来るから、光樹の社会勉強にはなると思うよ』
『あ、そうだ。赤司君。少し早いですが、誕生日おめでとうございます。ボクからもクリスマスカードを送らせていただきますね』

後書き
降旗クン、灰崎クンや黒子や虹村サンとLINE。
でも、実は私はLINEをしたことがないのです(笑)。だから変なところもあるかも?(笑)
2019.09.08

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