ドアを開けると赤司様がいました 55

「完売して良かったな。光樹」
「うん! 楽しかった!」
 オレ達はコミック街から帰って来た。赤司は売り上げを全部黛サンに渡してしまった。
(オレ達も結構楽しかったから)
 そう言って売り上げを全額黛サンにあげてしまう赤司は太っ腹だと思う。赤司はお金持ちだしね。でも、黛サンは、本当にいいのか? ――と訊いてくれた。
 オレは帰って来てから、夕ご飯を作る。今日はちょっと手間のかかるものにしよう。
 ――何と! 豚汁だ!
 さつまいもご飯はもう既に炊きあがっている。後、赤司がブリの照り焼きを作ってくれると言う。
 赤司が鼻歌を歌いながら作業をこなす。そんなに楽しいのかな。
「楽しそうだね。赤司」
「キミがいるからね」
 どうしてオレが一緒にいると楽しいんだろう……まぁいいや。オレも赤司の楽しいのがうつったらしい。どうせ夕飯作るなら、楽しい方がいいよね。何となく、同人誌を作る時の楽しさにも似ていた。あまり参加してないけど。
 でも、犬(アップルハニー?)を褒められたのは本当に嬉しかったなぁ……。
 夕餉のいい匂いする。オレらが豚汁を作り終えると――チャイムが鳴った。
「誰だろう」
 赤司が立って行って玄関のドアを開ける。オレも行く。
 ――客は緑間だった。
「なんだ。緑間か」
 赤司は明らかにほっとしたようだった。緑間ならそう問題も起こさないだろう。そう思ってるのが、オレにも伝わって来る。青峰や灰崎の時は大変だったもんなぁ……。
「赤司。降旗はいるか?」
 ここにいるでしょーが。
「何? 何の用?」
 オレは好奇心を表に滲ませて緑間に訊いた。
「あの……これ……」
 それは、オレが緑間達に誕生日プレゼントにもらって、その後緑間にあげたことになっているバスケのキーホルダーだった。
「これのおかげで、あの日はずっといいことばかり起こったのだよ。ありがとう」
 そう言って、緑間は微笑む。
 オレは感嘆する思いで緑間を見た。緑間って真面目だけどちょっとおっかないかな、と思ってた。でも、笑顔はいい。睫毛も長いし。皆、笑顔が一番だよね。赤司も笑顔が似合うし。
 ちょっと……高尾が惚れたのがわかるな。キセキって何でこんなにイケメン揃いなんだろう。
「いいの? 返してもらっちゃって」
「構わないのだよ。だって……高尾がそろそろ返した方がいいっていうから……オレは、またバスケのキーホルダーがラッキーアイテムにならないか心配なんだが……」
「だったら、そのまま持っていて構わないよ。どうせ緑間と高尾が選んだものなんだから」
「いや、これはオマエに返す……今までありがとうなのだよ」
「真ちゃん、エライじゃーん」
 このちゃらちゃらした声は――高尾!
「はぁい。降旗」
「高尾も来てたのか……緑間に遮られてて気づかなかったよ」
 と、オレ。
「う~、オレってそんなに小さいか~?」
「というより、緑間が大き過ぎるんだよ」
 赤司は言った。身長だけは緑間に負けている赤司には、いろいろ思うところもあったことだろう。
「ふ……」
 それを知っているようだった緑間は、「勝った」と言いたげな得意な響きを持つ笑みをその白い顔に浮かべた。緑間は眼鏡をかけているが、それでもわかる。
「あー、いい匂い。そう言えばお腹空いたね。真ちゃん」
 高尾は別に、何も考えずに言ったんだと思う。
「だから、夕飯時は控えようと言ったのだよ」
「え? だって、いつかは行かないと――真ちゃん、いつまで経っても赤司家に行かないじゃないの」
 高尾……ここはオレの家でもあるんだけど……。
「う……それはまぁ……」
「良かったら食べていかないかい? いっぱい作ったから」
 ――赤司が二人を誘った。オレもそれに異存はなかった。
「そうだね。食事は多い方が楽しいよ」
「えー? そう? じゃ、ご馳走になっちゃおうかな♪」
「おい、高尾……!」
 高尾が靴を脱ぐ。仕方ない、というように、緑間も高尾を追ってオレ達の家に入る。
「ブリは……オマエ達にあげるよ。お腹空いただろ?」
 オレはちょっと勿体ないな……と思ったが、それを表に出さずにブリの照り焼きを緑間と高尾に出す。けれど、一応こうも言う。
「――これは赤司が作ったんだ」
「へぇー。赤司、やるじゃん。やっぱりチート男と噂されるだけのことはあるね」
 高尾に赤司を褒められたオレは、何故かいい気分になった。赤司はオレの大切な人だから、その人が褒められると、こっちも嬉しいんだな……。自分が褒められるより嬉しいや。
「あ、降旗。満足そうな顔してる」
 高尾がオレを指差す。
「高尾――人を指差すものではないのだよ」
 緑間が窘める。オレはそんなに気にしないのに……。
「降旗、赤司が褒められて嬉しかったんだろー。わかるよ。オレも真ちゃんが褒められたら嬉しいもん」
「いい友達同士なんだな」
 オレは同志を見つけた喜びでそう答えた。
「友達……というか……恋人?」
「高尾……余計なこと言うのではないのだよ。……赤司を褒められて嬉しい降旗の気持ちは、オレにもわかるがな」
 そう言って、緑間は隣の高尾をあつーい目で見つめた。くそっ。あてられるなぁ……。オレは赤司を見た。赤司もオレと同じ気持ちだったらしい。いかな鈍いオレにもわかる。緑間と高尾は恋人同士なんだ――。
 高尾もオレの気持ちがわかったのだろう。にっこりとオレに微笑む。緑間がちょっとムッとする。
 ああ、そうだ……忘れてた。
「豚汁とさつまいもご飯があるけど、いらない?」
「いるいるー。オレ、豚汁大好き! さつまいもご飯は食べたことないけど、きっと旨いんだろーなー」
 高尾がじゅるっとよだれを流すジェスチャーをする。
「光樹の豚汁は美味しいよ」
 赤司も機嫌よくオレのことを持ち上げてくれる。――赤司家のご馳走には敵わないと思うんだけど……。つい、天まで昇る気持ちになってしまうのは、これはもうどうしようもない。
「ああ……旨そうな、いい匂いがするのだよ」
「えへへ……」
 オレは頭を掻いた。緑間もすっかり性格が丸くなって……。
「あっためたから、好きなだけ取って行ってくれ」
「それは……ほっとくと高尾が全部取ってしまうのだよ。高尾の分はオレが盛り付けるのだよ」
「何だよ。オレを食欲の権化みたいに……青峰や赤司のような大食漢じゃねーよ。オレは」
 高尾が文句を言ったが、オレには緑間の気持ちがわかるような気がした。
 緑間は、これ以上高尾に太って欲しくないのだ。
 太ってたって別段構わないのかもしれないが……例えば、ベッドにお姫様抱っこで運んでいく時、あんまり重いと途中で落としてしまうかもしれないじゃないか。それは緑間の男としてのプライドが許さないのだ。
「真ちゃんは細い子が好きだからねー」
 高尾は緑間の気持ちにそう頓着していないようだった。それでいて、高尾は緑間に気を使う。オレには理想の二人に見えた。
「いただきます!」
 高尾と緑間は同じタイミングでそう言うと、ご飯を食べ始めた。緑間はゆっくり噛み締めながら食べる。高尾は……まぁ、普通だな。
「旨いな。この豚汁。後でレシピ送ってくんない?」
 ――と、高尾。
「いいよ。メールで良かったら」
 満足した証であろう。オレも誇らしくなった。赤司も言う。
「教えてあげるといい。光樹」
「ありがとう! これで美味しい豚汁を真ちゃんに作ってあげることが出来るよ」
「これはおふくろがよく作ってくれた豚汁なんだ」
「そっかー。じゃ、オレもその味を引き継いでやるよ」
 高尾がこの味を引き継いでくれるなら、オレもこんなに嬉しいことはない。
 その後、オレは緑間や赤司そっちのけで、高尾と料理の話をした。高尾は話が面白く、料理の話以外――学校やバスケの話などもした。こんな相棒がいたら、緑間も楽しいだろうな――オレは、ちょっと緑間を羨ましく思った。勿論、赤司もいい男だけど。

後書き
同人誌完売羨ましい!(笑)
緑高はやっぱり今も好きですねぇ。以前、緑高の話はいっぱい書きましたよ。
2019.08.27

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