ドアを開けると赤司様がいました 48

「あ、そうだ。これ、プレゼント」
 伊月センパイから渡されたのは、本――みたいだな。オレは、近くの椅子をプレゼント置き場にしてある。伊月センパイのプレゼントもそこに置こうとする。伊月センパイが言った。
「オレのプレゼントは、ギャグのカリスマが放つダジャレ百連発だからな」
 ――なんスかそれ……バスケ関係ないし……。
 伊月センパイの目がきらんと光った。
「チョコレートフォンデュがある!」
 ――やな予感。
「降旗。チョコをチョコっと食べて来るぞ」
 ああ、やっぱり……伊月センパイはきっとバスケの次にダジャレが好きなんだろう……。
 オレは何となく微笑ましくなった、くすっと笑った。変わんないなぁ、皆……。
「光樹。プレゼントはあそこに置かない方がいいんじゃないか?」
 赤司が注意する。
「どうして?」
「灰崎が狙ってる」
 そうか――灰崎なら盗りかねない。他人のものは羨ましく見えるヤツみたいだからなぁ――ちょっと場所移動するか。でも、持って歩くのもなかなかに大変そうだ。
「隣の部屋に持っていくといいよ」
 赤司が灰崎に聞こえないように小声で囁く。オレは赤司の言う通りにすることに決めた。その時。
「おい、降旗――渡すの忘れてたが、オレ達からだ」
 そう言った虹村サンから渡されたのも本みたいだ。何だろ。オレは好奇心から本を出してみた。――スポーツ教本バスケ編だ。
「それ、結構評判いいぞ」
「……ありがとうございます」
「あー、降旗ー。おーい」
 高尾が緑間と来たので、「じゃ、オレはこれで」と、虹村サンはかっこよく去って行った。――かっこいいな。虹村サン。
「ほら、これ。真ちゃんと二人で選んだんだ」
 わー、バスケのキーホルダーだ。
「今日のラッキーアイテムなのだよ。本当はオレが欲しいところだが、オマエにくれてやるのだよ」
 ラッキーアイテム?! 緑間が命より大事にしてるもんじゃん!
「真ちゃんたら……こだわり過ぎなんだよ。そんな顔して……これは、一週間前に降旗にやるって決めてて、もう変更は出来ないの!」
「……明日だったら喜んであげても良かったんだが……」
 緑間が未練がましくじーっとキーホルダーを見つめている。
「じゃあさ、こうしよう。そのキーホルダーは、緑間への誕生日プレゼントだ」
「はぁ?」
 流石の高尾も「何言ってるんだろう」と首を傾げている。
「オレはもうそれ受け取ったから、今度はそれを緑間にあげるんだ」
「なるほど! いいアイディアなのだよ。降旗」
「えへへ……」
「でも、真ちゃんの誕生日って、確か七月……」
「余計なことは言わなくていいのだよ。高尾。そっか。一足先の誕生日プレゼントか」
「クリスマスプレゼントでもいいけど」
「ありがとうなのだよ! これで一日、命の危険を感じないで済むのだよ!」
 オーバーだなぁ、と思ったが、こいつ、赤司と仲が良かったんだよな……。おは朝狂みたいだし、高尾からはラッキーアイテムのこと、いろいろ聞いてるし、緑間はオレより大変な星の下に生まれてるんだもんな。
 キーホルダーより、緑間の笑顔が何よりのプレゼントだよ。
「良かったね。真ちゃん」
 高尾も笑顔だ。二人とも嬉しそうで良かった良かった。
「光樹……オマエ、人が良過ぎるよ」
 赤司が言った。――え? そう? だって、友達が喜ぶのが一番じゃん。
 そう言うと、赤司がふふっ、と笑った。
「そうだな。そう言うヤツだったな。オマエは」
 オレが料理を選んでいると、大柄な体にぶつかった。
「え? なーにー?」
 それは紫原敦だった。
「おー、紫原。アンタも来てたの」
「うん。――手ぶらで来たんだけど……ちょっと待って。――はい、まいう棒。トマトラー油味」
 どういう味がするんだか、想像出来ないような代物だな……でも、嬉しいので、オレは、ありがとう!と言った。
「アツシー、プレゼントは渡せたかい? いつもキミが食べてるお菓子でいいから。要は気持ちだから、ね」
 氷室サンが言う。誠凛の元メンバー達は、相変わらずきゃあきゃあ騒いでいる。氷室サンはその騒ぎの中から抜け出して来たらしい。――火神は質問攻めにされて困っているようだった。
「うん。渡せたよ~。まいう棒はいっぱいあるから、返さなくていいからね~」
 紫原は紫原なりに、気を遣ってくれているらしい。その気遣いが、オレには嬉しかった。紫原って、結構いいヤツじゃん!
「賞味期限が切れないうちに、早く食べてね~」
 そう言って、紫原は料理のコーナーへと赴いた。――えへ。このまいう棒は大事に食べよ。
「降っち~!」
 ――黄瀬が来た。何だ。アンタも来てたのか。オレは笑った。
「よっ、黄瀬」
「誕生日おめでとうっス。これ、贈り物の香水っス」
 ほー、そう来たか。
「ありがとう。大事にするよ」
「それ、トップノートは柑橘系の匂いがするんスよ。猫は柑橘系嫌がるもんだと聞いてたんスけどね」
「黄瀬。オレは猫っぽい顔をしているだけで、別段本物の猫である訳じゃないから」
 黄瀬のボケにオレがツッコむ。
「よぉ、フリ」
「お誕生日おめでとう」
 ――わっ、青峰に桃井サンだ。絵になるなぁ、この二人。特に桃井サン。相変わらずおっぱい大きいなぁ。桃井サンの胸をガン見していると、青峰がにやにや笑っているような気がした。
「プレゼント……マイちゃんの写真集にしようと思ったんだけど、さつきにいろいろ言われてな……」
「堀北マイの写真集は、ただの青峰君の趣味じゃない」
「という訳で、これ、さつきから。チワワの置物だとよ」
 ――桃井サン、桃井サンまでオレをチワワ扱いするの?
「チワワって可愛いと思って。私もチワワ好きなのー。でも、選んだのは青峰君だよ」
 そっかぁ……青峰がわざわざ選んでくれたんだぁ……だけど、チワワって……。あー、でも、桃井サンが満開の笑みを浮かべているから、細かいことなどどうでも良くなってしまった。
「降旗君、降旗君」
 ――あ、わぁっ、黒子!
 ていうか、騒ぎに火をつけた張本人じゃん。こんなところにいて大丈夫なの?
「黒子、あれ、ほっとくつもりかよ」
 オレは誠凛だったメンバーに指を差す。黒子は頷いた。
「いいんです。ボク、存在感ないですから。存在感が薄いのもこういう時には役立ちますね」
 黒子が笑う。そうか。それならいいんだけどさぁ……。
「ボクと火神君からは、このバスケットボールです」
 そういや、こいつら、ボールなんか持ってバスケする気なのかな、と思ったんだけど……プレゼントだったのか。黒いケース付きだ。高かったろうな……。
 オレが、じんわりと目元に涙を滲ませると、黒子が焦る。
「ど、どうしたんですか? 降旗君!」
「いや……オレ、最高の誕生日だと思ってさ……」
「オレからもプレゼントがあるんだ。後で渡してあげるよ。さ、黒子達は隣の部屋のプレゼント置き場にそれを置いてくれ給え。包みが積んであるからすぐにわかると思うよ」
 いつの間にか傍に来ていた赤司が言った。黄瀬や青峰もオレへの贈り物を携えて隣の部屋に行った。
「あ、ありがとう、本当に、ありがとう……」
「他にもお客様、来てるよ。さ、皆に挨拶して来なきゃ」
「うん……うん……」
 赤司がいい匂いの染み込んだハンカチを渡してくれた。オレは有り難くそれを使わせてもらう。
「ありがとう、赤司――こんなにいっぱいの人に祝われて、オレは嬉しいよ。場所を使わせてくれて、ありがとうね」
「そうだよ。光樹。――生まれて来てくれてありがとう」
 赤司がオレの手をぎゅっと握ってくれた。オレは、つい照れて笑ってしまった。泣いたり笑ったり、今日のオレは忙しい。けど、皆が――赤司がオレを生まれて来たことを歓迎してくれるなんて……やっぱり生まれて来て良かった……。

後書き
真ちゃんのプレゼントのエピソードは割とお気に入りです。
降旗クンも生まれて来て良かったね。誕生日、季節外れだけど、そういう流れになってしまったからなぁ……(笑)。
2019.08.11

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