ドアを開けると赤司様がいました 47

「よぉ、降旗、サシブリ」
 虹村サンと並んだ灰崎が言う。オレは、久しぶりって感じが全然しないんだけど……ていうか、この二人もよんだんだ……オレもよぶつもりでいたけど。
「降旗、誕生日おめでとう」
 虹村サンが言う。オレは嬉しかった。
「んじゃオレ、料理食ってくから――」
 灰崎がぴゅーっと料理の並んだコーナーに駆け出して行った。こんなに美味しそうな匂いのする料理が並んでんだもんな。灰崎の気持ちもわかる。
 香辛料の香りの効いた料理に、見たこともない果物の数々。
「んとに、あいつは……済まねぇな。降旗。おーい、灰崎。『お誕生日おめでとう』ぐらい言ってやれ」
「いいんですよ。それは――」
 その時、背中に叩かれた感触があった。――え? 誰?
「やっほ~」
 見るとそこには小金井センパイが――。水戸部センパイも一緒なんだぁ。
 小金井センパイとオレは顔が似ていると聞く。変装した時もバレなかったし。一部では、オレと小金井センパイは同じ顔だと言われているそうな――。
 でも、いいんだ。小金井センパイ好きだもん。オレ。
「誕生日おめでとう。水戸部も、『お誕生日おめでとう』だって」
 水戸部センパイはこくこくと頷いた。
 そういや、水戸部センパイの話した声って聞いたことないや。――口を開いたところも、あんまし見たことない。
 何故、小金井センパイは水戸部センパイの言いたいことがわかるのだろう。――謎だ。
「降旗くーん」
 明るい少女の声がする。これは簡単にわかった。――カントクだな。日向サンも一緒だ。
「カントクに日向センパイ――メールありがとうございました。小金井センパイも、水戸部センパイも」
 オレは頭を下げた。水戸部センパイは、メールなら書けるのだ。
「誕生日プレゼントは私の手料理にしようかと思ったんだけど、日向クンが赤司家でもいっぱいご馳走出て来るだろうからって言ってたんで、やめにしたの」
 ――ブラボー! 日向サン!
「だから、代わりにこれ。はい、プレゼント」
「わっ、ありがとうございます!」
「バスケットシューズよ。日向クンと選んだの」
「水戸部。オレらもプレゼント用意したんだよな。水戸部からはセーター。この季節にちょうどいいだろ。で、俺からは手袋。オレのは買って来たヤツだけど、水戸部のは手編みだぜ」
「わー、ありがとう。嬉しいよ、皆……」
「フリー」
「あ、カワとフク」
 河村浩一と福田寛。オレの大切な元チームメイト。
「カワとフクもメールありがと」
 オレはカワとフクに順番に握手した。――赤司が微笑ましそうに見ているのがわかる。温かい視線に包まれているから。
「オレらは文法具だぜ。ルーズリーフに色ペン。あんま高いの買ってやれねぇから」
 文法具は消耗品だから助かるぜ。
「バスケのマークが入っていたから、それにしたんだ」
 フクが説明する。
「ありがとう、オマエら」
「いやいや。フリもそれで勉強頑張れよ。まぁ、オレが言ったって仕方ねぇけどさ。オレだって勉強頑張んなきゃ。な、フク」
 カワの言葉に、フクは笑顔で頷いた。バスケも頑張ろうぜ、オマエら!
 ――ぬっと巨体が現れた。火神大我だ。
「火神……相変わらずでかいな」
 カワが呆れている。図体がでかいのは遺伝的なものだろうから仕方がない。それに、この大きな体は、今までに誠凛のピンチを救ってきてくれた。常勝のエース様だ。
 んじゃ、黒子も傍にいるな。えーと、黒子、黒子っと……。
 オレがきょろきょろしていると――。
「ここです。降旗クン」
「うわぁっ!」
 急に現れんなよ、黒子!
「なに幽霊でも見たような顔をしてるんですか?」
「あー、ごめんごめん。黒子ってウスいから――」
 でも、話すととてもいいヤツなんだ。黒子は。
「やぁ、黒子」
 赤司がオレ達の輪の中に入る。なんか――ずっとこのタイミングを待ってたんだろうな。
「赤司君……降旗君の為に豪勢なパーティーを開いてくださってありがとうございます。それから、降旗君も誕生日おめでとうございます」
「黒子もメールありがとな。後、青峰と黄瀬や桃井サンからもメールが届いたんだ。高尾からも」
「緑間君からは?」
 来る訳ねーだろ。
「来なかったぜ」
「そうですか。……まぁ、緑間君は誕生日メール送るようなキャラではありませんからね……」
 そうそう。
「おー。降旗。ハッピーバースデー」
 急に飛び込んで来たのは、アレックスだ。因みに女。ボンキュッボンの美女だぜ。
「会えて嬉しいぞ」
 片言の日本語で喋って、キスされた。息出来ない……。
「ちょっと。そこのあなた。ここは日本です。誰彼構わずキスする習慣はないんですよ」
 赤司が英語でアレックスを窘める。オレから唇を離したアレックスも陽気に返す。
「Oh,sorry.でも、キスする相手は一応選んでるんだぞ。キミにもしてあげようか?」
「赤司。アレックスはキス魔だ。勘弁してやれ」
 火神が間に入った。
「じゃあ、皆、キスされたことあるんですか? ――火神も?」
「そりゃ、まぁ……」
「あー、アレックスこんなところにいた」
 あ、氷室サンだ。相変わらずスマートないでたちだなぁ。ちゃんとめかしこんでるし。黄瀬と同じくらい女にモテる。――わかる気がする。
「アレックス。キミの分取り分けて来たよ」
「おー、サンキュー! 愛してるぞタツヤ!」
 そう言って、アレックスは氷室サンにもキスをした。氷室サンは料理を取り落としそうになった。
「不意をつかないでくれよ。アレックス……」
「おー、わるいわるい。タツヤがあんまりいい男なんで、ついな……」
「アレックスに言われると悪い気はしないな……」
 氷室サンが呟いている傍から、アレックスは嫌がる火神にキスしようとする。火神は一生懸命避けようとする。
「アレックスさん。――火神君はボクの恋人です」
 黒子の言葉に皆は「えーっ!」と叫んだ。
「恋人いるとキスしちゃダメなのか?」
 アレックスの疑問はズレている。
「ええ、まぁ……良い気持ちはしませんね」
「そっか……もしかして、タイガに妬いてんのか? それとも私に妬いてんのか? テツヤ。テツヤもキュートボーイね。オマエにもキスしてやりたくなったぜ」
「遠慮します」
「おー、ジャパニーズボーイ、シャイボーイね」
 ちっともシャイではないと思うんだけど……皆二人を祝福してる。氷室サンは顔面蒼白になってるけど……。オレはお腹空いたので、その場を離れた。何食べようかな。――ジャーマンポテトがある。
 ――にしても、黒子もすげぇよな。センパイ達の前であんな宣言して――。火神はどう思ったんだろうな。……オレには関係ねぇか。
「こんにちはー、降旗センパイ」
「――ちわっス」
 あー、夜木悠太に朝日奈大悟! オレの後輩達だ。こいつらも料理選びに来たんだろう。オレはまた懐かしさで涙が溢れそうになった。オレの初めての後輩達。因みにこいつらもメールをくれた。
 LINEでもよく交流してんだけどね。
「なんか……懐かしいな、オマエら」
「何言ってんスか。LINEでいつも話しているし、SNSでも喋ってんじゃないスか」
「でも……ああ、懐かしい……」
「泣いてないっスよね。泣かないでくださいっスよ。センパイ……プレゼントあげますから」
 夜木には気を遣わせてしまったかな。――その後、伊月センパイにも出会った。つまらないダジャレばかりよく思いつくなぁ、と感心してたんだけど、今ではそれもいい思い出だ。家族全員ダジャレが好きらしい。――遺伝子か。
 伊月センパイが、「木吉も来ると良かったんだけど、あいつ今アメリカだからなぁ……」と、こぼしていた。

後書き
後輩に会えて、つい感動してしまう降旗クン。
会場ではアレックス旋風が巻き起こります。流石はアレックスさん(笑)。
黒子もアレックスに火神を取られまいと必死?(笑)
2019.08.09

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