ドアを開けると赤司様がいました 42

『光樹。今日は焼肉パーティーしよう』
 LINEに赤司の文面が届く。
『うん! どこの焼肉屋行く?』
『馬鹿だなぁ、光樹は。うちでやるんだよ。材料は買って行くから』
 うちで……焼肉パーティー……。
 勿論、赤司が忙しいのは知ってるけど――嬉しいな。じゅうじゅう言う焼いた肉の音。香ばしさまでもが脳裏に蘇ってくる。
『他に客が二人来る予定だよ』
『え……誰?』
 オレも友達は多い方だけど、赤司の顔の広さには負ける。尤も、あっちが友人だと思っていても、赤司が本当に友達だと思っているかどうかはわからない。赤司は、心を許していない人物に対しては無機質な笑みを浮かべる。
 オレには結構素顔を見せてくれているはずだと思いたいんだどねぇ――。オレはすぐ誰とでも仲良くなるけど、そんなに深い付き合いのヤツらというのは少ない。
 まぁ、誠凛の連中とは結構連絡取り合ってるけど。今はLINEという便利なものもあるし。
『黄瀬と高尾だ』
 ――ああ、あの二人か。なんとなく似ていると思ったことがあったんだっけ。
『いいよ』
 オレはOKサインを出した。彼らが来れば退屈はしないだろう。
『宜しくね』
 赤司からの連絡はそこで終わった。緑間は来ないのだろうか。
 ――オレは、鼻歌を歌いながら、冷蔵庫のチェックをした。キャベツが少し残っている。ピーマンも。――肉は確かに買ってこなければならないようだ。
 掃除でもすっか。
 オレは、赤司が買ってくれた掃除機をかけた。それを言うなら、冷蔵庫だって赤司の金で買ったのであるが――。正確には赤司家の金だ。
 高尾や黄瀬と会うのは久しぶりだな。
 それに、オレの大好物の焼肉と来ている。上機嫌にならない方がおかしいというものだ。
 今日はオレが手伝いをしなきゃな。オレのモットーは縁の下の力持ちだし。
 高尾達とバスケの話をするのは楽しいだろう。
 テーブルクロスも新しいのに取り替えて――完成!
 うん。完璧じゃないか。
 オレがそう自画自賛していた時だった。
 ピンポーン。チャイムが鳴った。
「はーい」
 オレは玄関のドアを開けた。黄瀬と高尾の元気そうな顔。赤司の涼やかな笑みが見えた。

「沢山食べてくださいねー」
 オレは笑顔で言う。
「あっはっは。旨いっスね~。降っちありがとう」
 黄瀬が言う。降っちねぇ……まぁ、悪い気はしないからいいか。
「高尾っちと会って、赤司っちと会って、オレ、ここに来たんだ」
「?」
 ――意味がよくわからない。
「だからね。黄瀬とオレが会ったのが最初なんだよ」
 高尾が説明する。
「どっかでだべろうかーと話している時に赤司に会ったんだよ。んで、家に招待された訳」
 ああ、なるほど。話が飲み込めた。
「今はさ、オレ、何も予定がなかったからぶらついてたんだけど、黄瀬や赤司に会えるなんて思ってもみなかったよ」
「高尾……緑間はどうしたの?」
 疑問に思ったオレが訊く。
「ん~。課題でいっぱいっぱいかなぁ。厳しい教授がいるんだって」
「あ、オレと同じだ」
 ――オレは緑間にちょっと親近感を持った。
「『どっかでのんびりしてきていいぞ』と言われたんで、オレ、久しぶりに街に出たんだ。ああ、ここも変わらねぇなと思いつつ」
 高尾がじっくり肉を噛み締めながら言う。
「ダメだよ。高尾。そういう時は手伝ってあげて恩売ってやらなきゃ」
 赤司……そりゃダメだろ。
「緑間ならそれで一発だろう?」
「オレもそれは考えた。でも、人事を尽くす真ちゃんだから、断られた。『こういうことは自分でやらないと意味がないのだよ』ってね」
「ああ……光樹も似たようなところがあるな」
「久々に秀徳に行ってバスケしようと思ったら、黄瀬に会っちゃってさぁ」
 秀徳は、緑間と高尾が通っていた学校である。オレ達は秀徳と何度か対戦をした。緑間はキセキの世代のナンバー1シューターと言われていただけのことはあって、普通は「ムリだろ!」と思わず叫んでしまうようなシュートを放つんだ。これがまた。
 高尾は緑間の相棒で、この二人が組んだらますます強くなる。オレ達は罰ゲームがイヤなので、必死で戦って勝利をもぎ取ったが。
「そ。これも運命っしょ。――因みにモデルの仕事の帰りっス」
「黄瀬は実家にいたんだっけ?」
 赤司が黄瀬に訊く。
「そ。実家への帰り。ちょっと遅くなるって言っといた」
「黄瀬ん家神奈川だっけ」と、オレ。
「そうだよ。ひょっとしたらどこかに泊まって来るかも――とは伝えてたんだけど」
「うちには泊めないぞ」
「別に赤司っちと降っちの邪魔はしないっスよ。つか、赤司っち、ほんと冷たいっスね」
「ふん」
「まぁ、適当なところに泊まるから――」
「女のところ?」
 高尾! 何てことを!
「それはまぁ、泊めてくれる女の子がいたら――」
「光樹。あんな男にはなるんじゃないぞ」
 赤司が耳打ちする。オレは黄瀬程モテません。――最近いいことはあったんだけど、赤司の方が大事だしね。黄瀬は面白いように女性が寄って来るからなぁ……確かに一夜の宿には困らないかも。
 ――って、何考えてんだ、オレ!
「バスケの調子はどうだい?」
「バッチリっスよ。オレと真ちゃんの仲だもん。一時期、『秀徳の光と影』と呼ばれてたしさぁ」
 肉をつつきながら高尾が笑う。高尾は――こういうと変な意味にとられてしまうと困るが――綺麗になった気がする。あながち緑間の欲目だけではないらしい。やっぱり恋の力なんだろうか。
 今はへらへら笑ってるけど、真剣な顔つきになった時は特に。
 緑間もこんな高尾をよくぞ外へ出したもんだなぁ……男だから危険はないと思ったんだろうか。
 ――甘いぞ、緑間。オレのように不良に絡まれることはなくても、一見優しそうなおじさんに、「おごってあげる」と言ったら、高尾はついて行っちゃうんじゃないだろうか。――高尾はそこまで馬鹿じゃねぇか。
 高尾も黄瀬と会えて良かったよ。ほんと。
「黄瀬は好きな人いんの?」
 高尾が野菜も味わいながら、話題を変えた。あ、オレの用意したキャベツだ。食べてくれて嬉しい。
「いるよ」
 黄瀬は簡潔に答えた。
「どんな女性?」
「女性っつーか……男なんだけど……」
 あー、また男好きが増えたか……オレらは爽やかバスケ青年じゃなかったのかよ。黄瀬はちょっとゲスいけど。
「誰っスか?」
「元海常の笠松センパイっス」
「あー、あの人なんか可愛いよな。乱暴だけど」
「はい!」
 黄瀬は自分の好きな人が褒められてご機嫌のようだ。あれ? でも、オレ、笠松サンが黄瀬に肩パンしてるとこ、見たことあるんだけど。そして、痛そうだなぁと遠巻きに見ていたことがあるんだけど。
「黄瀬……笠松サンの肩パンて痛くない?」
「痛いよ。でも、オレと笠松センパイのコミュニケーションっスもんね~」
 何と! 黄瀬はMだったか!
 でも、これ――BL男子の群れじゃん。流石、類は友を呼ぶ。
 火神と黒子だって付き合ってるし――センパイ方はどうかわからないけど、油断は出来ないよなぁ。相田サンに惚れた日向サンは間違いなくまともだけど……。
「光樹。食べないのか?」
 赤司が肉を取り分けてくれていた。ありがとう、赤司。もう、細かいことはどうでもいいや。オレは、赤司に感謝をしながら肉ごとご飯を頬張った。

後書き
私も焼肉食べたいです。
今の時期ならバーベキューかな。
2019.07.29

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