ドアを開けると赤司様がいました 35

 夏休みもあと二日で終わりかぁ……。
 結構いろいろなことがあったけど、あっと言う間に過ぎたなぁ……。
 オレはタオルケットをかけたまま、テレビを観るともなく観ていた。赤司に狙われるって? ――赤司は大学の用事でいないんだ。
 ――だから、オレは、ヒマだ。
 ああ、日差しが眩しい。でも、もう晩夏だなぁ……。
 オレはテレビのチャンネルを変えた。――面白くない。
 赤司がいないとこんなに手持ち無沙汰になるとは思わなかった。今年は春からずっと赤司と一緒だったな。そりゃ、それぞれ単独行動することも多かったけど。
 ――心配だからここにいてね。
 そう赤司に言われちゃ、この部屋を離れることも出来ない。それに、何をやる訳でもなかった。
 ……昨日は楽しかったな……レポート作ったり、赤司といろんな話をした。
 それにしても、赤司がオレのことを可愛いと思ってんのは本当だろうか。オレは、赤司にも可愛いところがあると知って、安心してたんだけどな……。
 あー、ヒマだ。
 そうだ。黒子に電話しよう。
 あいつの電話番号は知っている。アドレス帳に載ってるもん。――黒子はすぐに出て来た。
『はい。黒子ですが――』
「あ、黒子? オレ。降旗」
『ああ、降旗クン。――こんにちは。……この間は災難でしたね。済みません』
「何で黒子が謝るの」
『青峰君の暴走を止めることが出来ず……』
 ああ、それか――それだったら黒子が悪い訳じゃねぇよな。
「そんなことはどうでもいいんだ。オレ、あの事件のことで、また赤司と仲良くなれたし」
『良かったですね。不良達にやられたと聞きましたが、大丈夫ですか?』
「ああ、唇切ったり、ちょっと怪我したりしたけど――」
『もう、赤司君何してるんでしょうね……』
「いや、悪いのは不良相手に意地張ったオレだからさ――」
 そういや、赤司にも心配かけたっけな。頬も腫れてきて――だから、救急センターで応急処置もしてもらったんだ。
(だいぶ腫れが引いて来たね)
 オレの頬を優しく撫でながら、赤司が言っていた。今日、赤司が大学へ向かう前の話である。
(光樹はどんな顔になっても可愛いからね)
 赤司はオレを愛玩動物みたいに扱う。けれど、そこに本物の愛情があるのをオレは知っている。チワワかなんかみたいに思われてるみたいだけど。それに、LGBTとかいう話になると、オレもうーんと唸ってしまうけど。
「黒子、火神、元気?」
『ええ。元気ですよ。さっきまで話してました。火神君とボクの家は離れているので、そんなに自由に行き来出来ないのが辛いですけれど――』
「でも、両想いなんだろ? オマエら」
『――ええ』
 黒子の声が柔らかくなる。いいなぁ、両想い。
 実は、オレは赤司に恋しているのかいまいちわからない。それは、好きは好きだけど――。
 あ、そうだ。前から訊きたいことがあったんだっけ。
「火神は黒子の家に行ったことあるの?」
『ええ。……一回だけ』
「いいなぁ、オレも行ってみてぇ」
 これは本心だった。黒子は謎だらけで、家も謎だった。謎って、あると燃えるじゃん。
「赤司も行ったことある?」
『家の前を通りかかったことがあります。赤司君は――ボクの家だってすぐに気づいたらしいです。実はボクの家、存在感うすいのですが』
 家までウスいって――。
 ああ、だからかえって赤司辺りも気が付いたのかなぁ。赤司、結構聡いからなぁ。
 ――やっぱりオレも行ってみてぇ。
『小学生の時、お前の家、うす過ぎて探したら迷っちゃったよ、と文句言われたので、余程親しい相手でないと家によばないですね。――いつか降旗君も来ますか? 降旗君ならいいかな、と思いましたので』
 え? 誘ってくれたの? 今。黒子の家に? 嬉しいな。
「是非とも行くよ」
『どうもボクの家はわかりづらいようなので、気が向いたら言ってください。ナビしますんで』
「そっかー、ありがとう」
『あ、赤司君と一緒なら迷わないかもしれませんよ』
「その手もあったか。でも、赤司も忙しいからなぁ……今日だって用事があるって大学に行っちまったし」
 黒子に笑われたような気がした。
「何だよ、黒子」
『いや、ちょっと不平言いたそうな声だったから』
「オレがぁ?」
『そうです。自分では気が付かないかもしれませんが。――何か、拗ねているような……』
「大学の用事じゃ仕方ないだろ」
『と言って、赤司君、他の女の人とデートしてたりして――』
「そんなことがある訳ない!」
 オレは怒鳴った。あの赤司が――オレに恋をしたという赤司征十郎が……チートのくせにどこか不器用な赤司が……常にオレに気を配り、優しくしてくれた、あの赤司が……。
 オレ以外に恋人がいるなんてこと、絶対ない!
 だって、赤司には女の影がないんだもん。不自然な程! 一緒に住んでいるオレにはわかる。オレもちょっと動物っぽい嗅覚があるんだけど、この数か月間、女の匂いがしなかった! リリィは別として――。
『そうですね。すみません。青峰君のこととやかく言えませんね。ボクも』
 黒子はあっさり謝った。
『でも、キミがあんまりピュアなんでついからかいたくなるんですよね』
「オレは……ピュアじゃないよ。オレが赤司を良いように扱ってるかもしれないじゃないか」
『そうだとしても、それは赤司君が望んでそうしていることです。ボクがとやかく言えた義理ではありませんね。確かに。――もしかしたら赤司君はキミをこの部屋に閉じ込めておきたいと考えているかもしれませんね』
 う……それはオレも少し思ったことある……。
 でもあいつ、オレが一言、イヤだ! ――と言えば、哀しそうな目をして、
「そうかい」
 と、引き下がってくれるような気がする。だから逆らえないんだよな。ホント。
「黒子、課題終わった?」
『終わりましたよ。けど、火神君はふうふう言ってるんで、これから彼の家に行ってお手伝いする予定ですが』
「あ、あのな、黒子……赤司、悪いヤツじゃないぜ。オレのレポートも手伝ってくれたもん」
 まぁ、あのキスがあったからかな、と思ったりもしたけれど――。
 赤司のことだ。課題に苦しめられるオレがあんまり大変そうだから、義侠心も手伝って力を貸してくれたということもあり得る。
『キミのいい人悪い人の判断はそこですか――』
 流石に黒子も呆れたらしい。確かに、呆れられても文句は言えない。
「あ、そうだ。黒子の話でさ――赤司が突然人格が変わった話あったじゃん。……そんで、全中でキセキのみんな――緑間以外――が点取りゲームで遊んだことが許せなかったって……」
『そうです。――荻原君のことを思うと……腸が煮えくり返りましたよ。全然本気を出してくれなかったって。緑間君のことだけはちょっと見直しましたが……それに、WCで荻原君が駆けつけて来てくれた時は、ホントに……うれし……』
 黒子は泣いているようだった。
「黒子……大丈夫。オマエは悪くないんだから。――もう、終わったことなんだ」
『そうですね……』
 電話口から、鼻の啜る音がした。
『火神君の言う通りでした。間違っていると思うなら、ぶん殴ってでも正道に帰らせるべきでした。――正道なんてあるかどうかはわかりせんが。でも……間違うからこそ人間て面白いんですよ』
 正道か……それはオレにもわからない。
 けど、これが正しい。そう思ったなら、それが正しいんだと、オレは信じる。
「黒子だって……正しいと思うことをしたんだろ? なら、それでいいじゃん。火神の言うこともわかるけど」
『はい。ボクに遠慮しないから――ボクは彼が好きです』
 おいおい、ノロケかよ。
 オレはつい吹き出してしまった。
『荻原君にも連絡しました。何度か一緒に練習もやりました。1on1』
「あー、オレも1on1好きだなぁ。赤司とやってるけど、一度も勝てたことがねぇんだ」
『それは仕方ないでしょう。彼は伊達にキセキの世代の人達をまとめ上げてた訳ではありません』
「――だな。この前赤司と青峰の1on1見たけど、凄かったぜ」
『でしょうねぇ。あの二人の1on1なら、ボクも観たかったです。というか、バスケ観戦好きなんですよ。ボク。元々バスケが好きだったから、友達も出来たし――あ、そうだ。火神くん家に行かなきゃ』
「行ってらっしゃ~い」
 忙しい時に黒子に電話して悪かったな――とオレは少し反省した。せめてメールで、『電話します』の一言でも送れば良かったかな。それに、今はLINEという便利なものもある。

後書き
黒子クンと降旗クンの会話は書いていて楽しかったです。
荻原クンとも1on1やったんですね。黒子クン。きっと黒子クンのバスケは楽しいかと。
2019.07.15

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