ドアを開けると赤司様がいました 27
「光樹。水着あるか? 海に行こう」
水着かぁ――実家から持って来なかったんだよな。
「オレ、今水着ないんだけど……」
だから実家に取りに行く。そう続けようとした時だった。赤司がやけに目をきらきらさせながら言った。
「じゃあ、買いに行こう」
俺達はデパートへ行った。購買意欲をそそるギンギンのBGM。男だか女だかわからない、香水の匂いをぷんぷんさせた芸能人みたいな人とすれ違った。
「赤司――水着はオレの金で買うから……」
「心配いらないよ。光樹の為にお金を使えるのがオレは嬉しいんだ。――無理矢理光樹の部屋に押しかけて来たのはオレなんだから、水着の代金ぐらいは払わせてよ」
――赤司に説得されて、オレは水色の海パンを買ってもらった。
赤いレンタカー。BGMは『渚にまつわるエトセトラ』。オレは窓を開けた。いいなぁ。海の匂い。風が気持ちいい。
「光樹は海、好きかい?」
「うん、好きだよ」
夏には毎年海に連れて行ってくれたっけ。家族が。
「オレも子供の頃は海に遊びに行ってたよ。――オレ、泳ぐの得意なんだ」
「そうだろうね」
――赤司は何でも出来そうだ。海で泳ぐことも。
「何メートル泳げる」
「2キロ」
「――え?」
オレは思わず絶句してしまった。赤司のヤツは「もっと泳げるかなぁ」なんて言っている。流石は赤司。チートだぜ……。
――車が海水浴場についた。やっぱり結構人いるなぁ……なんて思っていると――。
「赤司くーん」
桃井サンの声が聴こえる。桃井さつきサン。巨乳の美少女だ。
「桃井。――青峰は来てるのかい? 黒子もいるのかい?」
赤司が訊くと、桃井は頷いた。
「あそこでビーチバレーやってる。でも、青峰君と火神君の対決になってしまってんのよ。既に」
「火神も来ているのか」
「テツ君と一緒に来たみたい。あ、それじゃあね」
へぇー……火神もきているのか……。
「青峰も来ているのなら、挨拶に行こう。光樹、キミも来るかい? ――それにしても、火神まで来ているとはね。後で火神ともバスケで決着をつけたいものだな。出来れば1on1で」
「オレも行く。火神も黒子も友達だから、会えるのは嬉しいな」
それにしても、火神と赤司の1on1かぁ……見てみたいなぁ……。火神はバスケでは殆ど敵なしだし、赤司は勝利の申し子だし。
「青峰くーん! テツくーん。赤司君来てるわよー」
桃井サンが手を振って大声で叫ぶ。火神やオレが呼ばれないのは仕方がない。桃井サンのことは本当はオレもよく知らないところがあるんだ。
青峰と黒子と赤司は帝光中で桃井サンと一緒だったし……。
桃井サンは黒子にめいっぱいアプローチしてる。なんつーか……やっぱ結構変わった趣味してるよねぇ。でも、桃井サンにとっては、黒子はこの世に二人といないいい男だからなぁ……。確かに黒子は優しいし、顔立ちも整っているけど――とにかくウスい。
「ああ?! 何だよ、さつき。邪魔すんじゃねぇよ」
「青峰! てめぇには負けねぇかんな!」
「何だと!」
「青峰君と火神君はずーっと二人で勝負してるんですよ。おかげでボク暇です」
黒子は座り込んでいる。
「よぉ、黒子」
「こんにちは。降旗クン」
「二人はずーっとあんな感じなんだな」
「ええ。昔から寄ると触るとああでしたね。火神クンと青峰クンは」
「じゃあさ、テツ君、一緒に泳ごうよ」
「――そうですね。ここにいてもやることありませんし」
――黒子は立ち上がってる。青峰がビーチボールを持ちながらじっとこっちを見ている。……ん? 何だ?
「寄越せよ! 青峰!」
火神がわめいている。せっかく海パンはいてきたんだし、オレも泳ぐか。
泳ぐのは楽しかった。かっと照り付ける夏の太陽。
「光樹。お前も結構泳げるじゃないか」
「――赤司の方がすごいよ」
「降旗君も赤司君も仲良さそうで良かったです。――ボクも泳ぐのは嫌いじゃありません。ちょうどいい温度ですね。ここの海は」
赤司がオレのフォローしていると言った方が正しいかもしれないけど……まぁいいや。
「桃井サンも結構泳げるんですよね」
「そうよー。テツ君と泳げて幸せ。きゃっ」
桃井サン、本当に黒子のことが好きなんだよな……。黒子が少し困った顔をした。こんな美少女に惚れられて、男冥利に尽きるじゃん。それなのに何故――困惑した顔をしているのだろう……。
「おーい、腹減ったから飯くわねぇかー」
――青峰が叫ぶ。
そうだな。オレも腹減った。
「赤司は? 腹減らねぇ? いっぱい泳いで」
「そうだね。ちょっと食休みをおこうか」
赤司がざばっと海から上がった。身長は高いと言う程ではないけど、見事なシックスパック。――きっといっぱい鍛えているんだろうなぁ……。筋トレとかして。高校時代から腕の筋肉とか綺麗についてたもんな。細身だったけど。
その赤司がオレを眺めている。
「――光樹。その海パン似合ってる」
「ありがと」
オレは、ちょっと自分の貧相な体が恥ずかしくなった。
「おせーぞー。てめーらー」
青峰が呼んでる。行こう。
この海水浴場には海の家がある。海の家の食いもんも好きなんだ、オレ。
桃井サンはごく当たり前のように青峰の隣に腰をかけている。
ていうか、桃井サンと黒子より、桃井サンと青峰の方がしっくりしてるというか、お似合いと言うか……。
恋の神様は時々訳のわからんことをする。美少女桃井サンが黒子に恋したように。
桃井サンには青峰の方が絶対いいと思うんだけどなー……。まぁ、こればっかりは好き好きだからな。
でも、じゃあ、黒子は誰が好きなんだろう……。やっぱり火神なのかな。
バイトのお兄さんが忙しそうに立ち働いている。子供達が嬉しそうに何事かを話している。オレにはわからないことだ。オレもあんな子供だったんだよなぁ……赤司はどうだったんだろう……。
大体、赤司は海の家に行ったことがあるんだろうか……。
そう訊くと、また、「母が生きていた頃はね」なんて寂しい結論が出そうだから訊かないけど。
赤司は海の家でも上品に振る舞うお坊ちゃまだったに違いない。いや、でも、赤司ってああ見えて結構茶目っ気があるからな……。
「海の家に来たのは久しぶりだ」
――赤司の方から告白した。
「中学ん時一緒に来たもんなぁ……それ以来だよなぁ……」
上の空でそう言いながら、青峰はメニューを選ぶ。
オレは焼きとうもろこしは外せない!と思った。醤油の焦げた匂いが香ばしいんだよな。赤司も焼きとうもろこしを注文した。
――案の上、焼きとうもろこしは美味しかった。赤司も微笑みながら、「美味しいな」と言った。オレがその言葉を受けて続ける。
「どうだい? 赤司。一流シェフの飯も旨いかもしれないけど、こういうのも旨いだろ?」
「――焼き加減がちょうどいいな。誰が焼いたんだろう……顔が見てみたいな」
「海で食うから旨いんじゃないかなぁ」
オレは焼きそばとイカ焼きも頼んだ。
焼きそばもイカ焼きも美味しくて、とても幸せだった。赤司とも話が弾む。青峰が、さっきからオレ達のことをじーっと見ている。何か言いたいことでもあるような……そんな雰囲気。
「おい、赤司。フリ借りるぞ」
「わかった」
青峰は人気のない岩場に行く。オレもついて行く。――何だか、イヤな予感がする。
「おい、フリ」
青峰が真剣な顔で言う。
「こんなこと言いたかねぇけど――このままだとお前、飽きた赤司に捨てられるぞ」
後書き
飽きた赤司に捨てられる……。
青峰クン、大胆発言です。次号へ続く。
2019.06.25
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