ドアを開けると赤司様がいました 201

 しゃべりながらも、征一郎の体が動いている。その唇から、爽やかな吐息が吐き出される。あまりの気持ち良さに酔ってしまいそうだ――。
「征一郎……征一郎の息は……いい匂いがするね……」
「何だそれは。オマエの息だっていい匂いがするぞ」
「そうなのか……」
 きっと、健康的な生活をしているからかもしれない。食事してバスケやって――ただ、男同士で交わるのは健康的かどうか知らないが……。
「可愛い顔して……光樹……僕も、限界だ。ちょっと辛いかもしれないが、堪えてくれ」
「ああっ、ああっ!」
「光樹! 光樹……!」
 ――征一郎が大量の精を吐き出した。とろり、と残った精液がオレの門からこぼれて来る。勿体ない――とつい、オレは思ってしまった。いくら征一郎に抱かれても、オレが妊娠することなど、ないのに――。
 オレも、一緒に達してしまった。今度は青い匂いが漂う。けれど、それが嫌ではなかった。
 征十郎は、まだ部屋に帰って来ていない。
 オレは、つい涙を流してしまった。
「どうした? 光樹。――もしかして、征十郎がいないのがそんなに気になるのかい?」
「寂しくて……」
「寂しい? 征十郎がいないのがか?」
「そうじゃなくて……オレには、オマエ達の赤ん坊、産めないんだな、と思って――」
「……産めるかもしれないぞ。僕が天国から帰って来たように。ただ、本当に産めるかどうかはわからないが――」
 征一郎……初めて会った時はこんなこと思わなかったかもしれない。でも――。
「アンタ、優しいんだね……」
「今頃気づいたのかい?」
「ううん。オマエが――ドアを開けたら、この家の扉を開けた時、オマエがいた時から……」
 征一郎だけじゃない。この家には征十郎もいた。征一郎と共に。征十郎は今、何をしているだろう。からり、と襖が開いた。噂をすれば何とやらだ。
「――終わったかい?」
「征十郎!」
 オレの体がつい跳ねた。――むっ。オレの中にある征一郎のモノ、また元気になってる……こんな精力の持ち主じゃ、征一郎も大変だろうな……。
「もっとまぐわっていたいけど……光樹が大変だろうからね……トイレに行って来るよ……」
 征一郎がオレの中から出て、部屋を後にした。
「光樹。キミが征一郎としている間、オレは台所の掃除をしていたよ。明日はぴかぴかだよ。一生懸命綺麗にしたからね」
 征十郎が言った。
「オレ、征十郎はトイレに行ったのかと思った」
「行ったよ。禁欲生活のおかげかな。随分出たよ」
 ――征十郎も、言うことが即物的だな、と思った。
「本当はキミを抱きたいけれど、キミは一晩で二人は流石に無理かな」
「無理じゃないよ。――オレを、抱いて……」
「そんなこと言って……声に生気がないじゃないか」
「なら、十分……いや、三十分、三十分なら、耐えられるよ」
「本当かい? それはちょうどいい。――いや、今日はキミを抱けないものと思っていたから……」
「オレも……でも、征一郎もこうやって機会を作ってくれたし……」
「いいけど……三十分で足りるかな」
 征十郎はいたずらっ子のような顔をした。
「三十分なんてすぐじゃないか……でもまぁ、オレのも反応して来たし――光樹、キミのせいだぞ」
「人のせいにするなんて、征十郎らしくないよ……」
「ううん。オレはこれでいて結構、人のせいにしたりするよ。黒子のこともね――」
 ああ、黒子か――きっと、荻原の話だな。でも、もう過ぎたことだし、黒子も赤司達を許しているし、荻原も元気そうだったし――。黒子のバスケは、他人の心を救うバスケなんだ。
「黒子は、もう多分荻原のことでは怒ってないよ。――喋ってたら、あっという間に時間が経つよ」
「ああ、そうだね……」
 征十郎がオレにキスをする。征一郎と似ているようでいて、違うキス。どちらが好きかなんて難しいことオレにはわかんない。
「もう、ほぐれているね。征一郎に散々弄ばれたかな?」
 征十郎が冗談ぽく言う。オレはつい、涙しそうになった。顔を隠したかったけど、征十郎は察してしまったらしい。――オレが泣きそうになっているところ。でも、どうして涙が滲んだのか、オレにはちっともわからない。
「ごめん。冗談だよ――」
 そして、オレは征十郎にも抱かれた。
「ああ、征十郎――」
「……何だい?」
「ん……」
「気持ちいいかい?」
「うん……」
 征十郎に抱かれていると、何だか安心する。オレは征十郎の愛撫に溺れた。

 ――外は明るくなっていた。今度は征一郎が姿をくらましている。
「いい顔だね。光樹……」
「そう……?」
 オレは嬉しくて、でも、ぼうっとしたまま返事をした。
「征一郎……呼んで来なきゃ……どこにいるんだろ。あいつ……」
「さあな……今日も良かったよ。光樹……」
 ――でも、やっぱり一晩に二人の相手をするのはしんどい。征十郎がオレの中からペニスを取り出した。オレは……シャワーを浴びた方がいいんだろうか……。征十郎の汗の匂いが心地良い。
「今日は寝ていていいよ。光樹――」
 そうだな。シャワーを浴びる前にひと眠りするか……。
 今日は、バスケ部に行けないかもしれないな……二人の男とヤったからと言う鬼畜な理由からだけど。
 それにしても、征十郎の絶倫男め。三十分だけってオレ言ったのに、もうすっかり朝じゃねぇか。
 朝ご飯だけじゃ割に合わねぇぞ。――そりゃ、いつも美味しい飯作ってくれるのは有り難いけど、今のオレは全然動けないんだからな……。――オレは、すうっと眠りに入って行った。

「光樹、光樹――」
「ん、んん……」
「起きないな……どうする?」
「そうだな。光樹。早く起きないと僕達がオマエを襲うぞ」
 オレはそれを聞いてガバッと飛び起きた。辺りはすっかり暗くなっていた。どのぐらい眠っていたんだ。オレ――。
「やぁ、良かった良かった。目を覚ましたようだよ」
 部屋も薄暗いけど……声の調子で、征十郎だとわかった。さっきのは『僕』って言ってたから、僕司の征一郎だな。
「――惜しかったな」
 征一郎が舌打ち混じりに独り言つ。本気か冗談かわかんないから怖い……。冗談だよな。なぁ、冗談だって言ってくれよ。でも、こいつらやりかねないからな……。
「征一郎。そんなに求めると、光樹がバスケの時に使い物にならなくなってしまうぞ」
「そうだよ。征十郎――オレ、そんなにオマエらの相手を出来る程、頑丈に出来ていないんだからな」
 オレは、バスケが出来なくなることと、赤司を失うことが一番怖い……。
 オレがゲイと知られたら、大学辞めさせられるかな。宮園先生に会えなくなるかな。有山とバスケ出来なくなるかな――。
「キミはもうちょっと休んだ方がいい」
「赤司達だって――」
「いや、オレ達はもう大丈夫だ。むしろ、いつもより元気なくらいだ」
 征十郎のセリフを聞いて、オレはぞっとした。今夜も相手しろって言われたらどうしよう……。オレは、そんな余力、残ってないぞ……。オレはもぞもぞと動いた。――電気が点いた。
「そんな青くならなくたって大丈夫。オマエに無理強いはさせない」
 よく言うよ。征一郎のヤツ……。
「だけど、僕が実際に存在している男だってことはわかっただろ?」
「あああ、わかったわかった」
 オレは、おざなりに返事をした。だけど――征一郎がオレを抱いたのは、征一郎の優しさの故だ。それに、オレが抜け殻になってしまったのは、征十郎の責任でもあるんだからな。
「済まないね。光樹。昨日は――三十分だけって約束だったのに、つい夢中になって――」
「え? あ? うん――」
 でも、確かに征十郎はきっかり時間通りにやめようとしてたんだ。それなのに、オレ、あまりにも気持ち良くて、征十郎を引き留めて――。んで、夢中になってそのまま朝まで……。
 ――なんだ。悪いのオレじゃん。
「今起きる。てて……」
「何か食べれるかい? 美味しい夕食作ってあげたよ。他にも何かリクエストがあれば答えてあげられるよ。――昨日の罪滅ぼしも兼ねてね。……全く、だから、オレは三十分じゃきかないだろうって自分でも思ってたのに……」
 征十郎は最後の方では口の中でもごもごと文句を呟く。それは、自分に対する文句か、オレに対する文句か……それとも、その両方か……。
「それにしても、光樹。キミは……怖いヤツだ。オレのことを骨抜きにさせたんだからな。オレも、光樹への愛は制御出来そうにないよ。怖い子だから、罰を与えないとね。ほら、罰としてオレのキスを受け取ってくれないか?」
 征十郎が優しくキスをする。オレはその後、征一郎ともバードキスをした。

後書き
今回も18禁です。
18禁ものの続きです。
2021.09.20

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