ドアを開けると赤司様がいました 175

 でも、赤司達も料理旨いよな。彼らが作る料理の味も香りもオレは大好きだ。彼らのおかげで、舌が肥えて来たような気がする。まぁ、あんまり贅沢な料理に慣れてしまうと、お金がかかって仕方がないんだけど。
「あ、でもさ、青峰、青峰だって料理上手いだろ?」
『んー……まぁ、そら、さつきや誠凛のカントク達に比べればなぁー……』
「青峰、カントクはもう誠凛のカントクじゃないよ」
『わかってるって。あいつら美人だけど、意外な弱点あんだよな。あいつらのメシ食うぐらいなら、自分で作った方がまだしもだぜ』
 青峰の気持ちはわかるけど……でも、その台詞は桃井サンやカントクに失礼じゃないか? ……オレだって、カントクの料理を初めて食べた時にはあまりの不味さに驚いたけど。
「桃井サンのも、料理にサプリメント入れるタイプ?」
『はぁ? なんじゃそら。――さつきのは、何だか人外の生き物が鳴いてたような料理だったぜ』
 ……サプリメントの方がまだマシか。あ、でも……。
「青峰。俺達、カントクの料理で死にかけたことがある」
『マジか?!』
「フルーツ鍋だったんだけど……じわじわと毒が効いて来て、皆倒れたんだ……」
『おいおい、何だよ。それじゃホラーじゃねぇか……』
「味は良かったんだよ。味は! ――フルーツ鍋だったけどね」
『鍋にフルーツ入れるってどんなんだよ――マフィアとか殺し屋が毒の盛り方……じゃなかった、料理の仕方を習いに来たりしてな』
「えー、そりゃないっしょ」
『わからんぞー。あいつらの料理の不味さは人智を超えてる』
「青峰って、カントクの料理食ったことあったっけ?」
『前にな。――フリ。オマエはあの場にいなかったっけか』
「いなかったような気がする」
『随分騒ぎがあったんだぜ。あー、それに比べて火神の料理は……天国の料理みたいな味するんだろうな、多分』
 天国の料理……それは、征一郎が知っているかも――と思っていたが、黙っていた。天国の料理って、きっと旨いんだろうな、とはオレも思う。キャビアとかフカヒレとかいっぱいあるんだろうな……。
 征一郎の料理だって実際美味しいし。
「青峰がさ、火神の家に行って、作ってもらえば? 黒子だって、青峰だったらきっと歓迎してくれるよ」
『そうだな。今から行って来るわ。善は急げだ――!』
「あっ、まっ……」
 ツー、ツーと電話が切れた音が鳴る。
 南野クンとどんな話したのか、ちょっと聞きたかったんだけど……。
 ――南野クンはまだぼーっとしてる。
「南野クン、南野クン」
「……あ、降旗さん。電話終わりましたか?」
「終わったよ。つか、一方的にだけどな」
「ああ、そうでしたか。何となく気持ちがふわふわしてまして――オレ、ずっと青峰さんのファンだったから……ここだけの話、赤司さんのプレイより青峰さんのプレイの方が好きでした」
 そうか――ま、あいつのプレイには華があるもんな。あいつのフォームレスシュートなんてかっこいいもんな。
 オレも、赤司がいなかったら、青峰に憧れていたと思う。――いや、青峰のあの性格を知ったら、ファンだなんて言ってられないかもしれないけど。
 いや、ますますファンになるかも。フレンドリーとか何とか思って。
「オレ、青峰さんがますます好きになりました。何というか……人間味があって」
 ――南野クンは後者だったらしい。
 でも、そうだなぁ……オレもあいつ、嫌いじゃない。
「青峰さんて、恋人いるんですか?」
「美人の幼馴染ならいるけど?」
「噂は聞いたことあります。美少女で、しかも優しいって。大学でもバスケ部のマネージャーやってるそうで」
「詳しいね、南野クン」
「えへへ。でも、名前も知らないんですよ」
「桃井さつきちゃんて言うんだよ」
「へぇぇ……」
 南野クンが目を丸くした。
「やっぱり美少女なんですね。美少女って、名前もキレイでカワイイですから」
「しかも巨乳で――これで、料理下手という欠点がなければ最高なんだけどね。――青峰と並ぶと絵になるよ」
「料理下手なんですか? でも、そのぐらいは……うちのお母さんだって料理あんまり得意でないし――皆我慢して食べてるけど……」
 ああ、知らないということは恐ろしい……。南野クン、桃井サンの料理は『あんまり得意でない』どころじゃないぜ……。
 オレも赤司も、桃井サンやカントクにまともな雑煮一杯用意させることが出来るようになるまでにどれほど苦労したことか……。後で桐皇の元生徒に聞いたところ、『桃井さつきには料理を作らせるな』が合言葉になっていたらしい。
 ――うちも似たようなもんだ……カントクには絶対何も作らせるなと日向サンが……。命に関わることだからな。でも、作っちゃうんだけどなー……カントクは。被害者は主にバスケ部員だったぜ。高校の頃は。
 ……でもな、カントク、あれで一途で健気なとこあるんだ。日向サンもだけど。日向サン、成績上の方じゃなかったのに、カントク目指して難関校の試験突破しちゃった。
 皆、頑張ってるよなぁ……恋にバスケに……。
 南野クンが大人になる頃には、もっと日本のバスケ界も活気に溢れたりしてるのかな。
「どうしました? 降旗さん」
「ん? 日本のバスケがさ、もっと活発になればいいなぁ、と思って」
「なりますよ。きっと」
「そうだね。おっと、そうだ。柚子茶もっと飲む?」
「――いただきます。降旗さんの淹れた柚子茶は美味しいから」
 市販のなんだけどねぇ……南野クンは褒め上手で本当にいい子だ。頭なでなでしてあげたい。
「あ、でも、オレが淹れるの手伝ってもいいですよ」
「いいっていいって。南野クンはお客様なんだから」
「そうですか? ありがとうございます」
 オレは、鼻歌を歌いながら二人分の柚子茶を淹れる。そして、オレと南野クンは学校やバスケのことを語り合う。南野クンの小学校生活は楽しかったらしい。でも、主にバスケの話をした。
 その後、南野クンは、
「もう帰ります」
 と、言って、立ち上がった。もう帰るのか……南野クン。まぁ、そのうち征一郎や征十郎も帰って来るだろうけれど。
「今日はどうもありがとうございました。あ、柚子茶に焼き飯、美味しかったです」
 そう言って、南野クンは手を振った。もう雨もあがっている。オレは南野クンに対して手を振った。入れ替わりに征十郎が帰って来た。
「何だ。もう帰って来たんだ。征十郎」
「うん。今は春休みだから、忙しくはないしね。オレは時間の使い方が上手いのは知っているだろう? それに、一刻も早く光樹の顔が見たかったから――」
「オレの顔なんて……平凡な顔だろ」
「とんでもない。オレ達にとってはとても可愛い顔だよ。――征一郎はどこだい?」
「黛サンち」
「ああ……そういえばそろそろイベントだって言ってたね。修羅場かな」
「ん、そうみたい」
「まぁ、夏コミや冬コミのような大規模なイベントじゃなさそうだから落としても大丈夫だとは思うけど、黛サンは生真面目だからね……そういや、征一郎も絵が描けるんだっけか」
「描けると思うよ。征十郎と同じくらいハイスペックだから」
「ありがとう、光樹」
 征十郎がきらきらした顔で微笑んだ。うーむ、これは……女の子が相手なら一発で落とせそうだな……。オレなんかよりよっぽど綺麗な笑顔じゃんか。多分、男にも女にもモテるんだろうから羨ましいぜ。
「それじゃ、ちょっと征一郎に訊いてみようか」
「邪魔しない方がいいんじゃないか?」
「まぁ、ちょっとメール送るだけだから」
 征十郎はスマホの上にさささ、と指を動かす。
「まぁ、こんなもんだろ――」
「何て書いたの?」
「それは秘密。お、いい匂いがするね」
「征一郎や南野クンと焼き飯食べたから――」
「へぇ、いいなぁ」
「今からでも作る? 材料はまだあるから……征一郎がいっぱい買って来たようなんで……」
 でも、征一郎も前ほど大量に買って来ることはなくなった。まぁ、うちもそんなに裕福じゃないから……。征十郎か征一郎が赤司家に泣きつけば征臣サンは仕送りを増やしてくれるかもしれないけど――。
 それはオレが許さないからね。金持ちじゃないとはいえ、そこそこ生活していくには間に合うんだから。赤司家からは結構額が送られて来るけど、赤司達はちゃんと貯金している。
「南野クンはミニバス辞めたんじゃなかったっけ?」
 ――と、征十郎。
「うん、まぁ……中学の勉強が忙しくなりそうだからね。塾にも行くって言ってたし」
「それは親御さんの方針かい?」
「そうみたい」
「勿体ない話だなぁ……バスケは楽しいのに。でも、南野クンも承諾してるんなら仕様がないね」

後書き
火神クン家に行ってしまいましたね。青峰クン。
南野クンはミニバス辞めさせられて可哀想かも。
2020.08.28

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