ドアを開けると赤司様がいました 162

 キャンパスのマドンナとはキス止まりだったけど――いい匂いがしたな。若い女って、何でいい匂いがするんだろう。赤司もいい匂いするけどさ。
 黄瀬と黒子はLINEでキャッキャウフフしてる。両方とも恋人――もしくは片思いの相手がいるくせに。
『だからさぁ…オレの恋が叶ったら、Wデートしようよ、黒子っち』
『そうですね。考えてみてもいいかもしれませんね。黄瀬君はいつ、笠松さんに告白するつもりですか?』
『えー? 笠松センパイって、オレがどんなにアタックしても落ちてくんないんスよ。何故っスかねぇ…。オレ、こんなにモテモテでかっこいいのに…。笠松センパイは何が不満なんだろう…』
『そう言うところが気に入らないんだと思いますよ』
『えー? 笠松センパイの場合、女好きだと言うだけじゃん。オレが女だったら即恋に落ちたよ、きっと』
『そうでしょうね』
『あれ? そこはツンモードじゃないの?』
『ツンモードって何ですか?』
『例えば、黄瀬君の性格に問題があるんじゃないかとか何とかさぁ…』
『…言って欲しいんですか? 黄瀬君』
『黒子っちになら何言われても構わないっスよ。オレ』
『…でも、黄瀬君がいい男なのは、ボクも知ってますから』
『ちぇっ。黒子っちだって火神っちの方選んだくせに』
『こればっかりはどうも、想った通りにいかないものですよ。ボクだって、自分が火神君に恋するなんて思ってもみなかったものですから』
 こう言うトークばかり延々と続いている。見ててもなかなか楽しいものなんだけど――男同士の恋バナが楽しいなんて、オレも変態の仲間入りかもしれない。兄ちゃんはわかってくれるかどうかわからないし――オレの味方は母ちゃんだけかもしれない。
 ……母ちゃんもただ単に面白がっているだけだったりして。いや、ああ見えてもうちの母ちゃん真面目だからな。あまり男女の差にこだわらないだけかも。
 征十郎は硬い顔をしている。征一郎からはまだ、電話も来ない。
 どうしたんだろう。征一郎のヤツ――オレもちょっと心配になって来た。
『降っちもそう思うっしょ?』
 ――と、黄瀬のメッセージ。何だろ。オレは少し遡ってみる。
『赤司っちは絶対女好きだったって』
 女好きねぇ。大抵の男は女が好きだと思うぞ。
『でも、降っち可愛いから』
『黄瀬君。降旗君を口説いたら赤司君が怖いですよ』
『え? これも口説いたうちに入るの? オレ、女友達にいつも言ってるっスよ。キレイだね~、とか、可愛いね~とか』
『…赤司君達に殺されますよ』
『えー? オレ、若くてイケメンなのに、人生だって楽しんでるのに、若死にはイヤだなぁ~』
『そう言う黄瀬君だってオジサンになるんですよ』
『火神っちだってそのうちオッサンになるんじゃん。…尤も、オッサンになった黒子っちなんて想像もつかないけど』
『中学生や高校生からしてみたら、ボク達なんてもうオジサンですよ』
『そうかなぁ。ピンと来ないけど』
 クエスチョンマークを飛ばした男の子のキャラのスタンプが画面に浮かんだ。
『テツくーん!』
 ――桃井サンが乱入して来た。
『会話読んだよ。テツ君はオジサンにはならないよ~』
 桃井サンがハートマークを飛ばす。相変わらずだな、桃井サン。――青峰と結ばれた方が幸せになるだろうに。
『青峰君はオジサンっぽいところあるけどね』
 桃井サンが青峰を話題に出したので、オレはちょっとびっくりしてしまった。
『青峰君はまだまだ若いですよ』
 黒子が桃井サンに答える。
『そうねー。青峰君、ああ見えてもなかなか繊細だし…オジサンぽいところがあったかと思えば、子供みたいなところがあったりしてねー』
『緑間君は性格枯れてますけどね』
『枯れてるかなー。ラッキーアイテムへのこだわりは相当なもんだと思うけど』
『緑間っちのこだわりは異常っス』
 あらら。――黄瀬にそんなこと言われちゃ、緑間もショックだろうなぁ……死ねって言われても文句言えないっスよ。
『でも、高尾っちもいることだし? あっちの方はまだまだ枯れてないんじゃないんスか? 緑間っちは』
 もし緑間が聞いたら怒るだろうな。黄瀬は死刑確定だな。――桃井サンからのメッセージが来る。
『きーちゃん…大胆なこと言う…』
 だよなぁ……オレも、桃井サンの言う通りだと思う。
『え? 桃っちだってそう思ってんじゃない?』
『き、きーちゃん……』
『こら、黄瀬。桃井サンが困ってるぞ』
 オレは一応助け舟を出すことにした。――桃井サンは、『ありがとう』と言うメッセージの下に、お辞儀をしている女の子のスタンプを送ってくれた。桃井サンにもいつも世話になってるからなぁ。
(いえいえ――)
 オレは、桃井サンのお役に立てれば本望です。
 でも、それは口には出さなかったし、LINEでも言わなかった。なんとなく気恥ずかしかったし。――それに、桃井サンはいつか他人の相手になる女性だ。オレは、桃井サンが幸せになれるよう祈っている。
 ――日向サンとカントクのように。
 青峰と桃井サンはお似合いだとずっと思ってるんだけどなぁ……こればっかりはどうもならないからなぁ。例え、神様でも。
 けれど、黒子そっくりの神様が出て来た時は驚いたな。名前も『クロコ』だし。火神そっくりの相棒もいたな。何だか、現実の世界みたいだ。あの世界では、桃井サンみたいなクロコを追っかけ回す女神様とかいるんだろうか。
 オレは、クロコとカガミもこれからも仲良く出来るよう、密かに祈った。
 後、今、緑間が来ないように――。緑間があの黄瀬の書き込み見たら怒ること確実だろうしな。黄瀬は殺されないまでも、逆襲されるだろうし、オレは平和主義者だ。
 そこで、電話が鳴った。
 赤司がだっと走って電話を取る。
「もしもし、赤司です――」
 ここはオレの家でもあるなだけどな……なんてツッコミしている場合ではない。
「はい、はい。わかりました――」
 そして、赤司はちょっとこっちを見て言った。
「光樹。オレの実家からだ。ちょっと長くなる。引き続きLINEであいつらに相手してもらえ」
「わかった」
 オレは征十郎に向って頷いた。
『黒子…』
 オレは黒子に話しかけた。黒子がメッセージを書いた。
『何でしょう』
『赤司が…征十郎が、征一郎の心配をしていて…』
『何かあったんスか?』
 と、黄瀬。
『征一郎が、実家に帰っていて…』
『喧嘩でもしたんスか?』
『いや、法務局のお偉いさんが来たとかで…』
『と、なると、征一郎君の戸籍問題ですかね…』
 オレも、黒子の考えている通りだと思う。――と言うか、征十郎が言ってたし。征十郎は征一郎の邪魔をしてはいけないと思い、ここに残ったんだろう。
 その征十郎はまだ電話をしている。相手は誰だろう……。征一郎か、それとも、征臣サンか法務局の人か……。
 気にはなったが、気にしてること征十郎にわかったら、今度は征十郎がオレの心配をすることだろう。征十郎、ああ見えて心配性だから――。特に、オレや征一郎のことになると。キセキのことでも神経使ってたな。
 黒子は案外図太いところもあるんだけどね。喧嘩っ早いところもあるしね。
 あの変わり者のキセキをまとめていた征十郎も征一郎もよくやっていたよ……。
『はーい、皆ー』
 今度は高尾だ。高尾が来たことで騒ぎにならないといいが……。
 いいや、高尾も意外と考え深いところがあるからな。でなかったら、あの変人緑間真太郎の面倒など見ることなど出来ないだろう。ほんと、何で高尾は緑間が好きなんだろう。
 ……顔?
 緑間は男のくせに下睫毛ビシバシだもんなぁ……。美形といえば美形だし。眼鏡男子が好きな女なんか、緑間は憧れのシンボルだろう。顔もいい、背も高い、バスケも上手い。そんでもって頭もいい。
 ――赤司の方が成績は良かったようだけどな。征十郎と征一郎のどちらも。
 それに、将棋だって緑間は一度も赤司に勝てなかったとか……緑間は赤司より背が高くて良かったね。
 赤司達の唯一のコンプレックスは身長だからな。もう180超えたんだから充分だと思うんだけどね。でも、バスケはほぼ体格で決まるからな……。
 紫原のように、特にバスケに興味はないけど体格に恵まれて運動神経がいいと言うだけでバスケの道に進んだヤツもいるからな。ミニバスチームの子供達が聞いたら、さぞかし羨ましがるに違いない。
 紫原はそれが嫌みたいだったけどね……。
 でも、氷室に会ってから、紫原は変わった。紫原は昔程バスケを馬鹿にしなくなった。練習もちゃんとやっているらしい。
 ……人を変える力があるんだもん。バスケって素敵だよな。オレもバスケしてて良かった。
 ――黒子は高尾に今までのあらましを高尾に説明していた。今、征一郎が法務局のお偉いさんと会っていることも。
後書き
今回はちょっと12禁? もう、きーちゃん……いや、黄瀬君たらぁ。
緑間クンと高尾クンはそりゃもうラブラブでしょう。
桃井サンの黒子クンへの愛が通じることはあるのか? 火神クンは密かにモテモテ?(笑)
2020.07.11

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