ドアを開けると赤司様がいました 14

 オレ達はマジバに出禁をくらわされた。オレの責任なのかなー……。でも、店員さんにもいろいろ鬱憤はあったはず。
「何か考え事してるのかい? 光樹」
「どわぁぁぁぁぁ!」
 びっくりした。この赤司征十郎という男は、心臓に悪い。
 黒子や緑間達もそれぞれに帰って行った。高尾はこそっと、
「恋の悩みだったらいつでも相談に乗るよ」
 と言ってくれたけど、オレには残念ながら恋愛の悩みなんてない。赤司かオレが女だったら、そういうのもあるかもしれないけど……。オレの顔を覗き込む赤司を見て、オレは、はーっと溜息を吐いた。
「少しお腹が減ってるなら、この辺に旨いパスタを食べさせる店があるんだが……」
 オレはそれどころではない、と答えた。赤司が心配そうに見つめている。
「光樹……キミは何も悪くないよ。家に帰ってステーキでも焼こうか。それとも、消化がいいようにうどんがいい……?」
「どっちでも……」
「何か元気がないね。出禁食らったのがそんなにショックだった?」
「いや……」
 オレは、赤司といると楽しいけれど、何となく疲れてくるのがわかった。オレが女だったら、赤司に恋してたかもなぁ、なんて考えてしまう。尤も、オレが女になったって大した女じゃないかもしれないけど。
「そういえば、明日はキミと顧問の先生がオレ達の学校に来るんだよね」
「ん。ああ……」
 そういえば……忘れてた。
 オレの顧問の先生は、赤司やカントクに頼み込んでT大の練習風景を見学したいと頼み込んだのだ。先生本人と、それから生徒一人までならいい、と許可ももらったらしい。オレら、T大にスパイをしたいと言ってるようなもんなのに……。
 ――よっぽど自信があるんだな。今年は赤司がいるから……。
「キミがオレの大学に来るのを楽しみにしているよ」

「こんにちは。今回は宜しくお願いします」
 オレは、オレの学校のバスケ部顧問の先生と一緒に挨拶をした。
「宜しく」
 T大の顧問の先生は恰幅のいい、とても穏やかそうな人だった。
「よぉ、スパイ」
「それはないでしょ、日向センパイ」
 日向サンはオレの高校の先輩だ。誠凛高校ではバスケ部の主将をやっていた。あの高校にバスケ部を創立したのは木吉センパイで、この人もなかなか変わり者なのだが……。
 オレは、日向サンに笑ってみせた。
「冗談だよ。ゆっくりしていきな。お前もその方がいいだろ? 赤司」
「ええ」
 日向サンはこうして見ると、赤司と仲が良さそうに見える。――赤司、本当はいいヤツだもんな。
「日向センパイと赤司が仲良さそうで良かったっス」
「んー、赤司はまだちょっと謎めいたところがあるけどな。オレにもよくわからんところがさ。――赤司に降旗。マジバの件では世話になったな」
 日向サンから降旗と呼ばれるのも何となく嬉しい。光樹呼びがイヤな訳じゃないけど。
「でも、オレ、やっぱりスパイに見えるかも……」
「いいさ。秘密特訓もやってるけど、そっちは絶対に見せないからな」
 日向サンの言葉に、T大の顧問もうんうんと頷いていた。
「そっちの方を見たかったですね」
 オレも軽口を叩く。うちの顧問の先生は驚いたような顔をしてこちらを見、それからにやりと笑った。
「赤司さんや日向さんのおかげで、もう和やかな雰囲気になりましたね」
 そして、オレの耳元で、
「君を連れてきて良かったよ」
 と言った。オレは少し照れ臭かった。
「練習の様子、見てくれよ。光樹」
 赤司が言ったので、オレは「はい!」と威勢よく返事をした。
 ――赤司は得意のアンクルブレイクを成功させ、シュートを決める。赤司が口の端を上げる。赤司――今、笑った?
 キャアアア、と、女子の黄色い声が飛ぶ。彼女達にも、今日は見学を許しているそうだ。でも、何で男バスに? 女子生徒なら女バスじゃないの? 赤司目当ての娘って結構多いんだろうな……。
(さっき、赤司様私に微笑みかけてくれた!)
(違うわよ! 私よ!)
 女の子達が騒ぎ出す。でも、さっき赤司は、オレに笑いかけてきたような気がしてならない。
「やってくか? 降旗」
「え? いいんスか?」
 実はバスケがしたくて体がうずうずしていたところなんだ。ありがとう、日向サン!
 オレはドリブルを始める。
 赤司がアンクルブレイクを仕掛けて来たが、慎重にかわし、ゴールに向かってボールを投げる。――オレのシュートも決まった。
「キャアアアア!」
 何だ? オレにも歓声が――。
「よくやった、光樹」
 赤司が近寄って握手を求める。オレもそれに応えた。
「また上達したんじゃないのかい? でも、オレも負けないよ」
「はい」
 暇さえあれば、オレ達、近くのコートで1on1してるからなぁ……赤司の癖は飲み込んでいるつもりだ。赤司もまだまだ随分な強敵だけど。
 先生達は何かを相談しているようだ。
「降旗クン」
 女子の声。でも、この声はよく聞き慣れていたし、昨日も聞いたからすぐにわかった。
「カントク!」
 ――あの後、カントクと日向サンはカントクのお父さん――景虎サンから無事逃げられたかどうか訊きたかったけど、少し不謹慎かと思って黙っていた。
「ああ。相田サン――あなたの目は確かでしたね。光樹の才能を見抜くなんて。当時はオレでさえ出来なかったことなのに……」
 赤司が言う。カントクはふふっと笑ってた。
「そうでしょう? 伊達にあなたより一年先輩な訳じゃないのよ」
「その通りみたいですね。やっぱり悔しいけど敵わないなぁ」
 カントクと赤司は仲がいいみたいだなぁ。良かった。
「よぉ、上手くなったじゃねぇか。降旗」
「あ、日向センパイ。赤司とはよくバスケしてますから」
「……お前、赤司平気か?」
「ええ。何でですか」
「――お前は大物だよ。降旗」
 日向サンはオレの肩を叩いた。何が言いたいんだろう。日向サン。
 どうしてオレが日向サンのことを日向センパイと呼ぶか。前に『日向サン』と呼んだら、
「日向サンなんて他人行儀な。日向センパイでいい」
 と言われたので、大抵そう呼んでいる。オレにはどこがどう違うのかさっぱりわからなかったけど、確かに日向サンはオレのセンパイだもんな。
「それで、まぁ、赤司と一緒に練習したおかげで強くなった訳か。もう、オレの知ってる降旗とは違うな」
「何言ってんスか、センパイ。オレはちっとも変わってないっすよ」
「そうか。――まぁ、赤司にいじめられたらオレにいいな。リコと二人で乗り込んでやるから」
 赤司はいじめなんかしないけどな――まぁいいや。
「赤司はオレに対して気を使ってるみたいですよ」
「――そうだなぁ。今の赤司はオレにも気を使う良いヤツだな」
「そういえば、木吉センパイどうしてます?」
「お前、連絡してないのか?」
「たまにはしてますけど、あの人、ああ見えて、自分ひとりでしょい込む方ですから――」
「その通りよね。全く。鉄平って水臭いんだから」
 カントクもそう思うんだ。やっぱり人の性格を見抜く力はあるな。オレ達の能力を見抜くだけでなく。――だから、オレ達はカントクには逆らえない。そのカントクも、黒子の能力に関しては一目では計れなかったらしい。
 ――流石だな。黒子。
「もう少し見て行くかい? 光樹」
「ええと……見せてくれるなら?」
 オレは遠慮がちに赤司に言った。――すると、女の子達が数人、オレの元に寄って来た。
「今のシュートすごかったです。……降旗サンでしたっけ」
「赤司サンの攻撃、巧みに避けてましたよね」
 オレは普通にしていただけなのになぁ……。赤司が苦笑している。日向サンが怖い顔でこっちを睨んでいる。オレがモテるのが気に食わないのだろうか。日向サンにはカントクがいるのにね。

後書き
降旗クンはモテると思います。少なくとも私は好きです。
日向クンもリコたんと仲良くね。
2019.05.25

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