ドアを開けると赤司様がいました 13

「カントク!」
「相田先輩!」
 わー、わー、カントクだー。この人も懐かしい人だー。……女の人だけど。そして、隣にいるのが日向サン。カントクの彼氏――だよね。別れてなければ。
 って、あれ? 二人とも誠凛時代の制服……。
「何ですか? その格好は」
 赤司が不思議がるのも尤もだ。
「ああ、これ? パパの目を誤魔化す為のコスプレ」
 あー……あの強烈なお父さんか……。『リコたんの彼氏は全員ぶっ殺す!』みたいなことぐらい言いそうだもんなぁ。見た目もヤーさんだし。日向サンも大変だな……。
 でも、キレキャラ同士で、案外上手くいくかもしれない。でも、やっぱりカントクのお父さんはバズーカくらい出して来そうだよね。
「あー、お腹ぺこぺこ。日向クン、私、割り勘でなくても大丈夫?」
「バイトで稼いでるぜ。リコの分はオレが払う!」
 日向サン、かっこいいぜ!
「あのー……赤司……」
「大丈夫。光樹の分はオレが払うから。オレの分までおごってくれるような甲斐性、光樹にはないだろう?」
 う、うぐ……そうだけど……。
 オレ達は店員さんに手伝ってもらって、四人席を八人席にした。店の回転率悪くなるんだけどね。――その分、火神が食うから。
 バニラシェイクは美味しくて、甘い香り。マジバもこのシェイクも久しぶりだなぁ。
「日向サン、日向サン、あの話本当ッスか?! 相田サンと一緒の大学入る為に猛勉強したっつーの!」
 高尾が日向サンに食いつく。日向サンが、
「しっ!」
 と、唇に人差し指を充てる。
「何スか~? あ」
 高尾も気づいたらしい。窓の近くにいる相田サンのお父さん……!
「済まないのだよ、うちの高尾が……」
「ごめんなさい」
 緑間が日向サンに対して執り成すと、高尾がしゅんとする。割と素直な質らしい。
「別にびくびくしなくていいんじゃないッスか? 日向センパイ。カントクの為に頑張ったって話は皆知ってるんだから……」
 火神がお代わりのハンバーガーを食べる。相変わらずよく食うなぁ、火神……。
「ボクもそう思いたいですけど、娘を想う父親の気持ちは、理屈ではないですからねぇ……」
 そう言いながら黒子はバニラシェイクを啜る。うーん、カントクのお父さんは行き過ぎだと思うけど……。
「オレはわかるぞ。相田サンのお父さんの気持ち」
 赤司が無駄にオーラをきらきらさせながら言った。……赤司の将来の娘さんは大変だな……。
「でも、ホントにやぁよねー。好きな時に街角デートも出来ないなんて……」
 はーっ、と、相田サンが溜息を吐く。
「だよなぁ……確かに大学では会えるけど……」
「日向先輩も相田先輩も、大学では仲いいではありませんか。羨ましいですよ」
 赤司が言った。そういや、赤司はカントクや日向サンと同じ大学だったよな……。
「今だって一緒にいられるからいいではありませんか。――それに、お二人ともとても幸せそうですし」
 黒子が微笑んで言う。日向サンも相田サンも満更ではないらしい。
「やだ、黒子クンたら……」
「そうだぜ。なぁ、リコ」
 おっ、そういや日向センパイ、カントクをリコ呼びしている……少しは二人の仲も進展したのかな。良かった良かった。
「おや、何ニヤついてんだ? 降旗」
「赤司クンと上手く行って嬉しいんでしょ? そうよね? 降旗クン」
「え、いや、そんなんじゃあ……」
 オレはきょどきょどした。赤司はルームメイトであって、恋人ではない。
「――まだ何も言ってねぇのかよ。赤司」
 赤司がそっぽを向く。――あれぇ? こんな拗ね方したっけ。赤司……。というか、何で拗ねたとわかった、オレ……。ま、オレらの付き合いもいい加減長いからかな。
「降旗クン。赤司クンはいつもあなたのことばかり喋ってるわよ」
 カントクが赤司を指差す。
 ええっ?! そうなの?!
「お、オレがどんな風に迷惑をかけているとかですか?」
「そんなんじゃないってば……降旗クンのことを話している赤司クンはとても楽しそうよ」
 へぇ……オレなんかといて楽しいのか……。
「降旗クンが女の子だったら恋人にしてたかもねー、なんて、女バスの皆と笑って話してたんだけど……」
 カントク、それ、マジやめて。オレもそんな話のネタにされたことあるけど……。
「でもさぁ、赤司の降旗を見る目、何か尋常でないって言うか……」
 高尾が話に混ざる。緑間の眼鏡の縁がきらんと光る。
「おい、高尾……」
「もしかしてオレや真ちゃんと同じ仲間かもねー」
 ぎゃはは、と高尾は笑う。緑間が申し訳なさそうな顔をする。
「済まん。赤司に降旗。こいつに悪気はないのだよ……」
 あれ? 緑間、あいつ止めないの? 高尾のヤツ、もう、声になんないくらい笑ってんだけど……。事情を知らない人が見たら、ワライダケでも食ったのかと心配になるレベルなんスけど……。
「あの、大丈夫ですか? 高尾」
「ああ、そろそろ落ち着く頃なのだよ」
 ――緑間はやはり、高尾の扱いに詳しいらしい。
「ひー……笑った笑った。真ちゃんもたまには笑わないとダメだよ」
「お前みたいな馬鹿笑いはしたくないのだよ」
「酷ッ! 真ちゃん、酷いッ!」
「ふん」
 こんな二人だけど――両想いと思っていいのかなぁ……。少なくとも高尾はそう思っているらしいし。
「あー、馬鹿馬鹿し」
 火神は本当に呆れているらしい。でも、火神の黒子を見る目、あんまり人のことは言えないと思うぞ。火神……。自覚はしていないと思うけど。
「ん、どうしました? 火神クン」
「――いや、別に」
 こいつらは特に何も起こらない訳ね。今度は高尾を止めようとする緑間……。高尾は火神と黒子の関係もよく見ているらしい……でも、二人の仲を取り持つ程、緑間は火神達に対しては親切ではない訳だ。
 高尾はこっちを見てニヤッと笑った。オレもニヤッと笑う。――高尾が言った。
「降旗クンも気をつけてね~」
 何だろう。何に気をつけろというのだろう。変な高尾。
「何に気をつけろって?」
 オレは首を傾げた。日向サンが憐みの目で赤司を見た。そして続けた。
「ん~、何と言うか、赤司、お前も大変だな……」
「いいえ。慣れてますから。光樹は岡目八目なんです」
 何で赤司が大変なんだろう……あ、もしかして!
「アンタら! 誤解してる!」
 オレはつい怒鳴ってしまった。赤司とオレが恋人同士に見えたんだろう! でも、オレ達は違うんだ!
 ――赤司も呆然としているみたいだ。
 だって、オレ、ゲイじゃないし、第一オレなんかが恋人じゃ、赤司が可哀想じゃないか!
「光樹……」
 赤司が呆然としているのも気にしない。オレが更に口を開いて自分の意見を言おうとしたその時だった。
「あーっ! リコたんとリコたんを攫おうとする悪い男見ーっけ!」
「どわぁぁ、見つかったぁ!」
「日向クン早く! お代は赤司クン払ってね!」
「はいはい……」
 赤司はポーカーフェイスで答えた。
 何この騒ぎ……オレのせいじゃないよね……いや、オレのせいかも……。店員もオレのせいだと思ったらしく――。
「君達……当分は出入り禁止にさせてもらいますからね」
 と、ドスの利いた声で追い払われた。しっかり赤司から代金を払わせた上で。
「ふむ……これがマジバと言うヤツか。なかなか楽しかったぞ」
 赤司はそう言うが、オレはなかなか複雑な気分だった。普段滅多に味わったことのない気持ちを味わわせてもらったことは確かだが――こんなのは、こんなのはオレの知ってるマジバじゃないー! 店員さんも皆ホントはもっと優しいの!

後書き
マジバデート編、終わりです。
他の人はどうだか知りませんが、赤司様だけは満喫したようです。
降旗クンも大変だなぁ……。
2019.05.21

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