ドアを開けると赤司様がいました 119

『ほんとか? すげー! でも、赤司と降旗ねぇ…ちょっと驚いたな。そういえば、今日一緒にいたよな。バスケの練習してたんだろ?』
『うん。ダンクの練習を』
『すげー! で、出来るようになったか?』
『手ごたえはあったね』
『ひゃー、すげー! あのビビりの降旗がねぇ…赤司達とも同居してるってのにも驚きだし』
『或る日、ドアを開けると赤司がいたんだよ』
『…何にも知らなかったのかよ。おめー。それでよく赤司と暮らす気になったな。ま、おめーは意外と順応性あるからな』
『ありがとう』
『よせやい』
『赤司に代わるね。今、征一郎しかいないけど』
 ――あ、やべ。征一郎のことはあまり表に出さない方がいいかも。……今更だけど。
『おっ、赤司は双子だったっけな。オレ、今吉サンやおめぇのおかげで少しはバスケに興味持って来たからさ。赤司征十郎は知ってるけど、征一郎は知らねぇ。…双子の弟?』
『…まぁ、そんなようなもん』
 オレは茶を濁した。だって、そうするしかねぇじゃんか。
「おーい、征一郎。高良がアンタと話したいって」
「そうか……」
 征一郎は今まで読んでいた本をぱたんと閉じた。オレは征一郎にスマホを渡した。――征一郎は意外と高良とウマが合ったようだった。楽しそうにスマホの画面を見ては笑う征一郎に、オレはちょっとジェラシーを感じた。
「ありがとう、光樹。そうか……高良は今吉サンが好きなのか。安心した」
「好きって言うか……尊敬しているみたいだよ」
「そうだな。高良はいいヤツだ。やっぱり腹を割って話してみないとわからないものだな。ああ、心配しなくても、僕の出生の秘密は明かさなかったよ」
 オレも征一郎の出生の秘密はよく知らないんだけど……。
 それを知っているのは赤司征十郎ただ一人。
 だけど、征一郎が目の前に突然現れても、征臣サンは自分の息子と言ってあげてたし、詩織サンが生きていたら、きっと彼女も征一郎を可愛がってくれたと思う。だから、征十郎だけの秘密があったっていいと思う。
「もうちょっとこれ、貸してくれるかい?」
 征一郎がオレのスマホを指差した。
「ああ、いいよ」
 高良と征一郎が仲良くなってくれるなら、こんなに嬉しいことはない。征十郎がバスルームから出て来たので、オレは入れ違いにシャワーを浴びることにした。征十郎とすれ違う時、ボディーソープの香りがした。
 ――オレがシャワーを浴びた後も、征一郎は征十郎と楽しそうにスマホの画面を眺めていた。
 良かったなぁ……。オレは目を細めながら笑い合う二人を眺めていた。この二人を見たら、きっと征臣サンも喜ぶはず。――天国の詩織サンも。
「あ、光樹……話は終わったよ。キミの昔の話も聞いたよ」
「えー、照れるなぁ」
 オレは茶色の猫っ毛を掻き揚げた。征十郎はふふっと笑った。そして、オレの傍に来て言った。
「いい匂いだ。――光樹」
 お前も同じ匂いだろ! ――とオレはツッコみたくなった。だって、同じボディーソープやシャンプーを使ってるんだから……。
「征十郎。離れろ」
 征一郎が無理矢理割って入る。
「何だ。征一郎。――焼きもちか?」
「――ああ、そうだ」
 こういう時、オレだったら否定するんだけど。こういう時の対応は人によって違うからな。それにしても、征一郎はシャレがわかりそうにないな……。いや、頭ではシャレだとはわかっているんだろうけど。賢いから。
「んじゃ、ちょっとオレ、勉強してくるよ」
「わかんないところがあったら、今まで通り教えてあげるよ」
「サンキュー。征十郎」
 オレはやっと、『征十郎』、『征一郎』と噛まずに発音が出来るようになった。
 ダンクのコツが掴めて来たからかな――関係ねぇか。いや、自信がついて来たように自分でも思う。
「征十郎。征一郎」
「――何だい?」
 征十郎が柔らかい微笑みを見せる。――征一郎の表情が少し強張っているように見えるのは気のせいだろうか。
「……ありがとう。オレに付き合ってくれて」
「当たり前じゃないか!」
 二人は同時に言った。赤司達がオレを好きになってくれたから、オレも赤司達が好きになったんだ。
「じゃあ、お礼は体で返してくれるかい?」
 オレは、ううう……と唸ってしまった。
「僕も過激なプレイは好きなほうだけど……今日は素股で我慢してあげるよ。明日もバイトがあるんだろ?」
「そうしてくれると助かるよ……」
 でもオレは、そのことが気になって勉強はなかなか捗らなかった。二人は熱心に教えてくれたけど、やっぱり頭に入って来なかった。――でも、赤司達って、意外と人に物教えるの得意だったんだね。それとも、カントク達に料理を教えたことでまた教育のスキルがアップしたのか。
「手が疎かになってるぞ。光樹」
「ああ……ごめん」
「謝らなくていいって。勉強が出来なかったら困るのは光樹の方だろう?」
 うう……言われてしまった……。
「それとも、素股が楽しみなのかい?」
 図星を突かれてオレはかっと体が熱くなった。
「この宿題が終わったら、めいっぱい可愛がってあげるからね」
 んな色っぽい声出すなよ。えーと……征十郎。課題に集中できない……。因みに今やってんのは数学だ。大学の数学ってほんと難しい……。
 でも、何とか終わった。赤司達はオレにご褒美のキスをそれぞれしてくれた。
「それじゃ、次はお楽しみの時間だね」
 征一郎の見ている前で、征十郎はオレのモノを太股に挟み込む。久しぶりだったオレはすぐに達してしまった。ダンクの練習で疲れていたはずなのに。オレも溜まってたのかな。
「今度は僕がイかせてやるよ」
 うう……赤司、綺麗な顔であまり下品なこと言うなよな……。それに――。
「こんなことして、オマエらに何のメリットがあんの? そりゃ、オレは気持ちいいけどさぁ……」
 オレは訊いてみた。すると、赤司達がにんまり笑った。
「決まってるじゃないか。光樹の色っぽい顔が見られる!」
 ――ああ、オレ、すっかり赤司達に翻弄されそうだぜ。お前らこそ色っぽい顔してんじゃねぇか!
「うっ!」
 征一郎の素股で二度目の絶頂に達した時、流石にオレも息が上がって来た。こんな顔、高良とか、黒子とか誠凛のヤツらに見られたらどう思うかな……。
 なんか、風俗のサービス受けてるみたい……。風俗なんて行ったことねぇけど。それに、赤司達を風俗嬢呼ばわりしたら失礼に当たるかもしれないけれど。
「いっぱい出たな。いい子だ」
 ――征一郎がオレの頭をよしよしと撫でる。かなり満足してしまって、オレはふにゃりと笑った。
「あっ、この表情、いい感じ!」
 いつの間にか征十郎がスマホを持ってオレのだらしなくにやける写真を撮った。――オレは過保護にされつけているんではないだろうか。二人の赤司に。……お袋もこんなオレを見たらびっくりするかな。
「光樹……オレ、ずっと弟が欲しかったんだよ。だから、征一郎とかお前とかが弟みたいな存在になってくれて嬉しい……」
 征十郎がオレのことをぎゅうと抱き締めた。征一郎の視線をちくちくと感じる。もしかしたら征一郎は征十郎じゃなくオレに妬いてるんじゃないだろうか……。
 オレにも兄ちゃんはいるけど、征十郎とはまた別モンだもんなぁ……。
 兄ちゃんは離れたところで暮らしている。時々手紙も届く。征十郎も、オレ宛の手紙は読まないでいてくれたっけ。征一郎はどうなのかまだわかんないけど。征一郎はオレのプライバシーを侵しても辞さないところがあるからなぁ……。
 兄ちゃん……。
 オレはつい独り言を洩らしていたらしい。征十郎がくすっと笑った。
「いいよ。オレはお前の兄で。――婿になれたら最高なんだけど、征一郎がいるからね……」
「む……僕を邪魔者扱いする気かい?」
「そんなことはないんだけど――」
 征十郎が猫を思わすような笑いをした。
「キミは随分独占欲が強いんだねぇ。征一郎。――キミはずっと不安でたまらなかっただろう」
「ああ。僕はオマエの代わりの存在だからな」
「でも、一生懸命努力して、この世に生まれ出た。それは何故かな?」
 征十郎の問いかけに征一郎が黙る。そんなの、決まってるじゃないか。オレの為に生まれ出て来た――なんて口実だ。征一郎は征十郎に会いに来たのだ。
 ――征一郎は征十郎が好きだから。
「光樹……オマエもなかなか洞察力が鋭いじゃないか」
 洞察力が鋭いのはどっちだよ。――また勝手に人の心を読んで……。でも、征一郎の目当てはオレなんかじゃなく、初めから赤司征十郎だったんだ……。
「それは違うぞ。光樹。僕はオマエも好きだ。僕は両方手に入れたかったんだ」
「オレもだよ」
 征十郎は征一郎とオレを同時に抱き寄せた。くすぐったい、甘い感覚が体を巡って行った。征十郎は言った。
「征一郎も光樹も、オレの大切な弟だよ……」

後書き
今回はちょっと18禁(笑)。
俺司様、弟が二人も出来て良かったね。
2020.02.24

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