ドアを開けると赤司様がいました 115

 オレはシャワーを浴び、髪を洗った。征十郎が高級シャンプーを買って来たので、いい匂いなんだ。これが。征十郎は、生活用品に金かけることを苦にしないから――。
 ほこほこしたオレはまだ赤司達のいると思われるリビングに戻って来た。
 ――天使が二人いた。
 まぁ、赤司征十郎と征一郎なんだけどさ。でも、赤い髪に縁どられた端正な顔立ちは天使と言っても良かった。
 そんな赤司達が、何でオレのことを競うように口説いたりするんだろう……。オレなんか、ちょっと猫っぽい顔をしたただのフツメンなのに……。赤司達は猫が好きなのかな。
 フラれるのはまぁいいけど、赤司達みたいなとびっきりのいい男達から言い寄られるのはなんか照れるな……オレ、男で好きなのは赤司達だけで、他のことについてはノーマルな男性と同じだから。
 でも、それにしても赤司達はやっぱり綺麗だ――。
 征十郎の額に顔を近づけると、何とも良い香りがする。――オレは、征十郎と征一郎の額にキスをした。
 机の上のスマホはスイッチを切ってあった。赤司達はちゃんと通話を終わらせてから寝るのか。
 ――オレは、部屋に戻って行った。オレの長い一日は終わった。

「よぉ、黒子! 朝日奈と夜木どうだった?」
『1on1をして、夜木君が勝ちました。――ボクも二人の対決を観たかったのですが』
 翌日の午後、オレは黒子に電話した。
 黒子の声は結構かっこいい、でも少年らしい声で、だけど、何だか、ウスい。まぁ、仕方がないか。黒子の存在自体、ウスいもんな……。髪の毛と、丸い目玉もウスい水色をしている。――桃井サンなんかは可愛い、と言うんだろうけど。
 ――夜木のことに話を戻そう。
「へぇ~、夜木、勝っちゃったんだ」
 あのインターハイに出られるだけすごい、と言っていた気の弱そうな少年がなぁ……。どこか頼りないところでオレが勝手にシンパシーを感じていた夜木が……成長したもんだ。朝日奈もバスケ上手いからな。
 おっと、視界がゆらいで来たぜ……。
『密かに朝日奈君が勝つ方に賭けていた人もいたらしいですが。賭け事はダメだって、ボク友達に言ったんですが。あ、そうだ。降旗君、早速電話してくれてありがとうございます』
「いやいや。オレも、黒子と話したかったから」
 黒子は賭け事とかそういうの、厳しそうだなぁ。ほんと、昔から真っ直ぐで、正義感強かったから。
 普段はウスい黒子だけど、本気になると存在感が増す。これがあの黒子か――?と、思わせるぐらいに。桃井サンが黒子に惚れるのもちょっとわかる。
『結局2号は、朝日奈君と夜木君で可愛がることになったそうです。……朝日奈君も、卒業後、夜木君の家に遊びに行く口実が出来て良かったですよね』
「うん、そうだな」
 朝日奈が遊びに来れば、夜木だって喜ぶだろう。2号はダシに使われる訳だけど、二人とも2号は大好きだもんな。
 でも、朝日奈が手加減したと言うことはないだろうか……。黒子に訊くと、彼は言った。
『二人とも真剣勝負みたいだったですよ。火神君が、勝負前に朝日奈君に「手を抜くな!」と念を押したようで。それでも、夜木君は勝っちゃった訳ですけれどね』
 ここで、黒子は話を変えた。
『これからは、火神君も夜木君のところへ訪問するようですよ。2号に会いに。……朝日奈君がちょっと複雑だって』
 朝日奈は火神に憧れて誠凛に入って来たのだ。朝日奈大悟、それに、夜木悠太が引っ張っていったからこそ、誠凛は洛山に負けない、立派な強豪校になることが出来たのだ。まぁ、前から凄かったんだけどね。先輩達のおかげで。
「火神も犬嫌いが克服出来たようで良かったな」
『ええ。2号が来た当初はあんなに怖がってたのにね』
「でも、犬に噛まれた過去があるんじゃ、犬が嫌いになるのはどうしようもないんじゃねぇかな」
『そうですね。火神君、2号の散歩にも行くようになって来ましたし』
「全く、2号様々だよな。――誠凛の皆にも可愛がってもらってたんだろ?」
『ええ。誠凛に通っている友達に訊きましたが、皆、時間があると2号をモフモフしてたようです』
 ……何て言ったらいいのかな。2号をモフるのはいいけど、バスケはどこ行った?
「あいつら、ちゃんとバスケやってんの?」
『やってますよ。真面目にやらないと2号が怒るから』
 ――やれやれ。オレ達の後輩のヤツら、2号に負けてんのか? でも、2号がいてくれて良かった。2号は声出しも手伝ってくれたっけな。――懐かしい。
 オレは、2号のつやつやした黒と白の毛並みを思い出していた。カントクや黒子が2号の体を洗ってくれていたらしい。いつだったか、わたあめみたいになりながら黒子に洗われていた2号の表情は気持ち良さそうだったっけ。
『2号も立派な誠凛の選手でしたが、夜木君が2号を引き取ってくれて良かったと思います。きっと彼は可愛がってくれるでしょう』
「そうだな。もう、電話切っていいか?」
『あ、はい』
「2号の話、教えてくれてありがとうな」
 オレも2号は好きだったから、2号のその後が幸せになりそうで、ほっと胸を撫でおろした。頑張れよ。夜木。そして――朝日奈。朝日奈の恋も上手く行くといいな。
「また電話するぜ。LINEでも会おうな」
『はい。降旗君もお元気で』
 ――オレは、もう一件電話をかけなければならない。
『はい。大栄ミニバスチームです』
 出たのは小笠原コーチだった。
「あ、もしもし、降旗ですが――」
『ああ、降旗さん。ありがとうございます』
「いえいえ。子供達はお元気ですか?」
『元気ですよ。元気過ぎるくらい元気ですよ。でも、子供達はあれぐらい元気でないと――何か用事でもあるんですか? いや、用事なければかけてはいけないと言う訳ではありませんが……』
 オレは本題に入ることにした。
「実はオレ、大栄ミニバスチームでバイトがしたくって」
『――私は大歓迎ですが、こういうことは監督にも相談しないと……降旗さんは学校忙しくないですか?』
「実はそんなに忙しくないです」
『じゃあ、後で私の方からまた連絡しますので。でも、降旗さんが来て下さると、子供達は喜ぶでしょうね』
「えへへ……」
『特に南野クンは喜ぶでしょう』
 うん。南野クンが喜んでくれたなら、オレだって嬉しい。
 ――バイトの話は連絡待ちということになった。オレは電話を切った。

「やぁ、ただいま。光樹」
 二人の赤司がそれぞれオレの頬にキスしてくれた。欧米人じゃないんだけどな。オレらは。
「遅かったね。二人とも」
「オレは学校。征一郎はぶらぶら歩いてたって」
「なかなか楽しかったよ。日の光が最高だった」
 ――赤司が二人いるって、この界隈では評判になってないかな。二人とも目立つ赤い色の髪をしているもんな。
「夕飯準備出来てるよ。お風呂も沸いてるし」
「なんか、奥さんみたいだな。光樹」
 征十郎が言った。でも、夕食は冷蔵庫の余りものだけどね。オレ達は昨日岡さんが作ってくれた料理をとっておいたのだ。岡さんの料理はやっぱり美味しい……。昨日よりも味がこなれた感じがする。流石、名シェフの料理。
「ご馳走様」
 赤司達は同時に食べ終える。空になった食器をシンクに運んでくれた。
「オレが洗っておくよ」
「そうかい。じゃあお願い」
「それから、今日、大栄ミニバスの小笠原コーチに電話したよ。バイトしたいって」
「へぇ……で、採用されたのかい?」
「ううん。連絡待ち。監督に相談するって。きっとコーチも監督も忙しいんだろうな」
 大栄ミニバスの監督という人には会ったことないけど。
「そっか……まぁ、頑張れ」
 征十郎がオレの肩をぽん、と叩いた。
「ところで、光樹。今夜は僕達と一緒に同衾しないかい?」
 ――と、征一郎。
「しません」
「征十郎とはもう共寝をしたことがあるんだろう?」
「う……」
 そう言われると絶句するしかなくなる。確かに、征十郎と寝て、征一郎と寝ないのは不公平……なのかな。――オレのこんな思考回路も充分おかしいと思うけど。なんせオレは、征一郎のことも好きだから。
「構わないだろう? 征十郎」
 征一郎が小首を傾げる。――征十郎は断ってくれるよな。だが、期待は裏切られる。
「そうだな……二本挿しというものも一度試したかったからね」
 ……二本挿しって、何だ? 赤司達のモノを同時にオレに突っ込むのか? いやいやいや。オレ、壊れるって!
 征十郎のも立派だったけど、元は同じ人物である征一郎のモノも同じくらい大きかったら――オレの体に入るかどうかわかんないって。うう、痛そう……オレはぞ~っとした。
 取り敢えず、オレは風呂に逃げ込むことにした。少し冷めたので、追い炊きをした。
 それにしても、征十郎は穏やかな顔をしてとんでもない提案をする。征一郎だって怖い時あるけど……ううん。赤司達自体は怖くないけど、発言が怖いっていうか、何ていうか……。
 なぁんだ。オレ、やっぱり赤司達のことが怖いんじゃん。昨日は怖くないと思ったけど。それどころか天使だと思ってたけど――。
 天使は天使でも、あいつらは堕天使だな。オレ? オレは普通の人間だよ。……赤司と言う美しい悪魔に魅入られた――ね。

後書き
夜木クン、勝ってよかったね。
それにしても征十郎の大胆発言! 降旗クンの味方はどこ……?
2020.02.12

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