ドアを開けると赤司様がいました 112

『黒子…どうすんだ?』
 オレはうずうずする好奇心に耐えかねて訊いてみた。
『ん…確かに桃井サンは可愛いですが…ボクにはもう他に好きな人がいますから』
『それは、火神だね』
 征十郎の問いに、黒子は、
『はい』
 と、答えやがったではないか! ちきしょう! 羨ましいぞ! 黒子のヤツ! ――桃井サンみたいに綺麗で胸の大きな女性に好かれてんのに、まだ火神を選ぶんだからなぁ。ほんと、こん畜生だぜ!
 オレも――桃井サンと赤司だったら、桃井サンを選ぶかなぁ……。
 そんなことを思った時だった。征一郎のオッドアイがきらんと光った。
 うぇぇぇぇぇぇ! 今思ったことは嘘です~~~~! ほら、キャンパスのマドンナより、ちゃんと赤司のこと選んだじゃんか、オレ!
『ああ、そういえば、降旗君、車買ってもらったんですよね? ご家族に』
 黒子が強引に話題を変える。
『うん…部屋も用意してくれたし、オレに対して甘い親かな、とは思ったんだけど…』
『でも、感謝はしてるんだろ?』
 と、火神。『うん…』とオレは控えめのウサギのスタンプと共に返事した。
『おら、赤司もフリを見習えぃ』
 青峰ったら――オレはそんな大したもんじゃないっていつも言ってるじゃんか……。ヨイショされると、嬉しい時と気恥ずかしい時って、あるんだなぁ……。赤司はどうなんだろう。
 ――今、模範解答でスラスラ答えちゃう赤司の姿を想像してしまった。赤司って心臓強そうだからな。征十郎も、征一郎も、どっちも。そこへ行くと、オレはチワワメンタルだもん。
「始めはオレが買う予定だったんだけどね……」
 征十郎が言った。征十郎……いくら何でも車の代金まで赤司家に負担させるなんてことは出来ないよ……。でも、気持ちはちょっと嬉しい。それって、信頼の証じゃないかな。だってオレ、征十郎のことも征一郎のこともどっちも信じてるもん。
『フリ。…どうだったんだよ。赤司の野郎からロールスロイスの鍵がついたキーホルダーをプレゼントされた時の気分はよ』
 えええええ?! 何で知ってんのぉ?! ――オレは言った。
『それは、全力で返却させてもらいました』
『げっ! マジでそんなことあったのかよ! 冗談のつもりだったのによぉ。おい、赤司。今からでもオレに鞍替えしねぇか?』
『…………』
 青峰の文章を見たらしい火神は三点リーダーを打ち込んだ。ああ、呆れてるのが目に見えるようだよ……火神も金持ちみたいだけど、赤司程じゃないもんな。それに、青峰は火神に一回告白してるはず。
『青峰。悪いが色黒は好みじゃないんだ。オレより身長が高い男もね』
『わあってるって。冗談だぜ、冗談』
『青峰君には桃井サンがいますもんね』
『何だよ、黒子…さつきはただの幼馴染』
 そういえば、黒子は青峰が火神に告白したこと、知ってるんだろうか……言ったらまず修羅場だな。オレは平和主義者だから、なるたけそう言うの避けたいんだけどな……。赤司達のこれからの問題もあるからね。
 黒子……。
 やっぱり言うべきなんだろうか……。いや、いい。冗談で済ませて、それでいいんだ。問題が全て綺麗に解決するとは限らないんだから。
 それよりも、言うことがあるじゃないか。二人の赤司のこととか。
 ――よし。文面を打って送信しよう。
 オレが覚悟を決めた時だった。高尾と緑間が入室して来た。何だ? 邪魔して……。
『やっほー、お揃いで』
『やぁ、高尾。もう一人のオレも見てるよ』
『赤司…オレもいるのだよ』
『わかってるって』
 空気が軽くなったのを覚えて、オレは邪魔だと思ったことも忘れて、高尾と緑間に感謝したくなった。
『ねぇ、もう一人の赤司の名前決まったの?』
『ああ。赤司征一郎だ』
『ふうん。…ちょっと安直な名前だけど、悪くないね』
 オレは安直と言われてカチンと来たが、確かにその通りなのだから文句も言えない。でも、征一郎がオレより頭に来たみたいだった。
「征十郎。この名前は光樹が一生懸命考えてつけた名前だと言ってくれ」
 ――征一郎……オレはさっきも言ったようにそんなに一生懸命考えて名前をつけた訳ではない。でも、やっぱりそう言ってもらえるとちょっと嬉しい……。
 けどなぁ……もうちょっと考えたらもっといい名前がつけられたんじゃないだろうか……。子供の名前をつけるのに苦労する親の気持ちがちょっとわかった気がする。
『高尾…征一郎はこの名前が気に入ってるみたいなんだ。光樹がつけてくれた名前だから』
『へぇ。征一郎も降旗ラブなんだぁ』
 高尾のにこっとした……というか、にまっとした顔が見えたような気がした。
『けれど…安直には違いないのだよ』
 緑間が高尾の肩を持つ。まぁね……名付けた本人であるオレでさえそう思うし……。
『ボクはいい名前だと思いますが』
『ありがとう、黒子』
 オレは黒子に礼を言った。
『お礼を言われる筋合いはないのですよ。もう一人の赤司君も幸せなんでしょうか』
『ああ、すごく幸せだ…と、彼は言っている』
『それは、降旗君のおかげでしょうかね』
『当然』
 そうかな……オレ、大したことはなーんにもしてないんだけど……。二人の赤司達がオレに向かって笑いかけてくれる。どちらも天使の微笑みだ。――いつの間にか、二人がオレの隣に来て座っていた。お馴染みになった花の芳香がする。
 ――彼らの香水のようだった。オレは何だかくらくらした。赤司達にはいつもくらくらさせられてんだけど。
『…良かったな。赤司。オレらはアンタのライバルだけど、幸せになってくれると嬉しいぜ』
『オレもなのだよ』
 高尾と緑間がオレ達を祝福してくれた。――とても嬉しい。
「ふふっ。高尾と緑間も喜んでくれて良かった……」
「僕も……」
 そう言った征十郎と征一郎がオレのこめかみに近づく。――よっと。オレは赤司達の下をくぐった。……赤司達の唇がくっついた。
「こら、光樹。逃げるんじゃない」
「ごめんごめん」
 オレは笑った。黒子達はもう他の話題で盛り上がっている。こういう関係って、やっぱいいよな……。
『えーっ! 降旗って、赤司からロールスロイスもらうところだったのー?!』
 高尾は驚いているようだ。そうだろうな。オレだってそんな話聞いたら驚くもん。
『どうやらそうらしいぜ。おい、緑間』
『何なのだよ。青峰』
『おは朝のラッキーアイテムがロールスロイスだったら、お前、赤司に借りることが出来るな』
『ふーむ…おは朝のことだ。ラッキーアイテムがロールスロイスということもあり得るな…』
『真ちゃん…流石にそれはどうかと思うよ…』
『ロールスロイスは嫌いか、高尾』
『…何か、悪目立ちしそう』
 それを見てオレはぷっと吹き出した。悪目立ちしそう。オレが何度思ったことであろう。そりゃ、征十郎は慣れてるだろうから気にはしないと思ってるけどねぇ……。
『運命に従うには仕方がない時もあるのだよ』
『お前、そればっかりだな。高尾も苦労してるだろ』
 と、青峰。
『いんやー、もう慣れちった。ラッキーアイテムを探すのも結構楽しいしね。…まぁ、確かに苦労もするけど』
『高尾…』
 そういえば、緑間と高尾は同じ部屋でLINEをしているんだろうか。――オレ達のように。
『緑間、高尾。同じ部屋でLINEしてるの?』
『そうだけど…やっぱり変かな』
『いや、そうじゃないけど…ちょっと気になっただけ。それに、オレも赤司達と一緒の部屋でLINEやってるもんね』
『そっかー』
 高尾のスタンプは笑顔の黒猫。可愛いスタンプだな……。
「このスタンプ、光樹に似てないか? ほら、光樹は猫に似て可愛いし」
 ――あ、征十郎。よくわかんないけど、オレって可愛いのかな。赤司達はどちらも可愛いと言うより、優雅とか、エレガントとか言った言葉が似合いそうだけど。
 でも、オレも猫は好きだ。それから、2号のおかげで、今まで普通に好きだった犬のことがますます好きになった。
 幸せになるんだぞ。2号。朝日奈が勝っても、夜木が勝っても、きっといい結果になる。……朝日奈は戦いたくなくてもさ。バスケを含めたスポーツはは実践してなんぼだからさ。
 恋しい人と敵対したくないって気持ちはわかるけど、そんな対決で切れちゃうような、やわな絆じゃないだろう? お前らの絆はさ。そうだ。後で朝日奈を元気づけてやろう。
『話は戻るけどさ、朝日奈と夜木、対決した方がいいと思う。例え2号のことがなくても』
『はい。ボクもそう思っていました。二人の為にも』
 黒子も同じ意見で嬉しい。対決を通して、わかり合うって関係もあるよな。朝日奈達がいつ告白するかは……まぁ、本人達の決めることだ。それとも、赤司達が何かセッティングでもしてくれると言うのだろうか。

後書き
ロールスロイスの鍵は私も欲しいです。ショーファ付きで。私、運転出来ないもん!
赤司と赤司のキスシーンが密かに気に入っています。
2020.02.06

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