ドアを開けると赤司様がいました 104
オレ達は赤司家のショーファーの運転で、赤司家へと向かっていた。赤司は、
「気楽にしていい」
と言ってたけど――出来るかぁぁぁぁ!
何度言っても赤司家は慣れない。オレが庶民なだけかもしれないけれど。案外黒子とか、よく落ち着きそうだな、と思っていた。黒子はどこでも絵になるからな。引き立て役、と言ったら失礼だけど。
でも、どこにいても溶け込める、何を着ても様になるって、一つの才能だろう。――赤司家に着いた。太陽が沈もうとしていた。稜線に隠れようとしている夕陽――見事だ。
「行くよ。光樹」
「え? あ、はい、ただいま――」
冬の空気を堪能したいけど、オレは赤司家によばれた目的を思い出した。それは、赤司家の人々にもう一人の赤司を紹介すること――赤司の母、詩織サンにも。
赤司家には何でも揃っていると言うのは、別段赤司の誇張ではなく、詩織サンの仏壇や位牌も家の中にあるのだ。詩織サンが喜ぶかどうかは知らないが。
「――やっとただいまって言ってくれたね。オレの家に」
~~~~! ただいまって言うのはそう言う意味じゃないだろう! 俺司!
「光樹だったら大歓迎だ!」
僕司まで……。嬉しくないこともないけど。
「お帰りなさいませ。坊ちゃま」
ずらりと並んだメイドに出迎えられた。赤司が二人いることを不審がる様子すら見せない。そういう風に見せていないだけで、本当は密かに驚いているのかもしれない。二人の赤司は廊下を慣れた様子で歩いていく。……オレには真似の出来ないことだ。
それにしても、赤司家のメイド達はよく訓練されている。
「紅茶はクィーンメリーで」
「ああ」
あ、その紅茶知ってる。確か『ガラスの仮面』で姫〇亜弓が飲んでいた紅茶だ。――入手は困難になっているらしい。だが、そんな紅茶なだけあって、味も香りも申し分ない。
「征十郎」
赤司の父である征臣サンが居間に来た。
「父さん!」
二人の赤司が同時に叫んだ。
「何と……征十郎が二人!」
「聞いてください! 父様! ――ああ、それよりも、お仕事の方はどうされました?」
「キャンセルした。征十郎が帰って来ると聞いてな」
「父様……」
「征臣サン、お久しぶりです」
「ああ、久しぶり。光樹君……来てくれて嬉しいよ」
「はい。オレも……征臣サンに会えて嬉しいです」
「ところで、聞いて欲しいこととは? 征十郎が二人いることと何か関係あるのかね」
「そうなんです! 父様!」
二人の赤司はわっと征臣サンに抱き着いた。――こういう赤司達の行動を見ると、年相応……いや、年よりも幼く見える。征臣サンは俺司と僕司の両方の頭を平等に撫でてやった。
「よしよし……本来なら、この役割は詩織のものなんだがな……」
そう言いつつも、征臣サンも満更ではないらしい。よしよし、と言葉をかける。
「すみません、父様――つい甘えてしまって……」
「オレも……」
「うんうん。いくつになっても子供は子供だよ。昔厳しくした反動で、今、甘やかしているかねぇ。私は――けれど、征十郎には滅多に会えないからね。しかも二人も」
「あの……オレが二人いること、疑問に思わないんですか?」
「――子供を見間違う親なんていない。両方とも、私と詩織の間に出来た、大切な息子だ」
「はい!」
オレは、不覚にもじーんとしてしまった。――言葉が出ない。
「あ、でも、こうなってしまったきっかけについては、話を聞いてくれますか?」
「ああ……」
俺司と僕司が二人に分かれたことについては、当事者達が語った。オレが原因であるらしいことを――。
「光樹君。私の息子達を宜しく頼むよ。それから、二人の征十郎。光樹君は一人しかいないんだからね。そこのところを肝に銘じておくように」
「はいっ!」
本当にわかってんのかなぁ……。征臣サンの方を見ると、ちょっと心許なさそうな表情をしていた。息子のことだから結構わかるのかな。俺司のことも、僕司のことも――。
「済まないね。光樹君。――私は仕事に戻らねば。今も無理を言ってここに来たのだから」
「ああ……それは、まぁ……」
征臣サンには頭が下がります。やっぱ社会人て大変なんだな。というか、赤司家の人間だから大変なのかもしれないけど。
「今日はここに泊まるだろう? 光樹」
「え……」
オレは目が点になった。そこまでは考えてなかった。どうしよう……。オレは、早くアパートに帰りたかった。けれど――。
「いいだろう? 光樹」
二人の赤司にぽん、と肩を叩かれると――「はい」と答えるしかなかった……。
「こちらになります」
メイドさんが笑顔でオレ達を部屋に案内してくれた。――というか、ここは以前の客用の寝室ではなさそうな……。オレが俺司の方を何となく見やると、ヤツはこう言い放った。
「――光樹。ここはオレの部屋だ。というか、オレ達の部屋だ。今日はここに泊まってくれるね?」
「あ、オレ、他の部屋に連れてくださいって頼みます……」
俺司がオレの首根っこを掴んだ。
「逃がさないからね……」
ひ、ひえーっ! 助けてーっ!
「というか、君は征十郎と寝たことがあるじゃないか……何遠慮してるんだい」
僕司まで……ていうか、何でそのこと知ってんの?
「ふふ、天国で見てたよ……」
僕司はオレの心を読んだらしい。ぎゃーっ! お、オレのプライバシーを返せーっ!
「……オレは、光樹はオレと寝たことがあるからこそ遠慮してるんだと思うよ」
俺司の方がオレのことをわかっているようだ。まぁ、俺司はオレと暮らした時間が長かったからね……。一緒に寝たのも、オレが言い出したことだし……。
「僕司……どうでもいいけどさ……オレの心を勝手に読まないでくれ……」
「光樹、何で僕のことを『僕司』って呼ぶんだい? 僕の名前は『征一郎』だろう? キミがつけてくれた名前じゃないか」
「うん。でも、僕司の方が呼びやすいから。名付けてはみたけど、征一郎って、呼びにくいからね」
「征十郎……光樹って結構いい性格してるんじゃないか?」
僕司が俺司にそろそろと近づく。俺司は僕司を元気づけようとするかのように抱き寄せる。――二人の赤司が好きな人にとっては目の保養になるだろうな。――俺司が言った。
「まぁ、そうだね……でも、そういう光樹だからこそ、俺もキミも彼に惹かれたんんじゃないか? 確かに光樹は見た目と違って、一筋縄ではいかない手強い相手だが……」
そうかぁ? 赤司の方が手強いと思うけどなぁ……しかも、今は二人に増えてる。悪いことだとは思わない。というか、嬉しいことでもあるんだけど……。
「そうだな。僕の思い通りになりそうでならない、だからこそ、僕も光樹が好きになったんだ……光樹。キスしていいか?」
「な、何だって……?!」
俺司が眦を吊り上がる。僕司が反論した。
「僕だって赤司征十郎だぞ。キスぐらい、いいじゃないか」
「う……」
俺司が言葉に詰まったようだった。流石、もう一人の赤司。自分を説得する術には長けている。
「でも、光樹がいいと言うかどうか……」
「光樹の許しは必要ない、だって……」
僕司はオレに近づいて、唇にキスをした。
「……?!」
「光樹が扱いづらいなら扱いやすく調教するまでだよ」
オレはくらっとした。調教って……オレは動物かよ……。
「なるほど。そういう手があったか。でも、それなら……」
俺司の唇がオレの唇に触れる。そして――やたらしつこいディープキス。口内をゆっくりと舐め回す。
「光樹と暮らした年月はオレの方が長いからね」
オレはくたぁっとなっていた。やっぱり僕司より俺司の方が厄介だ……。
「じゃ、一緒に寝ようか」
「あの、俺司……オレ、ここではあまりその……そういうことは……アンタに抱かれたりとか、そういうことは……」
「そうか。光樹。……我が家では抱かれるのは嫌か。そう言うことは、我が家ではしたくないと?」
「うん、まぁ、そう……」
「征十郎。光樹は、我が家やお前を汚したくはないんだ」
「なるほど。相変わらず可愛いね。光樹……」
だから、オレの心を勝手に読むなって……僕司の馬鹿……。オレは結局、二人の赤司を侍らせて寝た。こんなの、オレの望んだことじゃないんだけどな……。いや、本当は望んでいたのかもしれないけど……。そんなことを考えているうち、オレはすっかり疲れてしまい――眠りに落ちた。
後書き
降旗クン、いつでも赤司家に行けるなんていいなぁ。
まぁ、降旗クンは気乗りしないようだけどね。
2020.01.13
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