ドアを開けると赤司様がいました 102

「やぁ」
 ――俺司が戻って来た。
「俺司……さっき僕司とバスケやらないかという話をしてたんだけど……」
「え? オレも入れてくれるのかい?」
「勿論」――と、オレは答えた。
「だったら先に言ってくれれば良かったのに……汗をかいたらまたシャワー浴びるか」
「早かったな、俺司……僕と光樹のことがそんなに気になるのかい?」
「まぁね。キミは手が早いから――」
「人のこと言えるのかい?」
 おい、自分同士で言い争うのはやめろよ。どっちも赤司征十郎なんだしさぁ――。オレが口を挟もうとした時だった。
「あ、バスケットボール。確か光樹が黒子達からもらったヤツだな。これ、使わせてもらってもいいかい? 光樹。キミのお気に入りのマイボールだろ? いつも触ってるっけね」
 ……オレの秘密は僕司には筒抜けなんだろうか――。『天帝の眼』バンバン使うって言ってたしな。僕司は。俺司はちょっと遠慮したところがあったけど。
 僕司がオレにボールを投げて寄越す。ああ、ボールの懐かしい感触と匂いだ――。
「さてと、行こうか。光樹」
 二人に連れられて、オレはコートを目指す。
「光樹はだいぶ上手くなったよ」
「知ってる。見てたから」
 僕司ったら……オレのことをどこから見てたんだろう……。
「まぁ、ベッドで抱かれる方が上手いけどね。光樹は」
 俺司まで何を言う。それにその台詞――心外だな。
「――光樹。いずれ僕にも身を委ねておくれ」
 イヤです、と言ったら鋏でも持ち出してくんのかなぁ……いや、あれは緑間のラッキーアイテムだったんだし。しかし、何をするかわからないところが、僕司の怖いところだもんな……。
 オレの中では、僕司はすっかり『鋏の人』と言うイメージで定着している。
「1on1でもやらないかい? 光樹」
 俺司が言った。オレは頷く。
「どっちとやるかい? 光樹」
「え……オレは、二人がやるところも見てみたい気がするけど」
「だ、そうだ。光樹、後で相手をしてあげるから、まずはもう一人のオレと1on1していいかい?」
「うん!」
 そう言う話だったら大歓迎だよ! 赤司同士の戦いって興味あるし。
 ――だが、相手が自分同士の為、俺司と僕司の勝負はなかなかつかなかった。仕方ないよね。彼らにはお互いの長所や弱点がわかるんだもん。俺司も遠慮なく『天帝の眼』使ってんだろうな。
 ふう、ふう、と、どちらも息を荒げる。僕司は存在が消えた後でも、バスケのことは忘れることはなかったんだろうか。――それぐらい、もう一人の自分と遜色ない戦いをしていた。
「あー、あれ、赤司じゃね? 真ちゃん」
「気のせいか二人いるようなのだよ」
 あ、この声は――高尾? そして緑間?
「あ、緑間に高尾じゃないか。久しぶり」
「え、久しぶりって――え?」
 高尾が?マークを飛ばす。――まぁ、無理ないかな。オレだって最初は驚いてテンパってたもん。けれど、緑間は全く動じていない。眼鏡のフレームをくいっと動かす。
「……もしかしてそこにいるのは――もう一人の赤司か?」
「真太郎は気が付いてくれたか」
「ああ。――その名前呼びも懐かしいな。確かにお前はもう一人の赤司なのだよ」
「……真ちゃん……ここはもう少し驚こうよ……何でもう一人の赤司が肉体持ってこの世に転生したんだよ」
「苔の一念岩をも通すってヤツだ」
 僕司が答えた。だが、高尾はこう思ったらしい。
「全然答えになってねぇって――」
「実はオレにもよくわからないんだ。オレが日常生活を営んでいたら、『光樹、光樹――』って声がして……気が付くと、オレが二人に分かれてた」
「そんなことあっていいもんなのかよ!」
 高尾が叫ぶ。オレだってそう言いたいよ。でも、前から赤司征十郎は二人いたらしいから――。赤司……いや、俺司だって、時々寂しそうにしていることがあった。明らかに僕司が消えたせいだったのなら――僕司が戻って来て、これってハッピーエンドじゃね?
「違うな。僕達にとってはハッピーエンドでも、光樹はこれから困ることになるかもしれないよ」
 僕司が、凄みのある顔でにやりと笑った。心を読まれたかな。もしかして――。
「僕達の夜の相手はしっかりしてもらうからな」
 ああ、やっぱり……。
 それはオレにとっていいことなのか、そうでないのか、わからないや……。いくら何でも赤司二人が相手じゃなぁ……。
「ところで、緑間はどうしてここにいるんだい? お前はこんなところでふらふら遊んでいるようなヤツじゃないだろう? ――高尾と違って」
 うは! 俺司も結構言うなぁ……。
「ああ、オレが我儘言ったの。真ちゃん、バレンタインデーにどっこも連れてってくれなかったんだもん」と、高尾。
「心外なのだよ」
 緑間がくいっと眼鏡のフレームに手を遣った。
「だから、今日ここに連れて来てやったのだよ。――ここは今日のラッキースポットでもあるのだよ。――『強敵に会えるかもしれない場所』だ」
 おは朝占い……ついに場所まで指定し始めたか……それにしても、緑間の言ってることはほんとかなぁ……。
「それって真ちゃんの都合じゃーん」
「お前だって、赤司や降旗に会えるかもって喜んでいたのだよ。会えたのだからそれでいいのだよ。やっぱりおは朝占いは当たるな……」
「緑間。それで、物は相談なんだが……」
 俺司が口を開いた。
「む、何だ?」
「オレ達のことは、双子の兄弟と言うことにしておいてくれ」
「――わかったのだよ」
「まぁ、確かにその方が無難かもね。……もう一人の赤司が実体を持って現れたなんて、皆どうせ信じないだろうから」
 ――高尾の言う通りだ。
「で、名前はどうするのだよ?」と、緑間。
「それをずっと考えていたんだがな――まだいい名前が浮かばないんだよ」
「早く決めた方がいいのだよ」
「――わかってる」
 オレはもう、この名前がいいってのがあるんだけど、言ってもいいかどうか……。僕司が、オレの考えた名前気に入るとは限らないし。ちょっと、自分の意見に自信がないところは直して言った方がいいのかなぁ……。
「これだ!と言う名前が見つからないんだよなぁ……」と、赤司はぶつぶつ言ってるし。
 オレが赤司に声をかけようとした時だった。
「よぉ。なんか会ったことのあるメンツが揃ってんな」
 低い声がした。――青峰!
「何だ、キミか」
「『何だ、キミか』じゃねぇ。おい、フリ。何で赤司が二人いる」
「赤司本人に訊いてくれよ……」
「そうそう。今日は時間があったから家事仕事をしていたんだ。そしたら、白い煙がもくもくと現れて――気が付いたら、もう一人のオレがいたんだ」
「なぁ、フリ。――赤司のヤツ、大丈夫か? 元々、しっかりしてそうでいて危なっかしいところのあったヤツだが。だけど、あそこにいるのはオッドアイと赤い目の赤司だ……信じるしかねぇんだろうな」
「青峰……お前に危なっかしいと言われるとはな……」
 赤司は不満そうだったが、オレは青峰の意見の通りだと思う。赤司はどこか抜けている。そう言うオレも抜けてるところは一緒かな――。
「光樹。バイトのこと、親御さんに話したかい?」
 あ、すっかり忘れてた。赤司からそれを指摘されては、世話はない。僕司がクスッと笑った。
「お前も相当抜けてるようだな。光樹。――そんなところが可愛いのだが」
 うう……返す言葉もない。それに、可愛いと言ったって、やっぱりオレは男だし――。僕司に可愛いと言われる日が来ようとは思わなかった。初対面の時はあんなに凄いオーラ放ちまくってた人間にね。
 今日は早く帰って、父ちゃんのところへ行って、バイトの話をする予定だったのだ。電話で済ませてもいいんだけど――。
 やっぱりオレ、父ちゃんと母ちゃんの顔が見たい。
「行って来い。光樹」
 僕司が言った。……何だ。僕司っていいとこあんじゃん。それだけでいい人に見えるオレは、単純なのか?
「何だよ、フリ。どっか行くとこあんのか?」
「うん、親父んとこ。バイトの話ついでに実家に帰ろうと思って」
「この近くに実家があんのか?」
「うん。……あまり胸を張れるような家じゃないんだけど……」
「そんなことないだろう? そんなことを言ったら、キミのご両親に失礼じゃないか」
「そうそう。降旗光樹を地上に授けてくれた親御さんのところだ。見たことがあるが、洋風のなかなか立派な家だったぞ。決めた。やはり僕も行こう。お前も行くだろう? 征十郎。大輝。真太郎と和成を宜しく頼む」
 勝手に話を進めないでくれ。俺司に僕司……。隣で青峰がダルそうな顔をしていた。

後書き
高尾クンと緑間クン。そして、青峰クン。
ダルそうな顔をする青峰クン……気持ちわかりますわ……。
2020.01.05

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