ドアを開けると赤司様がいました 1

 オレ、降旗光樹。十八歳。今年から大学生になります!
 そして、何と――
 念願の一人暮らしをすることになります! くうっ! やったぜ!
 オレはガッツポーズをする。お父さん、お母さん、ありがとう。
 さあてと、オレの新しい城はどんなかなぁ……。
 オレがドアを開けると――。
「やぁ、降旗」
 あ、赤司? しまった! 部屋間違えた! ――オレはドアを閉めた。
 って、うえええええええ?!
 オレは部屋の番号を確かめた。203号室。うん。合ってる。
「どうしたんだい。降旗。早く上がって来いよ」
 赤司が十年の知己のように話しかける。何で赤司が?
「ここ、オレの家なんだけど――」
「あれ、キミのお母さんから聞いてないのかい? オレ、キミと暮らすことになったんだよ」
 えー? 聞いてねぇ!
 あれ、でも……。
 お袋からそんな話聞いたことがあったようななかったような……いつもの小言と聞き流してたんだけど……。
「という訳で、宜しくね」
 宜しくっーか、何故そんなに馴染んでんの赤司。三角巾なんかつけちゃって。それにもしかして……飯作ってた?
 オレのお腹がぐ~っと鳴った。赤司が微笑んだ。
「まずはご飯だね。降旗」

「食べないのかい?」
 赤司が言う。赤司も食ってないのに……。
「い、いただくっス」
 なんか食わないと申し訳ないような気がして……。赤司は相変わらず微笑んでいる。
 つか、もう赤司の荷物が運び込まれている。オレの城どうなった。
 目の前には卵の匂いのぷんぷんするオムライス。ケチャップライスに卵がふわっとのっかっている。旨そう――。
「いただきます」
 手を合わせて食べると、本当に旨い。カントクだった相田サンの料理なんかより全然旨い。と言うとカントクに怒られそうだけど。
「美味しそうに食べるね。嬉しいよ」
 本当に嬉しそうに赤司は言う。こんな赤司、見たことない。
「ええ、旨いっス。――店でも開けるんじゃないっスか?」
「考えてみたこともあったけどねぇ……やっぱりオレにはバスケが向いているから」
「オレも大学ではバスケ部入ろうと思っています」
 もぐもぐ口を動かしながら言ったので、発音が不明瞭になった。赤司が「焦らないで」と助言をくれる。
「オレと降旗の大学は別だけど、ここで毎日会えるよね」
 赤司は一流大学。オレは三流大学。はなっからレベルが違う、というものだ。
 けれど、それを言わなかった――というか、言えなかったのは赤司のオレを見つめる目があんまり優しいから……。
 というか……。
「あの~、荷物とかちゃんと整ってるんスけど……」
「ああ。キミの驚いた顔が見たくて、前もって運んでおいたよ。まだないのもあるけどね。――テレビとかは後で一緒に買おう」
 あー、驚いたよ。驚きましたよ。
 このアパート、そんなにボロじゃないけど、赤司だったらもっと立派なマンションで暮らせたんじゃないかなぁ……。
 ――オレがそう言うと、赤司は、
「ここで降旗と暮らしてみたくてね」
 と答えた。ルームシェアをしたいということかな。でも、赤司とオレってそんなに親しくなかった気が……。
「オレ、友達と言ったらキセキや黒子ぐらいしかいなくてね。……降旗ともこれを機に友達になれると嬉しいよ」
「あ……うん……」
 オレは赤司が差し出した手を握った。

 ちょっと買い忘れたものを買ってきて帰ってきたら、赤司は鍋の前に座っていた。
「お帰り」
 あんまり自然に言うもんだから、こっちもつい、「ただいま」と言ってしまった。
「今日は湯豆腐だよ。オレ、湯豆腐が大好きなんだ」
「あ、オレも湯豆腐好きっス」
「ほんと? 良かった。勝手な真似して、って怒られないかと思った」
 もう勝手なことしてるけどね。オムライスの件で――後、荷物勝手に運び込まれたりとか……でも、怒る気にはなれなかった。
 赤司がほんとに嬉しそうだったから――。
「オレ、もうすぐ入学式なんだよね」
「オレもだよ」
 ふーふー言いながら湯豆腐を食べる。というか、これ、湯豆腐? なんかすっげぇ旨いんだけど――。
「あ、あのさ、赤司……この湯豆腐……」
「何? 不味かった?」
「いや、すっげぇ旨いんだけど――オレ、何でここで赤司の作った湯豆腐食ってんのかな……」
「オレがそう望んだからだよ……」
 そう言った赤司の赤い目がきらり。
「食べたら食器はオレが洗うよ」
「いいのかい?」
「うん。てか、赤司は美味しい湯豆腐作ってくれたし、もうそれで充分だよ」
「そっか。優しいな降旗。――光樹でいいかい?」
「ああ。好きなように呼んでくれて構わないぜ」
 オレも随分赤司に気を許すようになっていた。オムライスと湯豆腐のおかげだろうか。
 ――あ、そういやカーテン……。
「カーテンもつけてくれたんだ……」
「降旗の好みを考慮して選んだものだけど……気に入らないかい? だったら変えるけど――」
「いや、これでいいよ」
 でも、赤司はどこでオレの好みを知ったのだろう――。
「オレはキミのお母さんとは仲良しでね」
 ん? 今、心を読まれた?
「赤司、今――」
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。光樹のお母さんとはすぐに仲良くなったよ」
「???」
 ちょっと引っかかるところはあるけど、ルームシェアをして赤司ぐらい頼りになる仲間はいなかった。
 料理は上手いししっかりしてるし――。
 赤司の作った湯豆腐、これからは毎日でも食べたいくらい――。
「ご馳走様。赤司、ありがとう」
「嫌だなぁ。征十郎でいいって」
「でも、征十郎って呼びにくいから――」
「……じゃあ、今まで通り赤司でいい。征、でもいい。実渕とかは征ちゃんとか呼んでいたけれど」
 実渕――昔対戦した洛山の選手か。確かオネエだったな……日向サンが嫌がってたっけ。まぁ、日向サンは常識人だから。
 オレは穏当に今まで通り赤司と呼ぶことにした。
「あ、そうだ。お風呂どうする? 一緒に入る? あ、でも狭いよな……」
「光樹が先に入るといい」
「でも、赤司だってこの部屋の住人だからなぁ……じゃんけんで決めよう」
「いいね。恨みっこなしだ。でも、オレは黒子やキミ達以外には負けたことないんだよ」
 ――じゃんけんは赤司が勝った。まぁ、わかってはいたことだけど。オレでは赤司にはどんなに逆立ちしても敵わない。
「なるべく綺麗に使うからね」
 そう言い置いて赤司がバスルームへ入る。赤司っていい匂いするし、汚くするなんてことはしないと思うけどなぁ――。
 それにしても今日はなんか疲れた。オレは赤司が風呂から上がるまで待っているうちに眠くなり、そこら辺に寝転がって熟睡した。


後書き
降旗クンと赤司様の同居生活です。
ドアを開けたら赤司様がいたら……びっくりするシチュエーションですよね。
2019.04.19

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