タイバニ小説『わたし、クリーム』
わたし、クリーム。ジェイク・マルチネス様の恋人です。
ジェイク様は、いい男で、私には――ずっと私だけには優しかった……死んでしまったけど。
でも、本当に優しかったの。私には。
ウロボロスという組織に所属してたけど、わたしにはそんなことどうでも良かった。
わたしは――ジェイク様だけ見てたから。
二十数年前の、初めて出会ったあの日から――。
もちろん、警戒しなかったとは言わない。
けれど、彼が私を拾ってくれた。誰からも見離されたわたしを――。
こんなことがあった。
「クリーム……アイスクリームどうだい?」
「――いただきます」
ジェイク様はミントチョコとバニラの二段重ねのアイスクリームをなめながら、
「冷たいクリーム……おまえにぴったりだな」
と、ジョークを言った。その場が和んだ。
その時、私達は本当の恋人同士になった――と思う。
ジェイク様――。
愛しています。
愛しています。
それなのに、どうしてタイガ―やバーナビーに殺されたりしたんでしょう。
ジェイク様は強いはずなのに! 無敵のはずなのに!
バーナビーなんてスカした男より何千倍もかっこいいのに。
あなたのいない世界なんてわたしには色のない世界と同じ。
だから――わたしはバーナビーに復讐するの。
わたし? わたしはジェイク様のところへ行くわ。
ジェイク様のいない世界に生きていても仕様がないし。
バーナビーに言うの。『あなたを殺した犯人はジェイク様ではない』と。
これは絶対に言わなくてはならない。ジェイク様の名誉の為にも。
だって、その時ジェイク様はわたしと会っていたんですもの。
そう言ってやったら、バーナビーはどう思うかしら?
また復讐の色に世界が染め上げられるのではないかしら。
だってあの男は――両親を殺したのはジェイク様だと信じているのだから。
両親を殺されたのは気の毒かもしれないけど、私だって可哀想。NEXTなんかに生まれついたせいで遠巻きに悪口言われていたのだから。
当時はNEXTは差別の対象だった。気味が悪いと思われ続けていた。ヒーローなんて勿論いなかった。レジェンドなんて太った男がせいぜいで。
だから――ジェイク様と会った時、これは同類の方だと思ったの。
やっと仲間を見つけた。その喜びと共に、わたしは恋に落ちた。
ピンクやら何やらで染められた髪もいかしていた。
ジェイク様、あの男に真相を話したら、わたしはあなたのところへ行きます。
わたしの席はいつだってあなたの隣――そうでしょう?
ああ、ジェイク様――愛し合った日々が懐かしい。
あの世でも恋人同士になりましょうね。
そう言ったら、ジェイク様がもしそれを聞いているなら、
「おまえ、よっぽど俺に惚れたんだな」
と、ちょっとセクシーに、人の悪い笑顔を見せることでしょう。
善人なんてまっぴらよ。わたしは悪人の方が好き。
ジェイク様はまごうかたなき悪人だった。
そうよ。わたしはジェイク様のやることだったら、何だって許すわ。たとえ殺しでも。
どうして本当にバーナビーの両親を殺さなかったのか、残念に思うくらいよ。
見てらっしゃい。バーナビー・ブルックス・Jr。そしてワイルドタイガ―。
わたしは真実を果たすことで復讐を遂げるのよ。
そして――死んだ後、ジェイク様に報告し、喜んでもらうのよ。――よくやったな、クリーム、って。
あのセクシーな声で……。
バーナビーとワイルドタイガ―はこっちに向かっているはず。
期待に胸ふくらませたわたしは、ジェイク様の敵がやってくるのを今や遅しと待ち受けていた。
バーナビーが来た。わたしは話した。
ジェイク様と会った日のことを――バーナビーの両親が殺された時、わたしはジェイク様といたことを。
犯人はわたしは知らない。でも、ジェイク様でないことだけは確か。
ジェイク様には悪の匂いがあるわ。やってても不思議ではない。だからこそ、彼を愛した。でも、バーナビーの両親達を殺したのはジェイク様ではない。
バーナビーに全てを話す。これが、わたしの最後の復讐。
ヒーローに対する、最も効き目ある復讐。
誰が犯人だったかなんてどうだっていい。そんなことはあいつらが勝手に探ることだわ。
わたしにはジェイク様さえいればいい。
ジェイク様もあの世でわたしを待っていてくれるでしょう。
そしたら、アイスクリームを一緒に食べましょうね。ホットファッジ・サンデーも食べましょうね。
わたし達、あの世で幸せになりましょうね。
いつだってわたし達は最高のタッグじゃありませんでしたか。
「神様なんてクソ食らえだ」
よくあなたはそうおっしゃっていた。
そうよね。わたしもそう思う。神がいるなら、何故悪の存在があるのでしょう。
それを必要としている人がいるから。ジェイク様やわたしのように。
わたしからすれば、バーナビーの方こそ悪玉だわ。
悪や善なんて絶対的ではないもの。勝者は勝手な理由をつける。
あんな人達がのうのうと生きているなんて――しかも、ヒーローと賞賛されながら――バチが当たるわ。
ジェイク様はわたしの親代わりで、恋人だったのよ。
バーナビーはこの手で殺したかったけど、そうしてやりたいのは山々だけど、最も効果的な方法でやらなくてはね。復讐は。
そう、わたしの知っている真実は効くわ。どす黒い毒をしたたらせて。
バーナビーの知らなかった事実こそ、わたしの持っているジョーカー。
あなたは永遠にないものを探してもがき苦しむがいいわ。もしかしてまたウロボロスにたどりつけるかも知れないわね。
ウロボロスなんて、わたしにはどうだっていいのだけれど。
バーナビー、あの男にとっては重要なものでしょうね。
わたしは心の中でほくそ笑む。
ああ、ジェイク様。わたしはやります。
きっとこの罰で地獄へ落ちるのでしょうね、私も。ジェイク様と同じように。
でも、神様なんて――ジェイク様のお言葉を借りればクソ食らえ、よ。
バーナビーとワイルドタイガーが入ってきた。どうでもいいけど、ワイルドタイガ―のあのアイパッチはダサいわね。
わたしはわたしの知っているあの日のことを話した。ジェイク様と一緒にいたあの日のことを。
バーナビーの顔はみるみる苦渋に満ちたものになっていった。そう、もっと苦しめ。もっと悲しめ。
そして、ジェイク様の痛みを知るがいい。
ジェイク様にアリバイがあると知ったら、あの男、また犯人探しをするに違いないわ。
その時は――どうか、意外な人物が犯人でありますように。バーナビーが大切にしている人が犯行をおかしたのでありますように。
それがわたしの願い。
本当はタイガーが一番理想的なんだけど、計算が合わないし、第一あんなふやけた男に人殺しなどできるはずない。
タイガーはジェイク様をはめたのよ。謀ったのよ。本当は彼も許せない。
こんなヤツら、地獄へ落ちればいいと思う。いいえ。地獄でさえヤツらには勿体なさすぎるわ。
わたしとジェイク様が地獄に行くのだもの。あの世でまでヤツらと顔を合わせるのは嫌だわ。
バーナビーは、予想通り――いえ、予想よりも期待に満ちた表情を見せてくれたわ。
だから、今度はわたしが死ぬだけ――。
「クリーム!」
バーナビーの声に重なるように――
「クリーム……」
ジェイク様の優しさに満ちた声が降って来た。
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