THE☆コミケ2

「やはりジョーカーはいいですよね」
「ローデリヒさんは受だと思うの」
「攻はどなたですか?」
「んー、フランシスとか? でもあいつセクハラするからやだわ」
「ギルベルトさんでもいいのでは」
「ネタとしてはいいんだけどねぇ……あいつに渡すくらいなら、私が男になってローデリヒさんを襲うわ」
 菊とエリザベータが腐な会話をしている。
「なぁ、フェリシアーノ……あいつらが何を話しているんだか、さっぱりわからないんだが」
 ルートヴィヒが言った。この人は、まぁ、ノーマルな方である。
 普通はあの二人の会話の意味など、わかるはずもない。
「ヴェー……俺もだよ。でも、菊やエリザベータさんが楽しそうなら、それでいいじゃん」
「本当にそれでいいのか? おまえ……」
「あ、ルートヴィヒさん。今度イベントがあるから、行きませんか?」
 菊が誘ってきた。
「イベントって……行事か何かか?」
「嫌ですねぇ。コミケですよ」
 コミケは、ルートヴィヒも行ったことがある。人いきれでむんむんとして、閉口した覚えがある。
「俺は……結構だ」
「いいんですか? そんなこと言って」
 菊がにたりと笑う。
「今回は新刊持って行きますよ」
 エリザベータがにこっと微笑む。
「……行く」
 あの女の子(ローデリヒだが)の本を買えるのなら、どんな困難も何のその。
 その状態を『萌えている』というのだろうが、ルートヴィヒはその単語も意味も知らない。
「フェリちゃんも行くわよね」
「ヴェー、うん」
 フェリシアーノは、前に行ったのが楽しかったから、まぁ、いいや、と思って返事をした。

 コミケ当日――
「エリザベータさん」
 菊が、逞しくて、朴訥そうな青年と一緒に来た。二人の背景には、水仙の花でも咲いていそうである。何か、ただごとではない雰囲気を醸し出している。
「あ、菊さん。……て、きゃー。そのいい男どなた?」
「ヘラクレスさんです。その……」
「――俺、菊の恋人」
「恋人ですって?! きゃー! グッジョブ菊さん!」
 エリザベータは興奮している。
 菊とエリザベータのサークル参加日は、ずれていた。そこで、菊も恋人とエリザベータの元に来ることができたというわけである。
「あー、俺達を忘れていないか?」
 ルートヴィヒが咳払いをした。
「ヴェー……」
「ルートヴィヒさんにフェリちゃん、こんにちは」
「こんにちはー」
 フェリシアーノは、へらへらとしている。
「ところで、新刊は……」
「あ、忘れてた」
 エリザベータはてへっとお茶目に舌を出した。
「もう完売よー」
「か、完売とは?」
「売り切れってこと」
「そ、そんな……」
 ルートヴィヒは、少なからずショックを受けたようであった。エリザベータはニヨ二ヨし出した。
「ルートヴィヒさんのは、ちゃんととってありますよ」
「ほ、本当か?」
 ルートヴィヒは、衝撃から覚めたようであった。いつも通りの、少しいかめしい表情が戻ってきた。
「はい。千円になります」
「は、払おう」
 ルートヴィヒがエリザベータにお金を渡すと、売り子もしているこの女性は、
「ありがとうございまーす」
 と、営業スマイルで言った。
(うふふ。ルートさんたら、あの本何に使うつもりなのかしら。次回の新刊はルート×ローデで決まりね。早速菊にも連絡しなくっちゃあ……)
 などと、裏ではそんなことを考えていた。
 エリザベータ、昔はあんなに男らしかったのに、今ではすっかり腐女子である。
 どちらが好みか。意見の分かれるところであろう。
 菊の影響であろうか。エリザベータが同人界を知った時、「これこそ私の求めていた世界!」と言ったとか言わなかったとか。
「おまえら、ここで何してんだよ」
 聞き慣れた声。でも、まさか……!
 確かに知った顔ではあるが、こんなところで出くわすとは思わなかった人物。
 それは、アーサーであった。アルフレッドも一緒にいる。
「何って……本売ってるんですけど」
 エリザベータは動じない。
「アーサーさん。アルフレッドさんもご一緒ですか」
 菊の言葉に、
「ああ、こいつが行きたい行きたいってうるせぇからよ」
 アーサーはアルフレッドを指差した。
「だって、OTAKUがたくさん集まっている聖地なんだぞ。一度行ってみたかったんだぞ」
 アルフレッドは興奮している。
「とってもエキサイティングなんだぞ!」
「ヴェー……アーサー、アル、久しぶり」
「おお。フェリシアーノ、元気か?」
「元気だよー」
 フェリシアーノは、ほわほわと答える。
「ジェラードの食べ過ぎで、お腹壊すんじゃないんだぞ」
「おまえがそれ言うか」
 アーサーが、アルフレッドの頭にチョップした。
「でも、二人で来られるなんて、仲いいんですね」
 エリザベータの台詞に他意はなかったが。
「同じ部屋に泊まったから、どうせだから同伴しようなんて、誘われたわけではないぞ」
 アーサーは早口でまくしたてる。
 それを語るに落ちると人は言う。
「じゃ、俺達、あっちの方行くから。後でまた」
 アーサーとアルフレッドは向こうの方に消えてしまった。
「ねぇ、見た? 菊さん」
「ええ。見ました」
「アーサーさんの歩き方、変だったわよねぇ」
「昨日はお熱かったんでしょうか」
 エリザベータと菊は、ひそひそと語り合う。
「で? 菊さんは、ヘラクレスさんとはどうだったの?」
 まさかこっちに矛先が来るとは思わなかった菊だが、
「御想像にお任せしますよ」
 と、謎めいた言い方をした。
「菊……」
 菊と仲良さそうな女の子(腐女子だが)を見て、ヘラクレスは彼女に対して少し焼きもちを焼いたようである。でも、それも恋の醍醐味。
「俺達、すっかり忘れられてるな」
 ルートヴィヒが溜息をついた。
「ヴェー……仕方ないよ。それにしても、コミケって、みんな楽しそうでいいね」
 フェリシアーノが、幸せそうな顔を向けた。
「ああ、まぁな」
「また来たいね」
「菊が誘ってくれるだろ」
「ルートも、本を買えて満足そうだし」
「なっ……こ、これは……絵画の本とか買うのと、同じ感覚なのだからな」
 ルートヴィヒの言い訳には少し無理があるが、フェリシアーノは、「ヴェー……そうなのか」と納得した。
 その後、コミケに来たメンバーは、酒場で打ち上げをして楽しんだとか。

うふふふ~。描いてて楽しかった~。
フランシスとかアントーニョとかギルベルトとかも出したかったなぁ。
ベラは、「兄さんと私の本はどこ?!」とかって探し回っていそうだなぁ。
イベントに最後に行ったのは、二年前だから、いろいろ変わったところもあるかもしれませんね。
2010.5.16

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