THE☆コミケ

「今日はいっぱい人が来たわね~」
 ほくほく顔の売り子のハンガリー。人気があるサークルなので、もう品薄だ。
 並べた商品はオーストリアの女装アルバム、CD、DVD。
 写真も引き伸ばして、飾ってみた。
「あ、あれはドイツさん!」
 ドイツは、イタリアと日本に連れられてここに来たのだ。
 イタリアはヴェーヴェー言いながら嬉しそうだ。日本は、涼しげな和服を着ていて、それがとても良く似合う。
「あー、暑い」
 ドイツがハンカチで汗を拭う。
「楽しい? ドイツ」
 イタリアがドイツの顔を覗き込む。
「あー、楽しい楽しい」
 ドイツは半ば投げやりだ。
「俺ね、ずーっとコミケ、と言うのに行ってみたかったんだ」
「ええ。しかし、よくご存知でしたね。コミケのことなんて。確かに日本が誇る文化のひとつですが」
「日本、いつも話してくれてたじゃない。テレビでもやってたしさ」
「イタリア君は楽しくて結構ですが、ドイツさんが疲れているようですよ」
「えー? そんなことないよね、ドイツ」
「う……いや、まぁ……」
 心の底からエンジョイしているイタリアに、ドイツも逆らえない。
「あ、オレと同じ格好してる人がいる。わ、日本にドイツもいるよー」
「ああ。あれはコスプレですね」
 日本の言葉に、イタリアは、コスプレイヤーに手を振る。
 枢軸の服を着た女の子達は、「きゃー!」と黄色い声を上げる。
「今の見た?」
「見た見た」
「枢軸のキャラ達にそっくりー!」
 彼女らは、それが本物であることを知らない。
「お、ハンガリーさんだ」
「うふふ。こんにちは。イタリアさん」
「君もここに来ていたんだー」
「もちろん。私なんてもう常連よ。ね、日本さん」
「え、ええ……」
 ちょっと赤くなりながら、日本がハンガリーに答える。
「ドイツ―、見て見てー! 可愛い女の子がいっぱいだよー」
「わかったわか……」
 そこで、ドイツの言葉が途切れた。
 目に飛び込んで来たのは、清純そうで高貴な顔立ちの女性。
 ハートにズキューン!(古ッ!)
「いくらだ……?」
「どうしました? ドイツさん」
 ハンガリーが、普段と違う迫力満点のドイツにも動じずに、ニコニコしている。或いは二ヨニヨか。
「この商品、全種類一つずつでいくらだー!」
「一万円になります」
「早くしろよー」
 後ろからせっつかれ、ドイツは「すまん」と謝った。
「ほら、一万円」
「ありがとうございまーす」
「ドイツさん……私もそれ持っているから、貸しましょうか?」
「いや、いいんだ」
 もう、日本さんたら余計なことを……とハンガリーは心の中で思った。
 しかし、ドイツは、自分で買うと言っている。
 もしかして、専用のが欲しいのかしら。何に使うのかしら……とハンガリーはまた二ヨニヨ。
「ドイツ―。後で、俺にも見せてね」
「あ、ああ……」
 ドイツは熟れたトマトみたいな顔をしている。
(あ~あ、ドイツさんたら、女装したオーストリアさんに一目惚れかしら)
 もしかしたらオーストリアとも気付いていないのかもしれない。
 ハンガリーはあれこれ想像しながら、にっこり笑い、「本日は完売しました~」と、行列に並んでいたお客様達には非情な台詞を言い放った。

 その後――日本とイタリアはドイツの家に遊びに来た。
「くっそう……こんなときにコンピューターが動かないなんて」
「わーい。この紐パスタに似てるね~」
「遊ぶんじゃない! イタリア!」
「私が直しましょうか?」
「いいや、ここはゲルマン魂にかけて、俺が直す!」
「生兵法は怪我の元ですよ……ドイツさん」
「わー、日本て、難しい言葉知ってるんだねー」
「我が国の諺にあるのですよ。ドイツさん、もし、もっと早く見たいのであれば、私のノートパソコンででも……」
「自分のパソコンで見ることができなければ意味がない!」
「妙なところで意地っ張りなんですねぇ……」
 日本は溜息を吐いた。
「おー。この着物姿、綺麗だねぇー」
 イタリアがアルバムを見ながら歓声を上げた。
「ああ、最新の作品ですね。私でも持ってませんよ」
 日本も加わる。
「が……我慢だ、我慢……」
「うっわー! このポーズ! どうやって撮ったんだろ! すごいねー! モデルさんも」
 イタリアが感に堪えたように大声で叫ぶと、
「う……」
 ドイツの中で、何かがぷつんと切れた。
「イタリア、俺にも見せろ!」
「え? ドイツ、パソコン直してんじゃなかったの?」
「細かいことはいい。それを見終わってからだ」
 ドイツも会話に混じって、ああだこうだと感想を述べる。
「む……恥じらいの中にも華がある……この照明は、被写体の魅力を最大限に引き出しているな……これを撮ったカメラマンは誰だ?」
「ハンガリーさんみたいだよー」
「よし。我が国でも機会があったら、彼女に撮影をお願いするか……だが、決して淫らな本を作るんじゃないからな」
「わかってるよー」
「と言うか、ドイツさん、語るに落ちてますよ……」
 日本が冷静にツッコむ。
「まぁ、それはあれだ」
 ドイツがゴホンと咳きこんだ。
「お腹も空いてきたから、ヴルストでも食うか?」
「わーい。ドイツの手料理大好きー」
「私もお相伴させてもらって構わないのですか?」
 日本が控えめに言う。
「当然だ。おまえ達は大切な……」
 仲間だからな……と口にしかけて、
「客人だからな」
 と、言い直した。
 日本はくすっと笑った。
「わーい。俺達、いい友達だよねー」
 イタリアが、連れてきた猫を抱いてはしゃいでいる。
「ええ、本当に」
「――まぁな」
 日本とドイツが答える。今度はドイツも素直になったようだ。
「俺達、ずーっと友達だよね」
 何があっても、友達だよね。
 イタリアの言葉に、ドイツと日本が頷いた。

コミケの話だったのに、いつの間にか友情ものと化してしまいました(笑)。
ハンガリーは、次の作品の制作にいそしんでいることでしょう。
ドイツは、絶対オーストリアさんみたいな美人も好きだと思います。
2009.8.16

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