クリスマス・ボックス
☆人名でお送りいたします。

「さーて、今日こそ屋根裏の掃除をするぞー!」
 アルフレッドは張り切っている。
「この間はさっぱり進まなくて散々だったからなー。お?」
 色を塗られた絵が蓋についている、オルゴールボックスがあった。それはなかなか綺麗なものだった。
「――クリスマス・ボックスか……」
 アルフレッドは溜息を吐いた。
 確か、これもアーサーにもらったんだよな。
「これも捨てるか。おあっ?!」
 うっかり取り落としてしまった。
 鍵がかかってなかったらしく、セピア色の紙切れが中から出てきた。
「――なんだろ」
 アルフレッドがそれを拾う。
 それは、一枚の手紙だった。広げてみる。
 書き出しは、『アーサーへ』で始まっていた。
 それは、お世辞にも上手な字とは言えなかった。――今もそんなに上達はしていないが。
 幼さの残るこの筆跡には見覚えがあった。
「これは――俺のだ」

『アーサーへ

 おひさしぶりです。元気ですか?
 ぼくは元気。だけど、このごろアーサーがいなくて、さびしいよ。
 イギリスは遠いね。アーサー。
 この間、ちょっと悲しそうな顔をしていたね。
 それをみて、ぼくも泣きそうになったよ。
 どうしてなの?
 大人でも、悲しいことってあるの?
 ぼくも、早く大人になりたいな。
 そして、アーサーにえがおを送るんだ。
 大きくなるために、好ききらいもなくすし、牛乳もちゃんとのむよ。
 あまりおいしくないスコーンだって、ちゃんと食べてあげるんだ。
 だって、アーサーの作ったものだもん。
 アーサーをよろこばせてあげたい。
 アーサーを、守ってやりたい。
 ぼくはヒーローになりたい。
 だれにも負けないような。
 君のために。
 君の幸せは、ぼくのしあわせ。
 また会いにきてね。

 キスキスキスキス
 永遠に君の弟 アルフレッド・ジョーンズ』

「な……何だよッ! この恥ずかしい手紙はッ!」
 我ながらなんというものを書いたんだ。
 きっと、昔の自分もそう思ったから、この箱に入れたままにしたんだ。
(永遠に君の弟――永遠に――)
 アルフレッドの思考回路はぐるぐるになった。
「……捨てよ」
 先程のやる気がなくなってしまったアルフレッドは、埃っぽい、古いソファーに寝転んだ。――今、鍵をかけたばかりのクリスマス・ボックスを抱いて。
 裏切ったのは自分かもしれない。人の心とは、なんと移り変わりの激しいものだろう。国である自分でさえそうだ。当時は、ずっと変わることなくアーサーの弟でいられると信じていた。
 そう、昔は大好きだった。アーサーのことを。
 今は、嫌い。
(嫌いで、嫌いで、嫌いだから――愛してる)
 アルフレッドは、そのまま寝込んでしまった。

 夢を見た。
 アルフレッドは子供に戻っていた。アーサーがやけに大きい。彼は、アルフレッドに微笑みかけた。
 彼らは手を繋いでいた。
 ふと視線を横に向ける。
 二人のいるところは崖の上で、眼下には荒野が広がっていた。
 どこまでもどこまでも、広がっていた。
 アルフレッドは、アーサーと一緒に、それをずっとずっといつまでも眺めていた。

後書き
クリスマス・ボックスと言う映画は実際にあります。それを参考にして今回の話を作りました。
ちょっと季節外れだったかもしれませんが。
手紙は、いつ頃書いたものなんでしょうかねぇ……ちょっとおかしいかもしれませんが、子供の書いたもの故、ということにしておいてください(笑)。
子メリカの「永遠に君の弟」というフレーズが書きたかっただけだったのかも。
読んでくださった方々、ありがとうございます。
2010.1.15


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