俺は君のヒーローさ!

「いつ見てもすごいねー。日本の家は」
 アメリカが感心している。
 今日、アメリカとイギリスは、日本の家に遊びに来ていた。
「そうでしょうか。古いだけですが」
 日本は、慎ましやかに、しかし、ちょっと嬉しそうに頬を染めながら言った。
「そうだなぁ。手入れも行き届いているし。だから、長い間持っているんだろうな」
「イギリスさんまで……やめてくださいよ」
 日本は、照れているようだった。
「あー。あそこに菊が二本ある。『にほんだきく』」
 アメリカが、菊の花が活けてある花瓶を指差した。
「え?」
 イギリスが首を傾げると、アメリカは続けた。
「ほら、菊が二本だろ。『二本だ、菊』と言ったんだ。更に、『日本だ、菊』ともかけていて……」
「はぁ……そこまで考えていませんでしたが……」
 と、日本が言う。
「そして、日本の人名は『本田菊』だろ? 『に、本田菊』とも……」
「おいおーい。結局ダジャレかよ。すまんね、日本。アメリカが下らないことを……」
「いえ。結構面白いです。でも、そこまでアメリカさんは、日本語に詳しくなられて」
「だって、日本との付き合いも長いもん」
「軽い脳味噌の持ち主でも、日本語覚えることができるんだな」
「違いますよ、イギリスさん。アメリカさんの頭の中には、脳味噌の代わりに、巨大ハンバーガーが詰まっているのですよ」
 日本はフフフ……と笑った。
「おー。巨大ハンバーガー、いいね」
「馬鹿かおまえ」
 日本流の皮肉に決まっているだろ、とイギリスは心の中でツッコんだ。
「夢がないなぁ、イギリスは。ほら、日本の有名なアニメソングにも『あたまからっぽのほうが~ゆめつめこめる~♪』とあるじゃないか」
 巨大ハンバーガーが詰まっているのではなかったのか。
「じゃ、日本。俺ら、夕方になったら帰るから」
「はい。それまでゆっくりして行ってください」

 秋の日はつるべ落とし。
 あっという間に暗くなった。
 ネオンサインがちかちか光っている。
「日本も賑やかになったねー」
「そうだな」
 イギリスとアメリカは並んで歩いている。アメリカの方が、イギリスより少し背が高い。
「アメリカ……日本は好きか?」
「日本? 菊のこと?」
「ああ……」
「好きだよ。俺達に気を使ってくれるし、何より、誰かさんみたいに乱暴者じゃないしね」
「誰かさんとは、誰のことだ!」
「自分でもわかってるんじゃないのかい?」
「なんだと! このー!」
 イギリスが拳をふるって、アメリカを追いかける。アメリカは、楽しそうに逃げ回る。
「どうせ……どうせ、俺のことなんか嫌いなんだろ! おまえは!」
 イギリスの言葉に、アメリカはきょとんとした。
「なんだよー。そんなこと言ってないだろ」
「……まぁいいさ。俺だっておまえのことが嫌い……」
「アーサー!」
 アメリカがイギリスの目の前に立つ。街の光がきらきら輝いて、アメリカを照らしている。

「アーサー・カークランド。俺は君が大好きだ」

 アメリカの突然の告白に、イギリスは目を丸くした。
「だって、おまえ、菊が好きだって……」
「菊よりも、好きだよ」
 アメリカは、イギリスを抱きしめた。
「アーサー……俺は君のヒーローになりたい」
「アメリカ……」
「君は、俺のことが嫌いなのかい?」
 そんなわけないじゃないか――溜息と共に、イギリスは心の中で呟いた。
 おまえが小さい頃から。
 おまえが独立した時も。
 今だっておまえを――

 好きだった――。

「おまえはすでに俺のヒーローだぜ」
「え? 何? 聞こえなーい」
「うっせぇ! おまえは世界一のバカだと言ったんだ!」
「HAHAHA! またいつもの君に戻ったね!」
「うるせぇ! 馬鹿! ハンバーガー馬鹿!」
「ハンバーガー馬鹿? ――そう言えば、お腹空いたな」
「いつまでもこうしてるわけにはいかないだろう。どっかの店で何か食べるか?」
「賛成。ハンバーガー食べよ」
 アメリカが、イギリスから離れた。
 アメリカのぬくもりが、まだ体に残っている。
(ガキのくせに……いっちょまえのこと抜かしやがって)
「イギリスー。ここ、イギリスのおごりね」
「なっ……っ?! なんてケチくさいんだ、おまえは」
「だぁってぇ。俺、少しの間だけど君の弟でいた時もあったわけだしぃ?」
 アメリカが、指を銜えてイギリスの顔を覗き込む。そうされると、イギリスは弱い。
「気色悪ぃなぁ、ったく……わぁったよ。その代わり、今夜はつきあえ」
 内心のドキドキを隠しながら、イギリスが言った。
「やだ。イギリス酒癖悪いもん」
「この野郎……」
「それより、街巡りしようよ。トーキョーって、面白いんだよ」
「――不夜城って言われてるもんな。俺もこの間来た時と、どう変わってるか見てみたいな」
「ようし! そうと決まったら、腹ごしらえしようぜ!」 
 アメリカの元気良さに、つられてイギリスも和やかな顔になる。
 とんでもないヤツだけど、若さだけが取り柄のヤツだけど。
 そんなおまえが好きだった。そして、これからも。

(さっきの台詞、本当は聞こえてたよ……イギリス……いや、アーサー)
 胸の中でひっそりと甦る、アメリカの想い。
 俺はイギリスのヒーロー。
 百年経っても、千年経っても。
 たとえイギリスとアメリカと言う国がなくなっても。

 俺は君のヒーローさ!

後書き
風魔の杏里さんの米英話に触発されて、拙いながらも筆を取って……もとい、パソコンを打って、米英書いてみました。
『にほんだきく』は、夢の中で出てきたダジャレでした。
アメリカは、夜遊びで徹夜しても何ともないと思います(笑)。
イギリスはアメリカのお守り大変ですね。
アメリカには、イギリスを好きでいてもらいたいものです。
2009.9.22


BACK/HOME