タイバニ小説『バニ―と虎徹の物語

「虎徹さん、コーヒーください」
「自分で取れよ」
「…………」
「わかったよ。ほら」
「虎徹さん」
「今度は何だよ――バニ―」
「愛してます」
「ぶっ! うわっ! 俺のコーヒー! 思わず噴いちまったよ! 冗談だろ? なぁ」
「本気です」
「でも――そのぉ、俺には楓がいるし……」
「僕は楓ちゃんも好きですよ。僕達、いい家族になれると思うんですが」
「いや、でもさ……」
「虎徹さんは僕のこと、愛してないんですか?」
「いや、愛してるっつーかさ……おまえのことは好きだよ。バニー。――で、いつから?」
「いつからって?」
「俺のこと愛してるだなんて思い始めたのは」
「さぁ……最初に会った時からかもしれませんし、一緒に戦った時からかもしれませんし、ジェイクをやっつけた時からかもしれません」
「ずいぶんアバウトだな、おい。つーかさ、俺達以前は、喧嘩ばかりしてたじゃん。それでも――好きだったのかよ」
「最初は――貴方のことがよくわからなくて……でも、外見は好みでしたよ」
「好みって……おまえの方がよっぽどハンサムじゃねぇか」
「それがわからないんですよね」
「おい。その台詞。男から反感食うぞ」
「でも、嬉しいですね。貴方からハンサムと言われるとは」
「……言うんじゃなかった……」
「はい。虎徹さん、マヨネーズ。虎徹さんも僕のこと、好きなんですよね?」
「それは――さっき言っただろ」
「赤くなって――虎徹さんは可愛いですね」
「俺みてぇな中年からかうなよ……」
「『愛してる』って言ってください。僕のことを」
「言えるか!」
「えー、でも、ベッドの中ではいつも――」
「だー! わかった。愛してる。愛してるよ!」
「ほんとに?」
「ああ。少なくとも、名前呼びされて嬉しいと思うぐらいには、愛してるぜ」
「虎徹さん……」
「何だ? バニ―ちゃん。泣いてんの?」
「からかわないでください。これはそのう――コンタクトがズレて……」
「おまえ、眼鏡かけてるだろ」
「あ、そうでした」
「バニ―ちゃんて、実はドジっ子?」
「そうかもしれません。でも、恥ずかしいから誰にも言わないでくださいね」
「どうしよっかなー」
「貴方がそのつもりなら……今度のHEROTVで虎徹さんに大声で愛の告白しますからね」
「うわ~、それだけは勘弁! 楓も見てるんだからよぉ!」
「やっぱり楓ちゃんのことが気になりますか。……楓ちゃんと僕、どちらが好きですか?」
「う、え? 急にそんなこと言われても――どちらも同じくらい好きって言ったら駄目かな?」
「いいえ。構いません。そんな貴方が好きなんです」
「バニ―はそれでもいいかもしれねぇけどなぁ……楓は怒るかもな」
「僕は楓ちゃんのことも好きですが何か問題でも?」
「俺がバニ―を取ったと思うかも……」
「光栄です」
「なっ! 楓が真相知ったら、口きいてくれなくなるの、絶対俺相手にだよ! 部屋にだって入れてくれなくなるよ、俺のこと!」
「貴方の育て方が悪かったんじゃありませんか?」
「大きなお世話だ」
「冗談です。楓ちゃんはいい子ですよ。虎徹さんに似て」
「な……おまえ、直球だな」
「ええ。貴方にはストレートに何でも言えますんで」
「そうか……」
「おや? 何にやついてんですか?」
「バニーちゃんだってにやついてるじゃんか」
「虎徹さんが可愛いなと思って」
「だから……よくそんなこと平気で言えるもんだな」
「ええ。僕も変わったと思います。だから――」
「だから?」
「今夜、何もなかったら、またここ――僕の家に泊っていきませんか?」
「あー。ま、何もなかったらな」
「嬉しいです。いっぱいサービスしますからね」
「お手柔らかに頼むよ――おじさん、もう年だから」
「ええ。でも、ベッドであんなに乱れるくせに――」
「だっ! バニ―ちゃん、恥ずかしげもなくそんなこと――」
「実は照れ屋なんですね。虎徹さん。イメージと違って繊細だし」
「イメージと違って悪かったな!」
「今日は久しぶりにシュテルンビルトの丘の上に行きましょうか。僕の家に行く前に」
「そうだな。ま、何事もないように祈るよ」
「僕と貴方の為にね」
「だっ! 俺は、シュテルンビルトの平和の為に、何事もなければいいなと言ったんだよ」
「はいはい。そういうことにしておきますね」
「――若いヤツは言うこと聞かないから困るね」
「虎徹さんだって僕の言うこときかないじゃないですか。戦いの時とか。あんなに物壊す必要ないでしょう」
「ぐっ……」
「ふふふ。ユーリさんも気の毒に」
「いいじゃねぇか。『正義の壊し屋』と呼ばれてるんだから」
「――ヒーローじゃなかったら、貴方ただの傍迷惑な男ですよ」
「うっせぇ」
「でも、そういうところも好きです」
「ば、バニ―……」
「ほら、また赤くなった」
「だからなぁ……俺はただヒーローとして人を助けようとして、ちょっと暴走してしまうだけなんだよっ!」
「あまり自慢にならないような気がしますが……」
「あ、そうだ。今夜は海沿いの道を走って行かねぇか?」
「何ですか、急に――ああ、話を逸らそうとしてるんですね。では、僕も乗りましょう。今夜も愛を囁き合いましょうね。虎徹さん」
「ん、ああ」
「今からそれをやりたいのですが、会社がありますものね。僕は貴方と違って勤勉ですから」
「悪かったな。働き者じゃなくて」
「その分僕が働けば済むことです」
「――なぁ、バニ―ちゃん」
「何です?」
「バニ―ちゃんて、優しいのな。俺だけでなく――他のヤツらにも」
「それは貴方の方でしょう。誰にでも優しいのは。――ねぇ、虎徹さん。昼間は皆のものでいいですから、夜だけは独り占めさせてくださいね」

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