タイバニオリジナル小説『バーナビーとレナ~アクション編~』

 彼はヒーローアカデミー時代から有名だった。バーナビー・ブルックス・Jr。
 そして、彼にいつも寄り添っていたレナ・アリントン。
 外見も性格も全く異なった二人は――確かに固い絆で結ばれていた――。

「え? 銀行強盗?」
「そ。今日銀行襲ったヤツなんだけどね――女の子人質にしていて警察も手が出せないんだって」
「そういう時こそ、ヒーローの出番でしょう」
 バーナビーは静かにコーヒーを啜る。レナがずいっと近寄る。
「んっふっふーん♪」
「何ですか?」
「私達だって未来のヒーローじゃない?」
 こういう、未来のヒーローを夢見る連中は少なからずいる。レナが厄介なのは、確かに彼女には実力が伴っているということだ。非公式に解決した問題も何件かある。
 もちろん、自分も一緒にいたのだけれど――。
「僕はあまり目立つ行動はしたくないのだけれど――」
「ヒーローになれば嫌でも目立つじゃない。特に、バーナビーなんてハンサムだから、女の子がわーっと寄ってくるわよ」
「止して下さいよ……」
 そう言いつつも満更でもないバーナビーであった。
 でも、恋しているのは、バーナビーが本当に好きなのは――。
「ん? どうかした?」
 当の相手――レナはきょとんとしていた。
(駄目ですね――相手にされてないようです)
 もしかしたら、既に恋心を読まれているかもしれない、と思ったことは何度かあったのだが。
 バーナビーは仕方ない、と言った風に溜息を吐いた。
 その時であった。
「わぁぁぁぁぁん! わぁぁぁぁぁん!」
 女の子の声と共に――。
 サングラスをした男の姿が現われて消えた。
「あ、あれ! 今話に出てたでしょ? あの銀行強盗!」
 レナが虚空を指差した。バーナビーもはっきり見て取った。
「追いかけよ! バーナビー!」
 バーナビーに否やはなかった。
「気配を読むんですね」
「というより、人の表層意識を読むのよ」
 レナのNEXT能力は人の気持ちを読むこと。子供の頃はいろいろな声が聴こえて大変だった、と聞く。
「最近コントロールが上手くなったんだよ」
 と、レナがいたずらっ子っぽく笑うのをバーナビーは微笑ましく眺めていたことも過去にあった。
「でも、あの男、今、壁をすり抜けて行きませんでしたか?」
「短距離ならテレポートできるのよ」
「そういうことなら――」
 バーナビーは気合いを入れた。目が青く光り出す。
 ハンドレットパワー。五分間だけ、身体能力が百倍にアップする。それがバーナビーの能力だった。
「犯人はこの壁の向こうにいるわ」
「そうか――じゃあ!」
 バーナビーはカフェテラスの壁にキックで穴を開けた。
「ひっ……」
 男がいた。また行方をくらます。
「待て待て待て―!」
 そう叫んだのはレナである。
 この子と結婚したら毎日がじゃじゃ馬馴らしだろうな、とバーナビーは思う。
「あらっ?!」
「どうしました?」
「妙ね――下に男と……それから小さな女の子の意識を感じるの」
「犯人は下ですね!」
「ええ――真下からは少し離れているみたいだけど――」
「地下室か――」
「そのようね」
「階段を使いましょう!」
 二人は急いで非常階段で地下室に向かった。
 男は確かに地下室にいた。息を切らしている。
「何だ――ガキどもか」
 男は札束が入っていると思われる鞄を持ち、女の子を横抱きにしている。
「た……助けて……」
 女の子は涙を必死でこらえようとする。
「待っててね」
 レナが女の子に向かって微笑んだ。
「あのな――俺は俺の仲間達の解放を要求する。おまえらガキどもは引っ込んでその旨、お偉いさんに伝えとけ」
「銀行強盗だけじゃ飽き足らず、また悪行を重ねるってわけ? その前にひとつ訊いていいかしら」
「ああ?」
「――ウロボロスって、何者なの?」
 ウロボロス!
「くっくっ、アンタみたいなお嬢ちゃんが首を突っ込んでいいことじゃねぇなぁ」
 バーナビーがいつの間にか男の背後を取っていた。バーナビーはジャンプをして回し蹴り。頭部を攻撃された男は気絶した。
「お姉ちゃん!」
 人質に取られていた女の子が駆け寄ってくる。
「大丈夫?」
「うん! あっ、お兄ちゃんもありがとう!」
 女の子の目がきらきら輝いている。正義のヒーローに助けられてほっとしたのと、思いもかけずアクションが見られたのに満足したらしい。
「行きましょ、バーナビー……」
 男に背を向けたレナは言いかけたが――。
 瞬間、銃弾が彼女の胸を貫いた。
「お姉ちゃん!」
「レナ!」
 男は本能だけで動いていたらしい。そういうケースだと、意識が読めないこともままあるのだと、レナは語っていた。
 ――男はどさっとまた倒れた。
「お姉ちゃん! 死なないで!」
 死なせてなるものか!
 もうすぐバーナビーの能力が切れる。
「掴まって」
 バーナビーは女の子に話しかけた。
 キックで穴を開け、地上階に舞い戻った。女の子を背負い、ぐったりと生気のないレナを抱えて。
 そこは大騒ぎになっていた。
 NEXT能力を持った銀行強盗が紛れ込んだらしいということ。そして、バーナビー達が追って行ったということも知っている人は知っていた。
 だが、状況を飲みこめない者はどうしたんだと意見を求めていた。
「すみません。レナを病院に運んでください!」
 止まっていた時間が一斉に動き出す。怒号が飛び交いたくさんの靴音が響く。
 ――レナは、助からなかった。

「すみません。アリントンさん」
 事件の顛末を話すと、バーナビーはレナの父に謝った。尤も、謝って済むことではないけれども――。
 アリントン氏は多くを語らなかった。ただ、
「レナが生まれたのは、このように椿の花が綺麗だった頃だよ」
 と、ぽつりと言った。
 振り向いたアリントン氏の悲しげな笑顔がレナの困った顔に重なった。
「どうか自分を責めないでくれ。バーナビーくん。ゆうべ、あの子が夢に出てきてね――『ありがとう』って。君まで悲しんでいると、私はどうしていいのかわからなくなるよ」
「――はい」
 レナの最期の言葉が甦る。
『愛してた――いえ、愛してるわ、バーナビー』
 記憶の中のレナの笑顔が自分を許してくれているように思えた。しかし、バーナビーはまだ自分を許せないでいる。
 世の中は移ろい行く。だが、これでいい、と思えるようになるまでには時間がかかる。
 ――ウロボロスか。
 バーナビーは改めてその謎の組織を憎んだ。

BACK/HOME