朝日奈大悟です
朝日奈大悟です。
オレはこの春、めでたく誠凛高校に入学しました。
え? 部活?
誠凛と言ったらバスケ部に決まってるじゃないですか。火神先輩もいることですし。
火神大我。オレの憧れの先輩。
ウィンター・カップで設立して僅か二年の誠凛高校バスケ部を優勝に導いたエース。
写真見るとすごくかっこよくて、
「この人とバスケをしてみたい!」
と思うようになりました。
当時、オレは頭が悪くて、学校ももっとレベルの低いところじゃないと無理だと言われてたんだけど――。
なんの! オレの理力に敵うものはない!
――というわけで努力と根性で誠凛高校に合格したというわけ。
ああ、でも、誠凛高校に入学できて良かったなぁ……。親には高校浪人は許さないよ、と言われてたし。
あのままずるずるとレベルの低い学校に通ってたらどうなったかなぁ……。
きっと悪いグループに入って非行に走ってたと思う。それを思うと――ー。
火神先輩はオレの恩人です。
ずっとプレイを見てたんだけど、どうやらガン飛ばしてると思われているようで――ちょっと悲しいです。そりゃあ強面なのは認めるけど……こんな顔に生んだのは親の責任でもあるんだし。
――両親に文句言ってる場合ではなかった。せっかくオレを生んでくれたというのに。
で、バスケ部ですが。
すごいんですよー。特に火神先輩!
プレイなんかオレなんかとは段違いに上手いし。まぁ、当たり前だけど。でも、空中を歩くことができると聞いた時はぶっとんだなぁ。
この性格のせいで夜木をいじめてるように見えたらしいけど。また、俺も夜木を邪魔だと思ったことも確かにあるけれど。
夜木は本気だ。一見弱そうだけどガッツがある。今はもう、俺達いい友達っス。
――あ、夜木からLINEだ。
俺はスマホを取る。
「おはよう、夜木。何か用?」
「登校がてら一緒にランニングしよう」
「いいぜ」
と、俺は返事をした。
このスマホは俺の入学祝いに親が買ってくれたものだ。
「大悟もやればできるじゃないか」
そう言って親父はご満悦だった。アンタの為に一生懸命勉強したんじゃないんだけどな、全くもう。
しかし、このスマホというヤツはいろいろ便利なんでよく使ってる。
サンキュー、親父。
「夜木ー!」
「あ、おはよう、朝日奈君」
夜木君はにこにこしている。彼はこの頃バスケがめきめき上手くなった。黒子先輩のおかげかな。
俺、本当は黒子先輩のことは馬鹿にしてたけど、あの人は強弱で測れない人だからなぁ……。
夜木君のことも俺は馬鹿にしてたけど、誠凛バスケ部に憧れてたのは同じだからな。――まぁ、俺は特に火神先輩に憧れて入ったのだけど。
今では夜木君とはいい友達だ。親友と言ってもいい。あのバスケ部では二人きりの新入部員なのだから。
一緒にランニングするのもこれが初めてではない。
「いい空気だな、夜木」
「うん、朝の空気ってものだね」
朝のランニングは気持ちがいい。特に、こんな曇りの日は。
明るい晴れの日もいいけど――すぐに暑くなるんだよな。
だから、今日ぐらいの天気が一番いい。暑過ぎず涼し過ぎず。
「よぉ、朝日奈、夜木」
この声は――
「火神先輩! ――と、2号」
「そ、こいつの散歩」
2号は犬だけど誠凛バスケ部の部員でとても澄んだ目をしています。黒子先輩と同じように。
2号の本当の名前はテツヤ2号。黒子先輩の下の名前がテツヤだから、ぴったりだと思う。
火神先輩は昔は犬が苦手だったようですが、2号のおかげで克服しつつあるそうです。また、いい子なんですよ。2号は。
「おはよう、2号」
オレはわしゃわしゃと2号の頭を撫でる。2号は嬉しそうに目を細める。
ああ、2号ともっと触れ合いたいな。こう見えてもオレ、犬好きなんスよ。
「朝日奈と夜木はランニングか?」
「そうです!」
オレと夜木の声が重なった。
「ふうん。やる気があるのはいいことだ。頑張れよ。あ、待てよ。2号」
火神先輩に褒められた。やった!
オレ達も火神先輩と2号と並んで走って行く。夜木もついて来られるようになった。最初はロードも満足に走れなかったくせに。
夜木も頑張ってんだなぁ。オレもがんばらなくちゃ。夜木にお株取られるのは悔しいもんな。
オレ達は誠凛高校に着いた。
なんか、体がぽかぽかあったまったような気がする。
「朝練に間に合ったね」
「間に合うように走ってるからな」
オレと夜木は笑顔を交わした。
「おう、お前ら、オレが相手になってやる」
「火神先輩……」
ウィンター・カップの覇者が訓練をつけてくれる。それだけで誠凛に入ってよかったと思う。まぁ、オレは火神先輩のこと、個人的にも憧れているわけだけど。
「おはようございます。朝日奈君、夜木君、火神君」
――2号が「構え」とばかり黒子先輩に寄って行く。オレ達も声を揃えて黒子先輩に挨拶した。
「おはようございます。2号」
黒子先輩と2号。何か和むなぁ、この二人――じゃなかった、一匹と一人。
「あ、もう来てたの? 早いわね」
「カントク、おはようございます!」
オレと夜木が頭を下げた。
誠凛高校男子バスケ部のカントクは何と、可愛い女子高生だ! まぁ、だからといって恋愛感情はないんだけど……。名前は相田リコ。
この普段は可愛らしいカントクはウィンター・カップの後、一躍有名になった。その前から名物カントクとして一部では知られていたそうだが。
キャプテンの日向先輩はこのカントクのことが好きらしい。さっさと告っちゃえばいいのに。
「おう、カントク。オレ、夜木と朝日奈と練習すっから」
「お願いね」
「あ、あの……」
「何だ? 朝日奈」
「また、ダンク見せてください」
「お、おう……ダンクは得意だからな。けれど、見世物じゃないんだぜ」
「はい! 技術を盗みます!」
「僕からもお願いします。そりゃ、僕は朝日奈君と違って技術盗めるほど上手くはないんだけど」
「そんなことねぇさ。夜木も随分上手くなったぜ」
火神先輩に褒められた夜木にオレはちょっと嫉妬した。
「んじゃ、ちょっと体慣らしに」
火神先輩はドカッとリングにボールを叩きつけた。あのダンクでゴールのリングを壊したこともあるらしい。尤も、そのリングはボロだったみたいだけど。
さすがのド迫力!
やっぱり火神先輩はすごいな。オレもああいうダンク決めてみたいな。もち、オレと火神先輩じゃ土台が違うけど。火神先輩はアメリカで鍛えられてっから。
オレは火神先輩の動きを目に焼き付けた。
「んだよ、朝日奈。そんなに見つめられちゃ集中できねぇぜ」
「ええ。でも、かっこよかったから」
火神先輩が近寄って来て、こいつ、とばかりに筋肉のついた腕全体でオレの頭をぐしゃぐしゃにした。やっぱ、こういうスキンシップも嬉しいもんだなぁ。ずっと憧れてたんだよな。こういうのも。
後書き
誠凛バスケ部ルーキー、朝日奈君の一人称です。
語尾がちょっと一定してません(汗)。
小説版黒子のバスケがなかったらこの話は生まれませんでした。
高緑高番外編の方に『朝倉ひな子』というオリキャラの女の子が出ているのですが、朝日奈君とは関係は特にありませんので念の為。
2016.1.26
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