アルフレッドおめでとう!

 金髪の男二人が濃厚なキスを交わしている。
「ん……」
 二人は離れた。アーサーとアルフレッドだった。
「今年は君、なかなか調子が良さそうじゃないか」
 アルフレッドが言う。
「ああ。吐血もしなかったしな……ゴホッ」
 言ってるそばからアーサーは血を吐いた。
「はい。タオル。たく、やんなっちゃうよ。いつになったら慣れてくれるんだい?」
「お前が勝手に独立するからだろーが」
「独立するのは俺の勝手だろ!」
 アーサーとアルフレッドはぎゃーすか騒ぐ。
 七月四日。アメリカの独立記念日。アルフレッドにとっては祝うべき自分の誕生日。だが――
(アーサーはお気に召さないらしいな。全く。いい加減にして欲しいんだぞ)
 イギリス――そう呼ばれて数百年の男、アーサー・カークランド。今でもアメリカは自分の弟だと思っているふしがある。
(まぁ、それでもいいんだけどね……)
 最近、ようやく『アメリカ』を認めてくれたアーサー。だが、独立記念日が近付くと体調を崩す。でも、今日はまだマシな方だった。
「アーサー、今日は外で花火を見るんだぞ」
「それは俺に対しての嫌がらせか?」
「元気そうだから外に出ても大丈夫かと思ってね」
「――わぁったよ。行ってやるよ」
「ほんとに?!」
「俺も――例年に比べて調子が良いと思ってたとこなん――ゲホッ!」
「あー。医者に見せた方がイイかもね」
「頼む……」
「アルー! アーサー!」
 無駄にうるさいヤツがやってきた。フランシスである。どこの国の人間かは――名前で察することができるだろう。
「むっ、何だい、君」
「アーサーのお見舞いに来た」
「邪魔なんだよ、君は」
「あー。そうみたいだな。坊ちゃん、血を吐くの?」
 フランシスはアーサーのことを『坊ちゃん』と呼ぶ。
「――悪いか?」
「にしては、顔色がいいな。さては」
 フランシスがにやりと笑う。
「アルフレッドがつきっきりで看病したからだな」
「まぁ、当たらずと言えども遠からずなんだぞ」
「アル君はアーサーにどんな看病をしたのかな?」
「ご想像に任せるんだぞ」
「おいおい、お前ら……」
「あ、坊ちゃん。心配しなくていい。こう見えても俺はアルとは仲いいんでね」
「日頃の様子を見ているととてもそうとは思えないぞ……」
「あ、そうだ」
 フランシス、人の話を聞いてない。
「お祝いの言葉を忘れてたぜ! アル、お誕生日おめでとう!」
「う……や……ありがと……」
 フランシスのお祝いの言葉に、アルフレッドは照れた。
「ほら、坊ちゃんも」
「う……」
「遠慮せずにさ。ほら」
 フランシスが促す。アルフレッドが今か今かと待ち構えながら見下ろす。
「誕生日……おめでとう、アル……」
 アルフレッドは天にも昇る心地だった。
 あのアーサーが誕生日おめでとうと言ってくれた!
 これはもう、独立を認めてくれたって思ってもいいよね。
「よーしよし。坊ちゃんも大人になったな」
 フランシスはアーサーの頭をかいぐりかいぐりする。
「うっせ」
 その時、ドアにノックの音がした。
「アル、入ってもいいかな」
「どうぞ」
 それは、アルフレッドによく似た青年、マシューだった。眼鏡も似てる。ただ、マシューの金髪はふわふわとしていた。
「アル、誕生日おめでとう」
 アーサーが苦労した言葉をマシューは難なく告げた。
「マシュー、お前すごいな」
「は?」
「みんな……ありがとう。俺、嬉しいよ……」
 キスの時外した眼鏡を手に持ったアルフレッドは、込み上げてくる涙を拭いた。嬉し涙である。
「じゃ、外に出ようか」
「え? アーサーさん、大丈夫ですか?」
 マシューもアーサーの不調のことはよく知っている。
「ああ……今年は大丈夫な気がすんだ……」
『イギリス』という名の国の維持をかけて、アーサーはぎぎぎと大儀そうに体を動かす。
「そんな無理しなくていいのに」
 フランシスの言うのへ、
「嫌なんだぞ。俺はアーサーと外で花火を見たいんだぞ」
 と、アルフレッドが駄々をこねる。
「ほら」
 アルフレッドはきゅっとアーサーの手を握る。
「俺がいるから平気なんだぞ。アーサー」
「アル……」
 アーサーが頬を染めた。
「お前……いっぱしの『国』になったじゃねぇか」
「誰かさんのおかげでね」
「おう」
「ねぇ、アーサー。俺はもう君の弟なんかじゃない。――恋人だ」
 そして、唇を寄せた。アーサーもそれに応えた。
「……血の味がする」
「さっき吐血したからな」
「君の血って、甘いんだね」
「何言ってんだよ。ほら、行くぞ」
 その様子をフランシスとマシューはニヨニヨしながら見ていた。
「お似合いですね。あの二人」
「ああ。お兄さん、フラれちゃったな。坊ちゃんのこと好きだったんだけど。でも、今はマシューがいるからな」
「フランシスさん……」
「こらそこ! 二人だけの世界を作るんじゃないんだぞ!」
「よく言うよ」
 アルフレッドの台詞にフランシスは肩を竦めた。そして言った。
「――まぁいい。花火見ようぜ、花火。もうフェリ達も来てるかなー」

 今年の花火はいつもより綺麗だった。

後書き
アルフレッド、お誕生日おめでとう! 花火見たいね! 花火!
2014.7.4


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