アルフレッドと僕 「アルー。おい、アルー。アルフレッドー」 「ああ、アーサーさん。僕はマシューですよ」 「――そっか、また間違えてすまんな」 「いえいえ」 そう言って愛想笑いする僕――マシュー・ウィリアムズ。 本当はこんなに気が弱い僕、自分でも嫌なんだけどね。 アルぐらいはっきりしてたら――或いは……。 「おい、坊っちゃん。いい加減アルとマシューの区別ぐらいつくようになれよ」 そうアーサーさんに注意してくれているこの人はフランシスさん。僕とアルを間違えない、珍しい人だ。そんなのが珍しいというのも、自分で言ってて情けないけど。 「でも、似てるじゃねぇか。この二人。お前はどうやって違いを知るんだよ」 「んー」 フランシスさんはへらっと笑った。 「愛の差かな」 「――くだらねぇ」 悪態を吐くと、アーサーさんは会議場に入って行った。 「君達、遅いんだぞ☆」 もうアルが来ていた。これもまた珍しい。 「何だ? もう来てたのか。アル」 「まぁね。君達が遅すぎるんだぞ」 僕は、心臓がときめくのを止められなかった。 アル――アルフレッド・ジョーンズ。僕とは腐れ縁だ。 アルの悪口は三時間にわたって言うことができるが一言に要約すると――バカ。 いっつもハンバーガー食ってるし、人の言うこと聞かないし、空気読まないし――明るくていい奴だし。 そう。この僕、マシュー・ウィリアムズは、アルのことは好きなんだ――本当は。 最初会った時から、多分。 でも、アルはちっとも僕なんか相手にしてくれない。一緒に遊ぶこともあるけれど。 僕とアル、間違えられるのは本当に嫌なんだ。だって、アルってばアホだし。 でも――でもね、僕は……。 アルフレッド・ジョーンズのことを……愛して……いるのかもしれない。 だって、アルといると、どきどきするし。 同じ顔なのに変だよね。 アルはアーサーさんが好きだ。口を開けばアーサーさんのことばかり。 「今日、アーサーがね――」 「アーサーがこんな失敗してさ――おかしかったんだぞ」 「アーサーがね――」 わかったわかった。 アーサーさんのことはもういいよ。君がアーサーさんのことが好きなのはよっくわかったから。 確かにアーサーさんは魅力的な人だ。悪態ついても可愛いし、緑色の目は綺麗だし、態度は紳士らしく洗練されているし、頭もいいし――。ちょっとあの太眉毛はどうかと思うけどね。 だから――アルの気持ちもちょっとわかる。僕もアーサーさんのこと嫌いじゃないし。それどころか、カッコイイと思うし。 でもね、でもね、僕だってアルが好きなんだよ! そんな僕の前でアーサーさんの話ばっかりしなくたっていいじゃないか! ほんとに空気読めないんだから! 僕、アーサーさんがちょっと憎くなるよ……悪い人ではないのはわかってるけどさ。 ああ、わかってるさ。僕のこの恋が不毛だと言うことを。 アーサーさんだって、アルを憎からず思っている。もしかすると、もう恋人同士なのかもしれない。 僕には、会議の内容はさっぱり頭に入ってこなかった。 アルだけ見てた。 アーサーさんはアルの隣に座って世話を焼いている。今は、アイスを食べさせている。 いいなぁ……。 僕は、アルに憧れているんだ。 アホだけど、若さにまかせて突っ走っていける彼が。 逞しくて力強い彼が。 優しくて、友達思いの彼が。 僕なんて、ただの子分としか見ていないのはわかってはいるんだけど――。 僕は、アルが、好きだ。 ほのかに灯った恋心だけど、アルと一緒の時は、それだけで嬉しくなるんだ――。 「マシュー」 フランシスさんが肘でつついた。何だってんだろう。 「そうアルばっかり見なさんな。隣にはアルよりカッコイイお兄さんが座っているというのにさ」 僕は顔が赤くなっていただろう。 フランシスさんは、僕がアルのこと好きだって、わかってるんだ。 は、恥ずかしい……。 「ま、気持ちはわかるけどな」 そう言って、フランシスさんは眉を寄せる。 「全く……あいつら人前でいちゃいちゃするんじゃないっての。ねぇ?」 フランシスさんが言っても全然説得力ないけど。僕も全く同じ意見だった。 僕もここにいるのにな。アルったら眼中になさそうなんだもんな。 確かに僕は見かけは大人しいかもしれない。中身はそう大人しくもなければ、穏やかでもないんだけど。 僕だってカナダという一国の『国』なんだ。優しいだけではやってかれやしない。 でも、僕は大人しくて気が弱い……というレッテルが貼られているらしい。不名誉なことだけど。 中には、おじいちゃんになってから住む国……なんて言っている人もいる。 アルの言う通り、オープンな国家にしたら、耀さん達やヨンスさん達に乗っ取られてしまったし。 あーあ……この世は灰色だなぁ。 好きな人には相手にされず、僕の夢は全然叶わず……僕は溜息を吐いた。 「どうした。マシュー」 「……フランシスさんには関係ないことです」 「……そりゃ、失礼しました」 ああ、アルやフランシスさんみたいに傍若無人になれたらどんなにいいだろう。 失礼なこと言ってるって? 確かに、悪口みたいだけど、僕は本当にそうなればいいなと思ってるんだ。人の目を気にせず、自分の心のままに突っ走ることができるというのが。 そりゃ、確かに周りの人は大変だよ。……そう考えるから、僕はいまいち強気になりきれない。 いいですよ。大人しくても気が弱くても。アル達みたいに我がまま勝手にはなれない。ならなくてもいい。 でも、遠くから見ているぐらいなら……アルもなかなか魅力的なんだよなぁ。顔だっていいし。――やっぱりアホだけど。 アルは、僕のこと、子分としか見ていないから、僕の気持ちなんてさっぱりわかってはいないと思うけど……。 僕がアルに告白したら、何て言うかなぁ……ふふふ。 ふられるに決まってるけどね。 「俺にはアーサーがいるから」 ――って。 でも、ちょっとはびっくりするだろうな。その時の君の顔が見てみたいよ。 アーサーさんばっかりではなくて、少しは僕のことも見てよ。 君は僕の――初恋の相手なんだからさ。 アル――大好きだよ。 アホでも頭軽くても、考えなしでも――そんなところが好きだよ。 アーサーさんしか見てなくても――僕は片思いでいいんだから。 ずっと、ずっと……。 アル……いい友達でいようね。 多分、僕は告白しない。この想いは胸に秘めておく。 貴重な友達を失いたくはないからね。 君は僕が君のことを考える十分の一ほども、僕のことを考えてはくれないんだろうな。 それが僕にとっては、少し寂しくて悲しい。 君に一言伝えたい。そのチャンスがあれば。僕の今の正直な気持ち。 くたばれ! アルフレッド! 後書き 滅多になさそうなアルマシュです。 『シュガー』の『ウェディングベル』を聴きながらこの小説を書きました。 原題は『くたばれ! アルフレッド!』だったのですが、表題にしてはあんまりなので、変えました。その代わり、最後の締めの言葉に使わせてもらったけど。 読んでくださった方、ありがとうございます。 2011.3.22 |