或る朝

 或る朝、アルフレッドがベッドで目覚めると――。
 隣に恋人のアーサーがいた。
「な! な……な……!」
 アルフレッドはちょっと動転した。確かに美味しいシチュエーションだけど……。
 アーサーといいことした記憶がない。酒の飲み過ぎ? 勿体ない。
 アルフレッドは記憶を手繰り寄せた。
 昨日はフェリシアーノやフランシス達と酔って騒いで、それから、それから――。
 アーサーが潰れたので介抱してあげようとイギリスにある自分の別荘に連れて行ったのだった。
 それから――。
 アルフレッドがごくんと唾を飲み込んだ。――覚えてない。その時。
「あ……アル、おはよう」
 アーサーが目をこすってアルフレッドに挨拶した。アルフレッドは我に返った。
 アーサーは半裸だった。ちょっと目の毒だ。下半身にはズボンを履いてたけど。
「アル……俺になんかした?」
 アーサーは機嫌良くアルフレッドに言った。こんな格好にされて怒らないとは珍しい。
「あ、いや、その……」
 アーサー、昨日、俺は君に手を出した?
 そんなこと恥ずかしくて訊けない。
「俺、シャワー浴びてくるんだぞ!」
 そう言って、アルフレッドは逃げた。

 ふふ、可愛いな。アルのヤツ。
 アーサーはこっそりほくそ笑んだ。
 俺になんかしたと思ってやがる。まぁ、それも期待してたけど。
 アーサーが夜中一度目覚めた時、アルフレッドはすっかり夢の中。健やかな寝息を立てていて、昔の彼を思い出したアーサーは懐かしく思った。
 これからでも遅くない。アルを誘惑してやろう。ま、いつも通り俺が受なんだろうけどな。
 攻とか受とかの知識は、菊から習った。
 あいつもいい加減、変なヤツだからなぁ……。
 菊のことを思い出して、アーサーは溜息を吐く。
 菊ってば、あんなたおやかな外見をしているくせに、男同士の愛とか、そういうのに目の色変えるからなぁ。恋人もいるみたいだし。まぁ、尤も、俺も人のことは言えないが。
「アーサー、シャワー浴びてきたんだぞ」
 ぽたぽたと水滴を髪から滴らせているアルフレッドの裸の上半身を見て、アーサーは男の色気を感じ、ぱっと視線を逸らした。
 アルのヤツ、逞しくなったな。
 一段と筋肉がついた気がする。アーサーは自分の貧弱な体を恥に思った。
「どうしたんだい? アーサー」
「ううっ、こっちくんな……」
 心臓爆発するだろがっ!
「どうして? ……寂しいんだぞ。俺……」
「だって……」
 おまえに惚れ直したから。でも……そんなこと言っていいんだろうか……。
「アーサー」
 アルフレッドがアーサーに近づく。そのタイミングを見すまして――
 アーサーはアルフレッドの腕を引き、唇を重ねた。
「アーサー……朝っぱらからいけないんだぞ」
 けれど、アルフレッドも満更でもないらしい。アルフレッドは笑っていた。
「いいだろ。別に。昨日今日の関係でもあるまいし」
 アーサーは娼婦の笑みを浮かべた。
「しょうがない男なんだぞ。アーサー……」
 そう言いながら、アルフレッドはアーサーの口を吸った。
(上手くなったな。アル……)
 以前は歯が当たるのを気にせずがんがん攻めまくっていただけだったが。
 彼を変えたのは俺だ。そう思うとアーサーの心の中に誇らしさが漲ってくる。
 アメリカは今や大国として世界の他の国々と肩を並べている。でも、アーサーは少し寂しかった。アルフレッドが離れて行ってしまうようで――。
 アルフレッドに、
「本当は君のことが大好きだったんだぞ」
 と言われた時は心の底から嬉しかった。アルフレッドは、今までとは違う形でアーサーの元に戻ってきた。
「ん……ん……」
「可愛い……可愛いんだぞ……アーサー」
 アーサーの雄の象徴が張りつめている。アルフレッドはアーサーのズボンを寛げてぱくっとそれを口に含んだ。
「や……やめろよ、アル……」
「どうして? 好きなくせに」
 何かを頬張っているような不明瞭なアルフレッドの発音だったが、そういう意味のことを言っているのはアーサーにもわかった。
「う……」
 確かに気持ちがいい。アーサーは絶句した。
 しかし、早くアルフレッドの熱い楔を打ち込まれたい。アルフレッドのいのちの熱をこの身に感じたい。
「アル、アル……!」
「なんだい?」
「俺は……おまえと一緒にいきたい」
「え……?」
 アーサーの花芯から口を離して、彼の紅潮しているであろう顔を見たアルフレッドはきょとんとしていた。それからぱあっとお日様のような満開の笑みを浮かべた。
「待ってて。――君、ローション持ってるかい?」
「机の中に。上から二段目」
「そんなものをいつも用意してるのかい? 君も好きものなんだぞ」
「うっせ、人のこと言えるか、ばーか」
「君も相変わらず口が悪いんだぞ」
 アルフレッドがローションの箱を取り出した。彼は早速開けてみる。
「これかい? いい匂いだね」
「ああ……」
「そんなに古くなってなさそうなのに、減りが早いね。誰と使ってるの? フランシス?」
「まさか」
「じゃあもしかしてアナニー……」
「それ以上言うな!」
 アーサーの見ぬちがかっと火照った。上手く相手の図星をついたことができたアルフレッドは、はしゃぎながらこう言った。
「わお! やっぱり君はスケベなんだぞ。アーサー! アーサーのエッチ! 世界一のエロキング! そんな君が大好きなんだけど!」
「うるせぇ! 静かにしろ! アル!」
 入れていいかい? アルフレッドはそう訊いて掬ったローションをアーサーの蕾に塗り込める。指を入れてじっくりと慣らす。
「あ……アル……」
 指だけじゃ物足りない。
「早く……アルの……入れて……」
「もう我慢できないのかい? ――いいよ。俺ももう限界」
 アーサーに覆い被さったアルフレッドは雄の匂いがした。そして――少しずつ、焦らすように先端で蕾を刺激する。
「ん……や……」
 自分の指とは比べ物にならないくらいの快感を得て、アーサーの頭は強烈な気持ちよさに夢中になって腰を動かす。アルフレッドは、アーサーの快楽のポイントを責めたり、わざと焦らしたり――。アルフレッドに責め立てられるうちに、アーサーの心の箍が外れた。
「アル……おまえ、上手くなったな」
 さっき言えなかった言葉がするりと口をついて外に出た。
「わお! ――アーサー、それ、最高の殺し文句なんだぞ。まぁ、情婦と長年連れ添ってたら、嫌でも上手くなるよね」
「てめぇは一言多いんだよ!」
 アーサーはアルフレッドを殴ろうとしたが、ひょいと避けられた。その時、アーサーの中に入ったアルフレッドの先端が弱点をこする。
「あ……」
「アーサー!」
 アルフレッドはアーサーの唇に唇を落とす。
「君のその笑顔、すっごいエロい。――アーサー・カークランド。君は最高の恋人なんだぞ」
「そうか……アル、俺もおまえが好きだ」
「俺のことが? 俺のもたらす快感が?」
「――どっちも」
 彼らは顔を見合わせてくすっと笑った。まるで秘密の恋人同士(そうには違いないのだが)のように。
 二人はしばらくベッドを軋らせた後、長い長いオーガズムに酔った。

 アルフレッドとの行為を続けているうち、体力が尽きたアーサーは意識を手放して眠った。
「全く……君の方から誘ったくせに……」
 アルフレッドは仕方なさそうに呟きながら、それでも優しい気持ちになれた。
 アーサーの寝顔は天使のようだった。
「――もう二度と離さないんだぞ。アーサー」
 アルフレッドはアーサーの褪せた金髪を撫で、愛しい恋人の額にキスをした。

後書き
この小説は風魔の杏里さんに捧げます。お気に召すといいのですが。杏里さんの一言がなければ、この話は誕生しませんでした。
2014.9.18


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