青峰クンと荻原クン

 オレがバスケットボールをもてあそんでいる青峰大輝をじっと見ていると、
「何だ? シゲ。オレのことじろじろ見て」
 と不審がられた。
 シゲ――オレ、荻原シゲヒロは、友人には『シゲ』とそう呼ばれている。そして、ひょんなことからキセキの世代の青峰達と友達になった。
 お袋は嬉しくて毎日泣いている。昔は辛そうに泣いていたもんだったが――閑話休題。
 青峰がボールを回していた手を止めた。オレは言った。
「オレさぁ……前に黒子に『青峰に似てる』って言われたけどさぁ……」
「ん?」
「オレの方がイイ男だなぁと思って」
「何ぃ?! お前ん家に鏡はねぇのかよ!」
 ま、当然怒るかな。青峰は続けた。
「オレよりカッコイイ男なんてオレぐらいのモンだ」
 そう言ってふぁさっと短い前髪を気障に掻き上げる。
 自惚れてんなー……。
「青峰こそ家に鏡あんのかよ! それに、ガングロなんて今時はやんねぇぞ!」
「生まれつきなんだよ! わりぃか!」
「とにかく、オレの方がイイ男だ!」
「いいやオレだ!」
「何だとぅ!」
「おっ、やってるやってる♪」
 聞き慣れた声が聞こえてきた。
「黄瀬」
「はーい」
 黄瀬涼太は正真正銘のイケメンで、学校行く傍らモデルもやっている。
「お前……神奈川じゃなかったのかよ」
 青峰が訊く。
「ああ。今日は仕事。来月の『週刊レモンタイム』に載ってるから、買ってね」
 黄瀬は宣伝を忘れない。まるで番宣を忘れないバラエティーに出てくるタレントのようだ。
「誰が買うかよ。んなムダ金使うくらいなら、マイちゃんの写真集の為に金溜めとく方がいい!」
「あ、オレもマイちゃんの方がいいな」
 青峰とオレとの共通点――オレら二人とも堀北マイちゃんが好きだ。
「バスケで有名になったら、オレ、マイちゃんと結婚すんだ」
「青峰……桃井さんがいるくせに」
「さつきは関係ねぇだろがよ」
 オレは、はっきり言って桃井さんもいいと思う。巨乳だし可愛いし。
 あんな可愛い娘に世話焼かせるなんて羨ましいぞ、青峰。
 まぁ、あの娘の本命は黒子みたいだけど――。
 そういや、黒子どうしてるかな。
「今日は黒子っちに会いに来たんスよ」
 と、黄瀬。
「黒子……オメーと待ち合わせしてんのか?」
 と、青峰。
「まぁね。昨日電話で話したんス。黒子っちもLINEぐらいやればいいのに」
「LINEって何だ?」
「スマホの無料アプリっス。これでいつでも繋がれるっス」
「ウザくねーか? そういうの」
「ま、程々にしとけば便利っスよ。モデル仲間とも繋がれるしね」
「さりげに自慢するのはやめろ」
 ゴンッと青峰は黄瀬の頭ををどつく。黄瀬が「イテッ」と声を上げる。うん。青峰。今だけはお前の味方だ。
「黒子っちにLINE勧めたら、『必要ありません』って言われたっス」
「あー、そうだろなぁ。テツはそんなもんやるより、本読むとか、バスケしてた方がいいって奴だからなぁ……」
 テツとは黒子のことだ。
「寂しいこと言わないで欲しいっス~。あ、荻原っちもLINEやんないっスか?」
「やだ」
「あうう。荻原っちにまでフラれたっス~」
 うぇっ、うぇっ、と黄瀬が泣き出す。いや、泣き真似だ。黄瀬はハンカチを取り出して目元を拭った。
「黄瀬、シゲは明日アメリカだ」
「あ、そうだったっスね。忘れてないっスよ」
 黄瀬は立ち直りが早い。
「荻原っち、良かったら連絡して欲しいっス。アメリカの土産話も聞きたいし」
「黄瀬。お前モデルで稼いでいるんだからアメリカぐらい行って来いよ」
 青峰が珍しくまともな提案をした。
「それがねぇ……ダメなんスよ。バスケの練習で忙しいし、何より日本の女の子がオレを離してくれないしねぇ~」
 全く……息するように自慢すんな、この男は。
「シゲ。オレはもうお前など二度と顔も見たくないが、無事でオレ達の元に帰って来い」
 青峰が矛盾したことを言う。どないせーつうんだ。青峰め、さっきのケンカをまだ引きずってんのか?
 青峰も黄瀬もこっちを見て微笑んでいる。
「――わかった」
 オレは頷いた。
「空港まで見送ってってやる」
「青峰っち、ヒマ人……」
「今、休みだかんな」
 ――ありがとう。
 オレは心の中でお礼を言った。
「ワンッ! ワンッ!」
 ――あ、2号の声だ。テツヤ2号。目も黒子に笑っちまうくらいそっくりなんだぜ。
「青峰君、黄瀬君、荻原君」
 黒子1号――じゃなかった、黒子テツヤが声をかけてきた。
「黒子っち~。迎えに来てくれたんスかぁ~」
「――放してください。黄瀬君」
 黒子はいたって冷静だ。でも、試合の時は熱くなることができるというのも、オレは知っている。
 黒子は影なんだそうだ。昔は青峰の、今は火神の。
「いいじゃないっスか~。いつもは火神っちもいるから、こういう風に抱き着けないんスよ~」
「ま、火神がいたらボコボコにされんのがオチだな」
 青峰もそう思うか。
「荻原君。明日からアメリカ行きですね。がんばってください」
 黒子にも励まされた。
「おう。一旦すぐ帰るけどな。まだ留学するって決めたわけじゃないし」
 オレは、アメリカ留学も考えている。親父もお袋も結構乗り気だ。
「シゲは英語さえできればあっちに馴染むと思うぜ」
「――うん」
 なんだかんだ言って、青峰は嫌いじゃない。というか、好きになっていた。さっきのケンカはじゃれ合いみたいなモンだ。
 青峰の目も黄瀬の目も、帝光の全中三連覇の時と違って優しくなっている。
 黒子の――おかげなんだろうか。取り敢えず、黒子は青峰を救ったってわけだ。今までのいろんなヤツの話からそう考えるようになっていた。黒子自身は「違います、彼らは自分で自分を取り戻したんです」とか言うかもしれないが。
 黒子は、いつでも全力を尽くしているんだろうな。だから皆に慕われる。オレも黒子の昔からの友達として誇りを感じている。
 オレは2号の頭をわしゃわしゃと撫でてやった。2号も嬉しそうだ。
 犬は大好きだ。特に2号は。オレが立ち上がると青峰が言った。
「じゃ、コートで軽く汗流そうぜ」
「お前の言う『軽く』汗流す、はちっとも軽くない!」
「オレ、体力有り余ってんだよなー、この頃。飯もめちゃくちゃうめーしよぉ」
 アメリカ行きも控えていることだし、青峰に付き合ってへばらないようにするか。青峰はバスケへの情熱を取り戻したっていつか自分で言ってたしな。
「あ、そうだ。これ、クッキー。母ちゃんから。青峰の分もあるよ」
「そうそう。旨そうな匂いがしてたんだ。バスケやったら早速食おうぜ」
 青峰がボールを抱えたまま駆け出すと2号もついていく。2号に引っ張られて黒子も走る。
 ――青春の形は数々あれど、オレは今が一番青春してるって感じ。

後書き
ずいぶん前に書いた荻原クンシリーズ。なんだか懐かしい。
なんだかんだ言って荻原クンと青峰クンは似た者同士だと思います。
2014.6.21


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