黒バス小説『青峰クンと桃井サン』

「さつきー」
「きゃっ!」
「今日もいい胸してんなー」
「もうー、何よー、青峰君のエッチ! ガングロクロスケ!」
「ひゃははははは」
 あたし、桃井さつき。今、胸をタッチしたのは青峰君。彼の下の名前は大輝だから、あたしは昔、「大ちゃん」と呼んでたんだ。
 青峰君はバスケ部のエースなんだけど、スケベなのが玉に疵なのよねぇ……。
 私はテツ君の方が好き。
 テツ君――黒子テツヤ君には中学時代に恋に落ちて、今でもとても好きなんだけど……。
 テツ君は淡々としてるけど、試合になると凛々しくなるところが素敵。
 でも、私の学校は青峰君と同じ。本当はテツ君のいる学校に行きたかったけど。みんな優しいし、Bカップの監督さんもからかいがいがありそうだしねー。
 だけど青峰君は何するかわからないからなー。灰崎君ほどではないにしても。灰崎君は今頃どうしてるんだろ。
「おう、さつき」
「何よ」
「ほんと、オマエ、大人になったよ。――胸もな」
「もうっ! そんなことばっかり!」
「安心しろ。オレの本命はマイちゃんだ」
 マイちゃん――堀北マイちゃんは青峰君の憧れの人なんだって。あっちは芸能人だから釣り合わないと思うけどなぁ。
「でもオマエ、何でオレと同じ学校に進んだんだ?」
「それは……青峰君キレると何するかわからないし……」
「嘘だな」
「えっ?」
「ほんとはオレが好きだから来たんだろー」
 そう言って、青峰君は私のほっぺをつつく。
「やめてよ」
 もうっ! 何て自信過剰なの?!
 私の本命はテツ君だっつーの! 私は頬が熱くなるのを感じた。
「――その顔は……テツのこと、まだ好きなんだな?」
 と、青峰君。
「うん……」
 私はテツ君が好き。隣にいるのがテツ君だったらよかったのに。みんな影が薄いってバカにしてたけど、テツ君は青峰君でさえ一目置いている。
 あの水色の大きな目で見つめられ、あの涼しい声で、
「桃井さん……」
と呼ばれただけでくらっと来そう。
 だから、その、青峰君はただの幼馴染……なんだけど。
 青峰君が憐れむような顔をした。どうしたっていうんだろう。
「青峰君……」
 その時。
 キーンコーンカーンコーン。
 予鈴が鳴った。
「おう、さつき。さっさと授業行け」
「青峰君はどうせ出ないんでしょ」
「まぁな」
「中学時代からそうなんだから。先生あんまり困らせないのよ」
「へいへい」
 聞く耳を持たないのはわかっていたけれど、私は一応青峰君に釘を差した。青峰君は気のない返事をする。
「ねぇ……青峰君は自分は授業出ないくせにどうして私には出ろって言うの?」
「あー……それはだな。オレ、頭わりーからな。赤司や緑間と違ってな」
「うん。確かに」
「そこでうなずくんじゃねぇ」
 青峰君はこつんと私の頭を小突いた。
「でもオマエは頭いいだろ? 学年でえーと……」
「二番……だったかな」
「そ。それで、オマエの将来のためにオレは言ってるんだよ」
「へぇー、青峰君が私のためにねー。でも、ホントは違うんでしょ?」
「何だよ」
「宿題出た時、私に手伝わせるつもりでしょー」
「う……よくわかったな」
 青峰君はぎくりとしたようだった。
 全く……青峰君たら。相変わらずなんだから。
「でも、今回はちゃんと授業に出るのよ」
「うっせーなー。わぁったよ」
 青峰君は面倒くさそうに言った。
 私は、
「うふふ」
 と、笑った。
「その笑い、エロいから許す」
「なぁーに上から目線なのよ。それに、笑顔がエロいと言われても嬉しくないわよ」
「なにー? オレがホメてんのにうれしくねーのかよー」
「今の……褒めたんだ……」
「おう、悪いか」
「ううん」
 私は青峰君の手を取った。
「早く行こ」
「おい……さつき」
「なぁに?」
「オマエ、ほんとにテツが本命か?」
「そうだけど? 青峰君はマイちゃんでしょ?」
「――まぁな」
 子供の頃は『オレがさつきを嫁さんにする』って言ってたくせに。
 でも、お互い成長するよね。
「アンタら、既に夫婦じゃん」
 そうあっちゃんに言われたことがあった。
 青峰君と? 確かに青峰君はかっこよくないこともないけど、テツ君命だから。私。
 バスケしてる青峰君やテツ君はかっこいい。
 そう。青峰君もテツ君もバスケやってんの。
 青峰君はキセキの世代の五人のうちの一人――。
 ――まぁ、バスケがなかったらエッチなだけのガングロクロスケだけどね。どこで日焼けするんだか。
「青峰くーん。教室入ろうよー」
「うー……教室入ろうとすると体がキョヒハンノウ起こすんだよー」
「そんなわけないでしょ! ほら、早く……」
「何してるんだね?」
「あ、先生」
「げっ!」
「あのね、青峰君が教室入ってくれないの」
「ほうほう、青峰が授業に出るのか。で、何やってんだ。さっさと入れ」
 先生が私達をぐいぐい押した。
 ――青峰君は諦めたようだった。
 で、やっぱり、窓際の一番前の席でいびきかいて寝てた。
「こら、青峰。起きんかい」
「ふぇ?」
「ちゃんと聞いてたか? 授業内容」
「あん? そんなの聞いてるわけないじゃん」
「じゃ、放課後、居残りな」
「ええー?! 部活どうすんだよ」
「終わったら行ってもいいぞ。どうせ部活もろくに出てないんだろ」
「うるせーよ」
 中学時代よりバスケに熱中しなくなった青峰君。それが少し心配。
 ――ああ、いろんな意味で青峰君の目を覚まさせる存在が現れないかな。そしたら、私も少しは楽になるのにな。
 気分を変えようと、窓の外を見た。
 あ、飛行機雲。青峰君も好きだったよね。
「――ヒコーキ雲だ」
 青峰君もあの真っ直ぐな雲に気付いたらしい。その後、話を聞けと先生に叱られていた。

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