烏間アンの日常

 あたし、烏間アン。四歳。パパは烏間惟臣。ママは烏間イリーナ。あたしはハーフ。ちょっとわけありの。
 パパとママは『ぼうえいしょう』というところにつとめているんだって。この国のためにたたかってる。
 あたしのゆめはママみたいにとうが立たないうちにパパみたいないい男とけっこんすることなの。保育所の男の子たち? ふっ、みんなガキよ。
「アンー、ご飯よー」
 ママが呼んでる。行かなきゃ。
 わ~、いいにおい。
 パパはすでにすわっていて新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。ママったらあたしが同じことをしたらおこるくせに。
「今日のメインディッシュはソーセージよ~。パパのモノと同じサイズですからね~」
 それを聞いたパパはぶっ、とコーヒーを吹いた。どうしたっていうんだろう……。
「イリーナ……そういう話題は子供の前でするなといつも言ってるだろう~」
「あら、ごめんなさい。あなたのはもっと立派だったわね」
「人の話を聞け!」
 あたしは無視してソーセージを頬張る。ママは料理がとってもうまい。ときどきお手伝いもさせてくれる。ソーセージもおいしい。
 ママはパパによく怒鳴られる。パパのこと怖くないの?とママに訊いたら、ママは、
「あの人に怒られるのは好きよ」
 と、言っていた。わけわかんない。ママって変。
 でも、パパはもっとわかんない。いつだったか、ママが作り置きしていたご飯をパパと二人で食べていた時、
「このご飯おいしいね」
 と、パパに言ったら、パパもうれしそうに、
「そうだな。ママが作る手料理は世界で一番おいしい」
 と、言ってたの。
「じゃあ何でママの前で言ってあげないの?」
 と、きいたら、
「あいつには厳しく接する位がちょうどいい。ああ見えて結構タフだしな。上司として、あいつの底力は信じてる」
 と、言ったの。パパもひどいよね。いいとこはもっとほめてあげなよ。それに、パパは上司であるより先にママの夫でしょ? でも、あとでママにチクったら、ママはこおどりしながら喜んでいた。
 この二人の間でけんぜんに育ったあたしはえらいと思う。
 でも、パパはかっこいいし、ママはきれいだからみんなからはうらやましがられてる。でも、二人とも、忙しいんだ。ほごしゃさんかんには時間を作ってきてくれてるけど。
 あたしが保育所でハーレム作っていることがもんだいになっているらしい。でも、どこがいけないのかしら。パパは、わかいころのママに似てるって言ってた。
 ママは今でもモテる。パパも。でも、二人の間にはあたしがいる。パパもママもあたしのものなんだからとっちゃだめ!
 ……でも、仕事のときはしょうがない。パパとママとられちゃうから、あたしは仕事というものがだいきらい。
 いいこともあるんだけどね。それは、パパ達のむかしのおしえご達が遊びに来てくれること。
 この間なんて磨瀬榛名に会ったんだよー。すごいでしょ。
 朝ドラ女優で、本名は雪村あかりっていうんだけど。でも、パパ達は茅野カエデって呼んでいる。むかしそういう名前で学校に行ってたみたい。いくつもの名前を持ってるなんて、ミステリアスだよねー。
「お、そうだ。アン。俺ら夜でかけるから茅野に来るよう頼んどいたぞ」
「また仕事~」
「そうだ。しかも、今回はちょっと厄介なヤツだ。まぁ、俺達は強いからやられないけどな」
 そう言ってパパ、あたしの頭なでる。
 ……ずるいよ。パパ。そうやってママのこともたらしこんだのね。
 でも、磨瀬榛名……茅野さんに会えるのはうれしいことだよね。
 茅野さんは胸がない以外は完璧な女性で、あたしの憧れでもあるんだ。かわいいし、がけからもダイブできる。かっこいい。
 でも、茅野さんは胸がないことが悩みなんだって。うちのママはおっぱい大きいけど、抱きしめられてちっそくしそうになったことがある。胸があるからいいとはかぎんないんだよね。
 それに、胸がないからこそ、あたしは茅野さんに親しみを持つ。どうせ大人になったらママみたいなボインになるんだもん。あたし。
「それから、渚も来る」
「わぁい」
 あたしは思わずバンザイしてしまった。あたし、渚も好きなんだ。大人の男だと言うのに、パパとはえらい違いだけど。あたしは渚もかわいいと思う。うちのパパにくらべれば。
 夜になったら本当に渚と茅野さんがきた。
「じゃ、大人しくしてるんだぞ。アン」
「わかった!」
 この二人が来てくれるんだったら、パパとママ仕事にとられてもいいや。
「渚、もしよかったらアンの勉強見てやって。上手く出来たらディープキス――は、パパ以外の男性には封印したんだっけ」
「?」
「おい、アンの教育に悪い話をするんじゃない」
「ごめんなさい。あなた。昔のくせでつい、ね」
「アンがおまえみたいになったらどうする」
「地球上にいい女が一人増えるだけよ」
 パパがはぁ……とためいきをついた。
「ねぇ、ママ。あたし、ママみたいないい女になれる?」
「なれるなれる。ママ以上のいい女になるわよ。アンなら」
「――そうだな」
「いずれパパみたいないい男と結婚するんでしょうね」
 いたずらっぽい目つきでママが言う。
「それはもっと後のことだろう――アンは、今は、俺達の可愛い娘のアンだ」
 パパはまっすぐ目を見てあたしの頭をなでる。
「アンはいい子だぞ。お前自身が考えているより、ずっとな――」
 パパの言うことはときどきわかんない。けれど、ほめられたことはわかった。
 パパ、ママ。あたし、お勉強がんばる。バレエもピアノもサボらない。いい女になるから、そばにいさせて。おとなになったら、みんな家を出て、自分の家を作るんでしょう? だから、それまでは、この家にいさせて。
「ふふ……」
「な、何だ? イリーナ」
 パパはママのことをときにイリーナと呼ぶ。
「今のあなた、娘を嫁にやる父親みたいだったから」
「それの何が悪い」
「悪くないわよ~。ただ、あなたにもそういう顔があるんだなぁって。アンはモテるからね~。早くしないとどこぞの馬の骨に奪われちゃうかもしれないわよ。そうなる前に性教育はバッチリしておくけれどね」
 茅野さんと渚が、はは……とかわいた笑いを浮かべる。
「アン。これからはママもびしびし教育するからね。覚悟なさい」
「アン。ママはあれでも敏腕教師だぞ」
「やだぁ。敏腕凄腕美人教師なんて」
「そこまでは言ってない! ――が、まぁ、教師として優秀だったことは認める。それじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。というか、私も行くんだっわね。――そうだわ。アン」
「うん。ママ」
 あたしはママのほおにちゅーをした。
「これでまた生き延びられそうな気がするわ。アン。いつもありがとう」
「かならず生きて帰って来てね」
 パパとママは、危険と隣り合わせの仕事をしている。ママは、『パパと一緒に仕事をやる時が最高にパパを感じられる』んだそうな。
「はい。じゃあ、今日は何をやる?」
「えーごでおうた、歌いたい」
「英語の歌を歌うのも、立派な勉強だね」
「渚、あのね、烏間先生に聞いたんだけど――アンちゃんて、すごく早熟なんだって。いきなり洋楽歌い出しても、びっくりしないようにしよう?」
 茅野さんが渚に耳打ちする。そうじゅくって、なんだろう。
「うん、そうだね」
「保育所で歌ったおうただよ。日本語ではきらきら星っていうの」
「よ……よかった。わりとまともだ」
 渚がほっと一息ついたようだ。あたしのことで何か心配事でもあったのかなぁ。あたしはいい子だって、パパもママも言ってくれるけど。パパもママも、あたしにはメロメロだから。
「じゃ、私が演奏するから、渚とアンは一緒に歌って」
「歌だけじゃつまらないからおどろうよ」
「うん!」
 あたしは茅野さんのオルガンで、渚と一緒におどった。茅野さんもとちゅうで輪の中に入った。このまま幸せなときがずーっとずーっと続くといいな。
 ……幸せって、自分の中にあるんだよって、渚が言った。あたし、渚とだったら結婚してもいいな。渚のまわりにはえがおがたくさん。あたしもおもわずえがおになっちゃう。
 でも、渚には茅野さんがいる。この二人はとってもおにあい。
 あたしはまだわかいんだもの。あせることないって、パパとママだったら言うよね。あたしはきっと、パパや渚よりすてきな人と赤い糸で結ばれているんだ……。
 パパもママもぶじ帰ってきたし、あー、今日もサイッコーの一日だった! そう思いベッドに寝転がる。明日もいい日だといいな……。

後書き
暗殺教室の二次創作。烏間とイリーナの娘の話。
因みに娘の名前、『アン』というのは私の創作です。
2018.01.24

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