赤司様はサンタクロース

「何でアンタらフツーにここにいるんスか!」
「いいじゃねぇか。俺ら本番のクリスマスにパーティー出来なかったんだから」
 冒頭の一言は火神大我が。それに答えたのが我らがキャプテン日向順平って訳。
 本番のクリスマスにはウィンター・カップがあったからなぁ……。なんだかんだ言っても旨そうなご馳走を用意しているところが火神の律儀なところだ。バジルなんて香草も使ってる。
 今日は12月31日なんだけど――。世間じゃもうゆく年くる年なんだけど。
「こんなにご馳走作ったのは初めてだからな」
 ――と、ぶつぶつ言ってる火神。
 水戸部先輩は何だかそわそわしている。伊月先輩は必死にダジャレを考えている。今、スランプらしい。土田先輩はにこにこと皆を見守っている。 土田先輩、彼女との約束より俺達のパーティーの方を優先してくれたみたいなんだよな……。
 コガ先輩はクリパをめいっぱい楽しむつもりらしい。木吉先輩も嬉しそうだ。美味しそうな匂いがしているので、涎を拭くジェスチャーをやっている。フクとカワは、「どうせならイブにパーティーしたかったけど、WCがあったもんなー」などと話し合っている。
 ――けれど、ここにいる皆はクリスマスよりバスケが好きだと言う連中ばかりなのだ。
 ピンポーン。――チャイムが鳴った。
「ん? 誰か来てない人いる?」
「いないじゃん。全員揃ってるよ」
 何事だろうと、まずオレがドアを開けた。
「やぁ、光樹」
 ――パタン。
 オレは何もなかったかのようにドアを閉めた。「誰ー?」とフクが言う。
「だ、誰でもない……さぁ、ご馳走食おう」
 オレ達が席に座ってしばらく後――。サンタクロース姿の赤司が窓を叩く。
「うわーーーーーーー! 出たーーーーーーーっ!」
「何だい。光樹。締め出すなんて酷いじゃないか。――やぁ、テツヤ」
「こんにちは。赤司君」
 窓を開けた黒子が赤司と普通に会話している。黒子、お前はすげぇよ、立派だよ。影薄いけど後光が差してるよ……。なんせあの赤司と対等に話しているんだから。とてもじゃないが、オレが出来る芸当じゃない……。それに、窓を伝って現れる赤司も只者じゃない……。きっと隣の部屋を通らせてもらったんだな。
 やっぱりキセキのヤツらは……いや、赤司は一味もふた味も違う!
「あ、赤司君、やっと来てくれたのね。ありがとう。――寒いから窓閉めて」
「――カントク、赤司来ること知ってたの?」
「そうよ。私が呼んだんだから」
 カントクの相田リコさん(呼び捨てにすると後で怒られそうだ)はけろりとしている。
「はい。良い子にはプレゼントだよ」
 つけ髭までつけてノリノリの赤司。オレはプレゼントをもらった――というか、賜った。これ、絶対下賜だよね。
「フリー!」
「わぁ、チワワ再び!」
 フクとカワが叫ぶ。コガ先輩も。
 木吉先輩は笑いながらでーんと構えている。オレは木吉先輩みたいにはなれない。――赤司がただで帰るとは思わない。
「プレゼント、開けないのかい?」
「……家でゆっくり開けます」
 ――本当は一生開けたくない。
「おう、赤司。飯食ってくか?」
「悪いけれど、家で一流シェフのディナーが待ってる」
 なんか、火神には素っ気ないように見えるのは気のせいか?
「いいんですか? 赤司君。美味しいですよ」
「けれど、うちの自慢のシェフの料理には敵わないと思うのでね」
 カチン、と来たのは火神だけではあるまい。黒子がまず反論した。
「そういうことは食べてから言うんですね! 確かに一流シェフには敵わないかもしれません。でも、火神君の料理には家庭料理の温かさがあります!」
「温かさか……」
 赤司の目に穏やかな光が灯ったのは気のせいか?
「光樹、お前もそう思うか?」
「――そうなんじゃね? 黒子が言うんだから」
「君は黒子を随分買ってるんだね。でも、いつか『赤司が言うんだから』――と応えるように変えてみせるよ。それとも『征十郎』と呼んでもらおうかな」
 うわー! それってマインドコントロール? ……ちょっと違うか。
 けれども、オレにとって赤司は少しおっかない。
「赤司君。あまり降旗君を脅さないでください」
 黒子が淡々と言った。――黒子、ありがとう。
「脅しじゃないんだが……取り敢えず大我。君の家庭料理とやらを味わおう。持ってきてくれ」
「断る」
 火神が言った。そうだよね。今までの流れから言ってそれが普通の反応だよね。でも――。
「なら、僕は光樹を連れて帰って本物のフルコースを味わわせてあげるとしよう」
「ちょっと待ってよ。赤司君。何でそんなに降旗君にこだわる訳? あ、私もフルコース食べたいって意味じゃないのよ」
 ――カントク、ちょっとは食べてみたいんだ……。
「それは光樹が……」
「わー! ちょっと待ってっ!」
 赤司の口を封じないことにはどうにもならない。オレがそう考えていると――。
「赤司君は降旗君を気に入ってるんですよ。殆ど好きと言ってもいいくらい」
 黒子……さっきの礼は撤回するかんなっ!
「冗談抜きで。赤司君。降旗君に何贈ったんです?」
「バスケットボールとバッシュだよ」
「――何だ。意外と普通ですね」
「ちっとも普通じゃねぇよ。……ボールはともかく足のサイズなんていつ計ったんだよ……」
 火神が耳をほじりながらツッコミを入れる。
「あ、そういえばそうですね。もしかして赤司君もカントク並にアナライザー・アイが使えるとか?」
「――ちょっと天帝の眼を駆使しただけだ。因みに洛山のユニフォームも贈ろうかと思ったんだけど、流石に嫌がられそうだからね」
「ユニフォームまで贈りつけるつもりだったんですか……」
 黒子は少し呆れたようだった。な? 黒子。赤司は強引だろ? あれで憎めないところもあんだけど――。
「お、オレはこの誠凛が好きなんです。――でも赤司さん、オレに過ぎたプレゼント、どうもありがとうございます!」
 ――だから早く帰ってください! ……なんて言えないけどさ。だからオレは黒子みたいにもなれないんだ。黒子はあれでズバズバ物言うから――。オレはしがないチワワ少年さ。でも、いつか恩は返さないと。
「仕方ねぇなぁ……おい、赤司。飯食ったら帰れよ」
 ――オレが言いたいことを火神が代わりに言ってくれた。サンキュー、火神。
「あ、光樹が笑った。そのままそのまま」
 赤司がデジカメでオレの顔を撮った。オレなんか撮って何が面白いんだろう。
「これはスマホの待ち受けにしよう」
 そう言っている赤司は心から楽しそうで――。なんか文句を言う気分も失せてしまった。赤司も笑ってるじゃん。てゆーか、笑ってる赤司意外とかわい……あ、いやいや。
「降旗君……このままだと玉の輿に乗れるわよ」
 カントクがニヤニヤ笑いながら言う。もう、カントクったら冗談きついんだから――。
 女子って何で恋バナが好きなんだろう。あっ、間違ってもオレと赤司の間に恋は生まれないからね!
 赤司がどう思っているのかはいまいち謎だけど――。
「赤司。このサラダ旨いぞ。野菜は無農薬栽培だとさ」
「ありがとうございます」
 ――日向主将も赤司の世話を焼く。サラダも取り分けてやっている。主将の方が年上だもんな……。確かに食べられないことはありませんね――と言うのは、赤司なりのお世辞のつもりか?
「おい、お前ら。食い終わったら俺らも写真撮るぞ。三脚があるからな」
「――え?」
 突然の火神の提案に皆、目を丸くしている。
「せっかくうちにもカメラがあるんだ。全員集合の写真撮らなきゃ損だろ」
「それって赤司君の影響ですか?」
「うっせーな……まぁそうだ。せっかくだから赤司も入れてやんよ」
 火神は口は悪いが割と常識人でそういうところは好きだ。犬が嫌いと言う欠点はあるけど。――カントクが続ける。
「いいわね。そういうの。勿論焼き増しはしてくれるんでしょうね」
「その辺は抜かりねぇぜ」
 火神はにやりと笑った。
 僕も後で洛山の皆と記念写真撮ろうかな――と、赤司が呟いたのも忘れない。いい記念になるよな。赤司が撮ったオレの写真も、データで送ってくれると言う。
 最初は最悪かなと思ってたけど――このクリパはオレにとって最高のものになりそうだった。そのきっかけを作ってくれた点については感謝するぜ、赤司。

後書き
この話はちょっと季節外れかなー……。
アイディアが降って来たんで書きました。赤降や火黒(?)もあります。
そんな誠凛のパーティー。いつもより難産でした(笑)。
2019.04.14

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