愛は時を超えて

※『フランシスと子アルとちびりすと』の続きです。

 アルフレッドが見ている中、菊がどこかに電話をかけた。古式ゆかしい黒電話だ。
「もしもし、……グンマ博士いらっしゃいますか? ええ。タイムマシンの共同開発に携わらせていただきました本田です……」
 タイムマシンの開発に携わった? 菊ってどんな仕事しているんだろう。
 菊って、結構謎な人物だな。
 アルフレッドが疑問に思っていると、グンマ博士とやらが電話に出たらしい。
「もしもし、グンマ博士? 嫌ですねぇ、菊ちゃんはやめてくださいよ――ええ。是非ともあのマシンが必要なんです。今すぐ用意できますか? ……はい……はい、ありがとうございます」
 菊は、チン、と受話器を置いた。
「すぐ来るそうです」
「本当かい? 楽しみだな」
 アルフレッドの顔が輝いた。
「で、いつ来るんだい?」
「すぐと言ったらすぐです」
 菊が口元だけで微笑んだ時だった。
 ぴかっと辺りが光った。
 気がつくと、車が家の中にあった。襖は破れ、壁は一部崩れてしまっている。
「うわー、すっごい! かっこいい!」
 アルフレッドは嬉しそうだ。
「こんなところに入ってこなくても……家は狭いんだから……」
 菊がぶつぶつ文句を言っている。しかし、それもアルフレッドの耳には入らない。
「とってもダイナミックなんだぞ!」
 車のドアが開いて、女の子のように長い髪を一束にして垂らした、白衣の人物が現われた。
「やっほー! 菊ちゃん!」
 声まで女の子のようだ。
「菊ちゃんはやめてほしいって言ってるんですがねぇ……」
「菊、その人は?」
「ああ。この方がグンマ博士です。女の子のように見えますけど一応男です」
「一応はひどいな」
「グンマ博士、こちらが私の友達?のアルフレッド・すっとこどっこい・ジョーンズさんです」
「何で『友達』の後に疑問符をつけるんだよ! それに、変なミドルネームつけないでくれよ!」
「まぁまぁ。菊ちゃんはこういうところがあるから。悪気はないんだよ」
「知ってるよ。一応友達だし」
「あなた方、ここぞとばかりに私をコケにしてますね」
 菊がいつもの無表情に戻って、面白くなさそうに言った。
「まぁいいです。グンマ博士、タイムマシンを必要としている方がここにいます」
「あー、アルフレッド君だね。どうぞ宜しく」
「こちらこそ」
 グンマ博士が出した手を、アルフレッドは握り返した。
「で、タイムマシンは?」
「ああ、この車だよ」
「ワオ! ますますバックトゥザフューチャーの世界だね!」
「もちろん。だって、その映画をパクり……もとい参考にしたんですから」
 機嫌が直った菊が、くすくす笑い出した。
「何年前に行きたいんだい?」
 と、グンマが尋ねる。
「んー、そうだな……」
 アルフレッドが、自分の行きたい年代と場所をグンマに告げた。
「そんなに昔……」
 グンマは愕然としたようだった。
「だめかい?」
「だめじゃないけど……そうだなぁ……あんまり昔なんで……」
「いいんじゃないですか? 動物実験だと思えば」
「動物って……菊ちゃん、時々毒吐くね」
「そうですか?」
 グンマの言葉に、菊がしれっと答える。
「どうでもいいから、早く乗りたいんだぞ!」
 アルフレッドは興味をそそられるような珍しいおもちゃを見た時のように、うずうずしていた。
「うん。運転席に乗ったらそこのメーターで行きたい年代を設定して? できた?」
「できたぞ」
「そしたら、カーナビで場所を決めてギアを動かして。シートベルトも忘れずに」
「えーと……場所は大昔のイギリス、と。よーし! 時空の旅に出発進行ー!」
 アルフレッドはやたら張り切っている。どこでもテンションが高いのが、この青年の特徴である。
 車型のタイムマシンは、本田家から姿を消した。
「うわあああああああ!」
 やはり、ショックは大きい。グンマ博士達が、改良に改良を重ねたのだが。アルフレッドはそれを知らない。
 それに、年代が離れ過ぎていた。
 マシンは林の中に不時着した。
「おお! ここがアーサーの子供の頃のイギリスか!」
『アルフレッド君』
 グンマの声がした。
 アルフレッドは、うわぁっと飛び退いた。後ろには座席があるので、もちろん比喩的な意味だが。
『24時間以内に戻ってくるんだよ。それから、名乗ることはタブーとされているからね。僕にとってはどうでもいい規則だけど、タイムパトロールがうるさいからね』
「おお! タイムパトロールまでいるのかい。なんて素敵なんだ! わかった。注意は守るよ」
『それから、携帯を持ってないかどうか聞くのを忘れてたよ』
「携帯? 持ってないけど」
『そっか。良かった。通信はこれで終わり。楽しんできてね』
「もちろんだとも!」
 アルフレッドは元気良く車から飛び降りた。
「さー、アーサーを捜すぞ、っと」
 アルフレッドは林から出て行って、辺りを見回した。
 この頃から、イギリスは霧の国なんだなー、と感心する。
 あれ? 子供がいる。
 なんだか、髪を必死に撫でつけているようだけど……。
「おい、君」
「な、何だよ」
 男の子が振り向いた。
「あ!」
 アルフレッドは驚きの声を上げた。
 アーサー・カークランド!
 顔立ちは幼いが、この髪の色と太眉毛は、見忘れることがない。
 こんなに早く見つかるとは思ってもいなかったが。
 これがアルフレッドとちびアーサーの出会いである。

to be continued…… 

2010.1.31

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