アレックスさんに会いました

 オレ、荻原シゲヒロは、ロサンゼルスのアレックスさんという人の家にやってきた。
 空港に着くまで眠っていたので、体調はバッチリだ。
「――ここだな、アレックスさんの家」
 オレはインターフォンを鳴らした。
 すると、想像より遥かに美人なグラマー金髪お姉さんがドアを開けた。
「こ……こんにちは。えーと、Nice to meet you.」
 緊張のあまりオレはどもった。
 初めましての挨拶は『How do you do?』と言うもんだとばかり思ってたけど、火神によれば、もう古い言葉なんだそうだ。
「Oh,Nice to meet you too.もしかしてタイガの友達のシゲヒロか?」
「はい。荻原シゲヒロです」
 アレックスが日本語で訊いたので、オレもつい日本語で返事した。
「アレクサンドラ=ガルシアだ。宜しくな」
 ピンクのフレームの眼鏡も似合ってるし、青い目は明るさを宿している。これで落ちない男はいないんじゃないかな。
「なかなかキュートな男子じゃないか」
「あ、ども……」
 気が付くとアレックスの顔が至近距離にあり――オレはキスされていた。
「んん……」
 オレは心の中で思った。ラッキー! オレのアメリカ滞在、幸先いいぞ!
 ま、もっとも、アレックスはキス魔だってこれも火神から聞いてたから、少し期待していたところもあるが――。
「さ、こっちだ。もっとリラックスムードで行こうじゃないか」
 アレックスが英語訛りの日本語で喋る。それがとても奇妙な感じがして、かえって彼女の魅力になっているようだ。
 にしても、オレ、そんなにガチガチだったかなぁ。ま、ムリもねぇか。アレックスみたいな完璧な美女が目の前にいるんだもん。
「それとも、バスケにするか?」
「え? バスケですか?」
 オレは鸚鵡返しに喋った。
「でも、シゲ、ちょっと疲れてるようだな。特製のアップルティーであったまれ。美味しいぞ~」
「はい!」
 アレックスが淹れてくれるお茶なら何だって良かった。
 オレは案内された席に着いた。
 さすがロサンゼルス。どこもかしこも明るいなぁ。この家だって、綺麗に整頓されているし。家具だって可愛いのが置いてある。
「どうしたー。そんなにキョロキョロして」
「あー、この部屋、なんか可愛いなって」
「リビングだけは綺麗にするよう心がけているんだ」
 ――アレックス、難しい日本語使うな。思わず尊敬してしまう。オレなんか、日常会話の英語も心もとないもんな……。
「大体の話はタイガから聞いてる。シゲ、お前、バスケが強くなりたいんだってな」
「は……はい!」
 バスケ。一旦離れても忘れることのできなかったバスケ。捨ててもオレを追っかけてきたバスケに対する情熱。
 オレは、バスケをやりたい。
 ――にしても……。
「アレックス、火神のことをタイガって呼んでるんだ……」
「ん。まぁ、あいつが子供の頃からの付き合いだからな。タツヤも一緒だったけど」
 オレは、めらっとタイガに対して嫉妬の炎を燃やした。
 タツヤ、というのは、確か火神の兄貴分だって話だったな。女にモテるイイ男のようで、そっちも羨ましい。
 子供の頃からアレックスに世話になってたなんて、何て美味しいんだ、火神!
「その菓子も美味しいぞ。この先の店で買ってきたんだ」
「いただきます」
 確かにおいしくて、思わず頬が緩んだ。
「さて、お茶を飲んだらコートに行くか。賭けバスケはやったことあるか?」
「いいえ」
「そうか。うーん、まず実力を見てみないことにはなぁ……」
 アレックスが考え事でもするように腕を組む。
「よし、私と1on1だ」
 願ってもない誘いだった。アレックスは女子バスケ界でかなり優秀な人だったのだから。火神の師匠でもあるし。
「わかりました」
「まぁ、それ飲め。その間に準備してくる」
 オレがお茶を飲み終わると、アレックスがバスケットボールを手に、汚れてもいいようなラフな格好で出てきた。
「行くぞ! シゲ!」

 1on1は、やはり、というべきか、アレックスの圧勝だった。
「んー。及第点はやれるんだが……キセキの奴らと比べると物足りないな」
 オレはもう、キセキのヤツらと比べられても、悔しいとか、そういうことは……まぁちょっと思ったかな。
 それで、こう言った。
「アイツら、マジ化け物っすよ!」
「んー。まぁ、言いたいことはわかるな。あいつら見て、私も日本の高校バスケ見直したもんな」
「ぐっ……どうせオレはあいつらみたいな天才じゃねぇよ」
「拗ねるな。あいつらが凄過ぎるんだ。シゲも充分強いぞ。もっと磨けばな」
 ……そういえば、青峰も同じようなこと言ったことがあった気がする。いつだったか忘れてしまったが。
「オレ、青峰達にも特訓受けてたな」
「ほう……青峰と。あいつなら見かけたことがあったぞ。直接は話したことはないが、パソコンでは一度話したことあるし」
「アレックスのこと、変だって言ってました」
「なにぃ?! 私のどこが変だって?!」
 青峰の言葉はアレックスのお気に召さなかったらしい。ま、普通はそうだよな。
「で……でも、オッパイの大きいパツキン美女だとも言ってました」
 オレはついフォローに回った。
「おー、私が美女か。よし、青峰のことは許してやることにしよう」
 ……さっきは火神に対して嫉妬したけど、火神も実はものすごく大変だったんじゃないか?
「賭けバスケ……は、今のシゲには危険過ぎるな。タイガも苦戦してたしな。昔のことだけど」
 へぇ……火神が苦戦ねぇ。それじゃ、かなりハイレベルなとこなのかな。
「しばらくは私が面倒を見る。それでいいか?」
 オレはこくこくと頷いた。
 アレックスにバスケを教わることができるなんて、本望だ。嬉しい。
 オレ――バスケまた始めて良かったな。中学時代の友達にも連絡しないと。
 バスケを辞めたオレは、すごくどよ~んとしていた。暗いオーラを身にまとっていたんだそうだ。
 この間昔のダチどもに会った時すごく驚かれた。また明るくなったねって。
 オレからバスケを奪ったのもキセキの世代なら、オレをバスケで救ったのもキセキの世代だ。
 あいつらは、お前が自分を救ったんだって言うかもしれないけどな。
 自分を救えるのは、自分しかいないのかもしれないな。
「パス、パース! シゲ!」
 オレは我に返り、アレックスにボールを回した。
「よしっ! 見てろよ!」
 アレックスがダンクを放った。女なのにスゲー!
「すっげー!」
「はは……シゲもこのぐらいならやれるようになるさ」
「なれねぇよぉ」
「シゲ、スポーツは自信を持ってなんぼだ。下手な卑下だけはしないことだな」
「はい!」
 それから日が暮れるまで、オレ達は夢中でプレイをしていた。
「なかなか筋がいいじゃないか。日本のジュニアハイスクールではそこそこのプレイヤーだったんだろ?」
「はい!」
 オレは卑下することを辞めた。キセキの世代と比べてどうのとも、もはや思わない。アレックスと練習をして、かつての自分のように、強くなることだけを望んでいた。

後書き
久しぶり(?)の荻原君小説です。
荻原君についてはめいっぱい捏造しましたがねぇ。おかげで荻原君は愛着あるキャラになりました。
ちなみに私は英語は中一レベルしかありません。始めましての挨拶についての話はどこで聞いたんだったかな……。
アレックスさんも大好きです。中身も外見もいい女ですよね。
2015.7.13

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