アタシ達の愛の形

 アタシはアミダ・アルカ。名瀬・タービンの第一夫人。
 名瀬はタービンズのリーダー。タービンズはテイワズの下部組織。
 名瀬は有能ないい男なんだけどねぇ……。
 女好きで何人もの女と付き合ってるの。
 因みに、アタシは第一夫人と言ったわよね。ということ第二夫人、第三夫人もいるってわけ。
 でも、仕様がない。だって、名瀬はいい男だもの。一人の女じゃ満足しないわ。アタシはそういう彼に惚れたんだし。
 それに、名瀬の子供達は皆可愛いもの。子供達の面倒を見るのは楽しいわよ。子供を持っている母親ならわかるかもしれないけど。でも、アタシは名瀬がアタシ以外の女に産ませた子供も可愛いと思うの。
 名瀬はここを自分のハーレムだと言ってるけど。
 まぁ、名瀬の愛は大きいものね。名瀬に出会った女、全て彼にメロメロ。ラフタなんて名瀬のことを「ダーリン」なんて呼んでるし。――いいけどね。
 女をすぐにたらしこむところを除けば男らしい男でアタシはそんな彼に出会えたことに感謝してる。神様なんて信じちゃいないけど。
 そりゃ、新しい彼女を引っ張り込んだ時は怒るには怒るわよ。アタシだって。
 でも、すぐに慣れてしまう。アタシも甘いわね。でも、その女だって名瀬と同じくらいアタシのことを好きになってくれるってアタシは信じているからね。そうでない女とは名瀬の方から別れるだろうし。

 この間、名瀬は鉄華団のリーダー、オルガ・イツカと義兄弟の盃を交わした。
 日本にいるヤクザみたい……とアタシは思うんだけどねぇ。名瀬は日本人の血も入っているようだからねぇ。着物を着た名瀬はそりゃあ様になってたわ。写真もあるけど。
 オルガも名瀬が見込んだだけあってなかなかいい男よ。
 ただねぇ……。
 ちょっと話は変わるけど、この間アトラ・ミクスタとちょっと話をしたんだわ。
 まだ若いけどなかなか可愛い娘よ。ただねぇ……。
 え? ただねぇ、ばかり言ってるって? ごめんなさいね。
 アトラはいい女になるわ。そして、いい母親にも――。
 ただし、男選びさえ間違えなければ。
 え? アタシは間違えてないわよ。名瀬のことが世界で一番好きだもの。
 アトラは三日月・オーガスが好きなようよ。
 三日月・オーガス。
 確かに悪い男ではないわ。名瀬には負けるけど。このままいけばかなりな男になりそうよ。
 でも、彼を慕っているのはアトラだけじゃない。クーデリアもいるもの。
 クーデリア・藍那・バーンスタインはちょっとズレてるところもあるけど、美少女でお嬢様だし。アトラは彼女とも仲良くしているようだけど。アトラはいろんなことを彼女に教えているようよ。
 やはり、アトラはいい女。本来ならアタシだってアトラの恋を応援したいわよ。
 でも、三日月にはオルガがいる。
 三日月はオルガが好きで、オルガも三日月が好き。
 尤も、今はオルガにも気になる女性ができたようだけど。クーデリアと三日月も良い雰囲気みたいね。
 ――アトラはちょっと男選びを間違えたみたい。
 三日月は悪くないわ。でも、男が好きなんじゃねぇ……。
 アタシはふうっと溜息を吐く。心の中で。
 なかなか世の中上手くはいかないんじゃありませんこと? ねぇ、名瀬。
 オルガもいい男だけど、まだ女を知らないようだし。
 やっぱりアタシは名瀬がいい。ミステリアスだけど女性に囲まれて平然と笑っているあの人が。
 名瀬に……会いたくなったわ。
 今は戦争の最中だというのに、アタシものんきだこと。自分でもそう思うわ。けど――戦争の度におたおたしてたんじゃ名瀬の妻はやっていけない。
 ラフタだってああ見えてなかなかの女傑だし。
 アタシ達、鉄華団と手を結んで良かった……のよね。
 アタシも戦争では血が滾る方よ。だから名瀬に選んでもらえたのよね。
 アトラやクーデリアだって戦場には場違いに見えるけどなかなかどうしてどうして。彼女達、一本芯が通っているわ。
 何で三日月が好きかねぇ……。
 三日月……くりっとした目に意志の強そうな太い眉。固そうな黒髪。
 でも、彼の心はオルガの物。
 まぁ、男同士の世界というのは確かにあるし(義兄弟の盃を交わすなんてそれモンだし)、アタシもそれを認めているつもりだったけど……。
 三日月はオルガに恋している。オルガもそれを知ってて満更でもなさそうだし。三日月は両刀かもしれないけど。
 ああ、頭が痛い……。
 やっぱり、アトラは男選びを間違えたんじゃないかしら。世の中にはもっといい男がいるのよ。アタシには名瀬がいるけど。
 けれど、アトラにはやっぱり名瀬じゃない。名瀬とアトラなら、三日月とアトラの方がお似合いなくらいよ。
 お願い、三日月。いつか、いつかでいいからアトラを選んであげて。
 それとも、クーデリアと三日月を囲んで仲良く暮らすのかしら。アタシ達のように。――それでもいいかもしれないけれど。
 でも、それには三日月はオルガへの恋心を断ち切らなければならない。
 ああ、それとも、オルガも三日月のハーレムに加わるのかしら。
 ……それも面白そうね。アタシは舌なめずりをする。
 それほど三日月が魅力的かどうなのかちょっと疑問が残るけど。
 オルガだって独占欲強そうだし。メリビットという女と上手く収まればいいんだけど。
 三日月は三日月でオルガと戦場しか興味がなさそうだし。
 三日月はまだ子供だしね。アタシが言ってるのは体格のことではないわ。心のことよ。
 彼は成長阻害もしているしね。十代くらいなのは間違いないと思うけど。
 三日月は将来農場を経営したいという夢を持っていると小耳に挟んだんだけど。農場を経営するんだったら人手が多い方がいいわよねぇ……。
 アトラは問題なさそうだけど、問題はクーデリアよね。
 クーデリア……あの娘、フミタンがいないと何にもできなさそうだったから
 でも、肝は据わっているわ。
 何があったか知らないけれど、アタシには直接は関係ないわ。アタシは名瀬と一緒に戦場を駆け巡るだけだもの。
 そう。何も考えずに……。
 アタシも名瀬がいなかったらタービンズなんてとっくに辞めてたけど。やっぱりアタシも愛に生きる女なのよ。ラフタ達のように。
 名瀬の子供達もいつか戦場で戦うことになるのかしら……。
 それを考えるとアタシの心は痛む。
 アタシはいいのよ。自分の意志で名瀬と一緒に生きることを選んだんだから。
 でも――名瀬の子供達が戦うとなるとこれはまた話は別で……。
 ほら、アタシ、名瀬の子供達のお母さんでしょ? あの子達からは『大きなお母さん』と呼ばれてるし。やっぱり守ってあげたいじゃない。自分の子供じゃなくても。
 今はいいわよ。今はね。
 だけど、名瀬の子供達が一人でも死んでしまったら悲しいと思うの。当然泣くわ。
 ……あなたの経営する農場に名瀬の子供達を雇ってください、て三日月に頼もうかしら。――本気でそう考えたこともあったわ。
 三日月なら優しく笑って、
「いいよ」
 と、答えるかもしれないけれど。
 名瀬は……どう出るかわからないわね。名瀬の第一夫人と呼ばれたって、彼のこと全てはわからないもの。名瀬は時々突拍子もないことするもの。
 ――そんな男だから惚れたんだけどね。
 名瀬の愛は大きい。大きくてアタシには受け止め切れない。アタシは妻失格なのかもしれないけれど。
 でも、アタシだってモテるもんねぇ。でも、アタシには名瀬しかいない。
 ラフタも以前言ってたわ。
「あたしにはダーリンしかいないわ」
 ――って。
 アタシも同意見だわ。アタシはラフタと頷き合って、二人で笑ってしまった。
 いい思い出。いつか名瀬ともそんな話をすることがあるのかしら。
 その時は共白髪だと嬉しいわね。そんなに長生きできるかわからないけれど。
 名瀬もアタシも未来のことはわからないしねぇ。危険と隣り合わせの仕事をしているから。名瀬はアタシ達のことを守ってくれているけれど。
 だから、アタシ達も名瀬を守る。
 オルガや三日月が鉄華団を守るように。――ちょっと違うかな。あっちはお子様だしねぇ。
 三日月達も将来いい男になるといいんだけど。
 名瀬みたいじゃなくて結構。名瀬はこの世で一人しかいないんだし。
 それぞれに上手く育ってそれぞれに納得の行く道を進んで欲しい。
 ――あら、つい語ってしまったわね。やっぱり、なんだかんだ言ってあの子達も可愛いのよ、アタシ。姐さんと呼ばれることもあるけど、やっぱりその名に恥じないようにしたいわ。
 鉄華団のみんなも死ぬんじゃないよ!
 タービンズがアタシの家族であるように、鉄華団もオルガの家族なんだから。オルガが言ってたもの。
 皆、戦争如きで命落とすんじゃないよ! 絶対笑って帰ってくんだよ!

後書き
アミダ姐さん、いいオンナだと思います!
今日の最後のチューシーン、私も驚きました! オルミカファンの方はどう思っているのでしょうね。
この小説は鉄血のオルフェンズの存在を教えてくださった風魔の杏里さんに捧げます。
2015.12.27


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